EUにおけるドイツの最低賃金の水準
 ―WSI報告

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2021年8月

ハンスベックラー財団経済社会研究所(WSI)は、EUにおけるドイツの最低賃金水準を分析した結果を発表した。それによると、ドイツの最低賃金は、国内の労働者全体の賃金の中央値を100とした場合、48.2にとどまり、EU21カ国中14位であることが明らかになった。

今後2年で段階的な引き上げ

ドイツの法定最低賃金は2021年1月1日に引き上げられ、現在は時給9.50ユーロとなっている。今後7月1日から9.60ユーロ、2022年1月1日から9.82ユーロ、同7月1日から10.45ユーロへの段階的な引き上げが決定している。

この時給9.50ユーロという額は、ルクセンブルク、オランダ、フランス等よりも低い(図1)。また、賃金の中央値に対する割合は、48.2%で(図2)、調査対象のEU21カ国中14位であった。

図1:1時間当たりの法定最低賃金 (単位:ユーロ)
画像:図1

  • 出所:Lübker, Schulten / WSI (2021)

図2:賃金の中央値に対する法定最低賃金の割合(単位:%)
画像:図2

  • 出所:Lübker, Schulten / WSI (2021)

背景にEU最低賃金指令案

WSIが行ったこのような分析の背景には、欧州委員会が昨年10月に発表した「域内における最低賃金額の適正化をはかる指令案」がある。指令案では、各国の最低賃金水準の低さや、適用対象から除外されている労働者などへの対応を目的に、ディーセント(適正)な生活を可能とする最低賃金額の設定や、その根拠となる基準、また労使の参加などが求めてられている。同指令案によれば、最低賃金の適正な水準の目処は、「賃金の中央値の少なくとも60%、または、平均賃金の50%」とされる。しかし、域内の多くの労働者は適正な最低賃金による保護を受けておらず、法定最低賃金制度を有する多くの国でも、近年上昇傾向にはあるものの依然として低水準で、ディーセントな生活を提供できていない。WSIによると、ドイツの場合、賃金の中央値の60%に相当する額は時給12ユーロであり、現在の時給9.50ユーロとはかなり差がある。仮に最低賃金が時給12ユーロに設定された場合、ドイツでは推計で約680万人がその恩恵を受ける。

また、同指令案は、労働協約を重視しており、協約の適用率が労働者の70%を下回る加盟国については、労使交渉の実施に関する環境整備を法的あるいは労使協定により行うことなどを求めている。労働市場・職業研究所(IAB)の統計によると、ドイツで労働協約の恩恵を受ける労働者は、現在52%となっており、同指令案が成立した場合、今後何らかの行動計画を策定する必要が生じることも考えられる。

参考資料

  • WSI-Mindestlohnbericht 2021, BMAS, Europäische Kommission (2020):Vorschlag für eine Richtlinie des Europäischen Parlaments und des Rates über angemessene Mindestlöhne in der Europäischen Union, COM(2020) 682 final, Brüssel.

参考レート

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