COVID-19危機からの回復に向けた政策が必要
 ―雇用見通し

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  • 国別労働トピック:2021年8月

OECD(経済協力開発機構)は2021年7月、「雇用見通し2021:新型コロナウイルス危機と回復への道のり(OECD Employment Outlook 2021 : Navigating the COVID-19 Crisis and Recovery)」を発表した。OECDは本報告書において、新型コロナウイルス感染症が労働市場に与えた打撃から完全に回復するには時間を要するため、企業や労働者に対して的を絞った継続的な支援が必要であると指摘している。以下、報告書の概要を紹介する。

労働市場への影響は未だ続いている

新型コロナウイルス危機の開始から1年以上が経過した現在も、労働時間や失業率は危機前の水準に戻っていない。データ入手可能国(注1)の平均では、2020年3月から4月のわずか1カ月間で労働時間が20%近く減少した。労働時間の減少幅は同年第3四半期に多くの国で著しく回復したが、第4四半期には封じ込め措置に伴い減少幅は再び拡大した。2021年3月の労働時間はデータ入手可能国の平均で、危機以前の水準を7%下回った。

OECD諸国全体の失業率は、パンデミック開始からわずか1カ月後の2020年4月に8.8%(前月比3ポイント上昇)となった。この最初の失業率上昇分の一部は、2020年第3四半期に、主に一時解雇されていた人々の職場復帰によって吸収されたが、それ以降は新たな感染の波やそれに伴う封じ込め措置により、回復が停滞している。2021年5月の失業率は6.6%であり、2020年2月より800万人以上多い4350万人が失業していた。さらに、多くの人々が再び常用雇用されるには至っていないため、長期失業者(12カ月以上失業している人)が急増する恐れがある。既に2020年第4四半期には、6カ月以上失業している人が前年同期比で60%増加している。

コロナ危機が労働市場に与えた影響は、各国の政策によって大きく異なる。アメリカやカナダでは広範囲にわたる一時的な解雇により失業者数が急増したが、他のOECD諸国では雇用維持スキームを利用した労働時間の短縮が失業者の増加を抑制した。2020年第2四半期にOECD諸国全体で減少した労働時間の4分の3近くは、人員削減ではなく労働時間の短縮に起因するものであった。

危機の影響は脆弱な立場の人々に最も顕著

若者や低学歴者、低賃金労働者、非標準雇用労働者などの脆弱な立場にある人々は、コロナ危機の影響を特に受けている。OECD諸国における若者(15~24歳)の失業率は、2020年2月の11.5%から4月には19%に急上昇した。これは同期間の25歳以上の失業率の2倍以上の上昇であった。2021年5月の若者の失業率は13.6%と徐々に回復しているが、パンデミック前の水準を依然として2.2ポイント上回っている。多くの若者が失業したことに加え、学業を卒業した若者が労働市場に参入できなかった結果、OECD諸国全体で15~29歳のニート(就学・就労しておらず、職業訓練も受けていない人)の割合がパンデミック開始時に増加した。OECD諸国平均のニート率は2020年末に12%となり、前年を1ポイント上回る状態が続いた。

2020年第2四半期のOECD諸国全体の労働時間は前年に比べ、若者で26%超(25歳以上の中高年層は15%)、低賃金労働者で28%(高賃金労働者は約10%)、低学歴者(前期中等教育修了以下の人)で24%(高学歴者は8.5%)減少した。また、こうした脆弱な立場にある人々の労働時間減少の要因の多くが、失業によるものであった。一方、高学歴者では、減少した労働時間のほぼすべてが(雇用維持スキーム等を活用した)一時的な労働時間の短縮によるものであった。その結果、2020年第3四半期には、労働時間を一時的に短縮して働いた人々の多くが復職できたが、低学歴者の回復は限定的なものにとどまった。同様に、労働時間の減少に占める一時的な労働時間短縮の割合は、25歳未満の若者は40%超であったが、25歳以上の中高年層では80%近くに達した。

また、テレワークはコロナ危機以前から主に高学歴・高所得の労働者を中心に広がっていたが、こうした不均衡はパンデミックのもとで拡大した。9カ国(注2)で収集された調査データによると、2020年4月にテレワークができた労働者の割合は、大卒以上の資格を持つ者は平均55%であったのに対し、高卒資格のない者は19%にとどまった。また、所得階層(四分位)別に見ても同様のパターンが見られ、最高所得層(第4分位)の50%はテレワークができたのに対し、最低所得層(第1分位)では約29%にすぎなかった。

回復のスピードは各国間で大きな差

コロナ危機による経済的打撃の大きさや復興のスピードは、各国間で大きな差がある。2021年5月の失業率は、2020年2月に比べ4ポイント以上高い国々(コロンビア、コスタリカなど)がある一方で、パンデミック前の水準に回復した国々(オーストラリア、フランスなど)もある。

また、就業率がパンデミック前の水準に戻るまでには、多くの国で数年が必要と予測される()。アメリカは主に一時的な解雇や失業給付金でコロナ危機に対応したため、就業率が2020年第2四半期に前年第4四半期に比べ約9ポイント低下した(OECD諸国平均では5ポイント低下)。アメリカの就業率はその後回復しているものの、OECD諸国平均に遅れを取っており、2023年までにパンデミック前の水準を回復できない可能性がある。

日本ではコロナ危機以降、就業率の大幅な低下は押さえられている。第3波(2021年1月頃)と第4波(2021年4月から5月頃)が大規模に発生したにもかかわらず、2021年第2四半期までに就業率は危機以前の水準に回復すると見られる。一方、失業率は2019年平均の2.4%に対し、2021年5月は3%となった。失業率は低いものの回復ペースが遅いため、2022年第4四半期になってもパンデミック前の水準には戻らないと予測される。

図:就業率がパンデミック前の水準に回復する時期(予測)
画像:図
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  • 注:パンデミック前のベースライン水準は、2019年第4四半期の平均値。
  • 出所:OECD(2021)

的を絞った継続的な支援が必要

1) 対象を絞った雇用維持スキーム

OECD諸国における雇用維持スキームの平均利用率は、2020年4月に雇用全体の約20%というかつてない水準に達し、同スキームによって金融危機時の10倍以上にあたる6,000万人の雇用が支えられた。

今後は、社会的距離(感染予防のための物理的な距離)の制約による影響が依然として深刻である産業に対しては雇用維持スキーム支援を継続しなければならない一方で、経済活動が再開している産業に対しては回復を促進するよう、スキームの設計内容を調整する必要がある。

2) 労働者のスキルアップと再訓練

コロナ危機後も少子高齢化や気候変動などのメガトレンドは、雇用動向を形成する上で依然として重要な役割を果たすと予想され、医療やグリーン経済に関連する産業の労働者の需要を押し上げ、新技術のさらなる導入に拍車をかける可能性が高い。暫定的な証拠によると、企業は自動化やデジタル化、医療や環境分野の専門家に対する需要の増加など、既存の動向を加速させる方法で構造改革を行っている。今後、各国政府は、パンデミックで最も大きな被害を受け、耐久性のある質の高い仕事に就くために最も苦労すると予想される労働者のスキルアップと再訓練を優先する必要がある。

3) 積極的労働市場政策の実施

OECD諸国の約3分の2が失業者の急増に対処するため、2020年に公共職業安定所の予算を増やし、半数は2021年も同様に予算を増やす計画を立てている。利害関係者と密接に連携すること、柔軟性のある積極的労働市場政策を実施することが重要である。また、離職者を支え、若者や女性、低技能労働者、健康問題や障害のある労働者、労働市場から著しく疎遠になっている人々などの脆弱層を支援するための訓練プログラムや就労奨励策が、バランスの取れた回復を実現する上で不可欠となる。

参考資料

  • OECD資料 OECD Employment Outlook 2021 : Navigating the COVID-19 Crisis and Recovery
  • OECD資料 OECD Employment Outlook 2021 : Navigating the COVID-19 Crisis and Recovery, HOW DOES JAPAN COMPARE? / HOW DOES THE UNITED STATES COMPARE?
  • OECD(7/7/2021)Jobs must be at heart of recovery to avoid deep scars in economy and society, says OECD

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