デジタル労働プラットフォームの成長と規制の必要性

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  • 国別労働トピック:2021年7月

国際労働機関(ILO) は2021年2月、「世界の雇用及び社会の見通し2021年版:変容する仕事の世界におけるデジタル労働プラットフォームの役割(World employment and social outlook 2021: The role of digital labour platforms in transforming the world of work)」を発表した。この報告書では、ILOが2017年から2020年に行った複数の調査をもとに、世界100か国の対象分野で働く約12,000人の労働者のデータをまとめ、顧客と労働者を仲介するデジタル労働プラットフォームの現状と課題を示している。以下で主な内容を紹介する。

プラットフォームとプラットフォーム労働者の特徴

労働者と顧客や消費者を仲介するデジタル労働プラットフォームは、主に「インターネット基盤型(オンラインベース)」と「活動地点基盤型(ロケーションベース)」の2つに分けられる。

インターネット基盤型では、労働者が顧客のタスクをオンラインで引き受けサービスを提供する。プラットフォームには、翻訳、データ分析などのスキルを持つ労働者と顧客をマッチングするフリーランスプラットフォーム、デザインなどを中心としたコンテストベースプラットフォーム、複雑なプログラミング等を指定時間内に解決する競技プログラミングプラットフォーム、短時間かつ単純な課題に特化したマイクロタスクプラットフォームなどの種類がある。

これに対して活動地点基盤型には、乗客と運転手をマッチングするタクシー配車サービス、料理や日用品を配達するデリバリープラットフォームなどがある。本報告書では、アラブ諸国、アフリカ、アジア、太平洋、東欧、ラテンアメリカ、カリブ地域において、従来の形態もしくはアプリベースでタクシーやデリバリーのサービスを提供する労働者が調査対象となっている。

インターネット基盤型と活動地点基盤型のいずれも、労働者の大半は35歳以下の若年者であった。男性が多く、女性の割合はインターネット基盤型では4割程度、活動地点基盤型では1割未満であった。

また、インターネット基盤型では約3分の1の労働者がプラットフォーム労働を主な収入源としていた。活動地点基盤型では、圧倒的多数の労働者(従来の形態およびアプリベースの合計では、タクシー労働者の84%、デリバリー労働者の90%)がプラットフォーム労働を主な収入源としていた。

過去10年間で約5倍に成長

デジタル労働プラットフォームは、最近10年間で急速に成長した。世界におけるインターネット基盤型および活動地点基盤型プラットフォームの数は、2010年には142であったが、2021年1月時点で少なくとも777まで増加した。2010年から2020年までにインターネット基盤型は3倍、活動地点基盤型は10倍近くに成長している。

多くのプラットフォームがデータを公開していないため、労働者数を推定することは難しいが、プラットフォーム労働者は供給過多の傾向にあり、仕事を得るための競争が激化し、作業単価に下押し圧力がかかっているとILOは指摘する。

主なインターネット基盤型プラットフォームに掲載された仕事の数と登録労働者数(アクティブなアカウント以外も含む)を比較すると、COVID-19パンデミック期間中も含めて需要と供給の両方が増加しているものの、供給が需要よりも急速に増加している(図1)。

図1:主要なインターネット基盤型における労働需給の推移(2017-2020)
画像:図1
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  • 注:労働供給は4つのプラットフォーム(Fiverr,Freelancer,Guru,PeoplePenHour)から、労働需要は5つのプラットフォーム(Freelancer,Guru,AMT,PeoplePerHour,Upwork)のデータを使用。データは24時間ごとに取得。
  • 資料出所:ILO(2021)

COVID-19 の影響 ―途上国のタクシー労働者の9割が収入減

インターネット基盤型プラットフォームはパンデミック下でも成長を続けており、一部のデリバリー労働者は仕事が増加したと回答した。一方で、タクシーおよび大部分のデリバリー労働者はCOVID-19 によって深刻なダメージを受けた。アプリベースのタクシーおよびデリバリー労働者、従来の形態のタクシーおよびデリバリー労働者を対象に行ったCOVID-19の災害時迅速評価調査(注1)では、調査時に就業可能であった労働者のうち、約90%のタクシー労働者と約70%のデリバリー労働者が収入の減少を報告した。

投資と収益の世界的な分布は地理的に不均等

デジタルプラットフォーム投資の96%はアジア、北米、ヨーロッパが占めており、収益の約7割が米国と中国の2カ国に集中している。特に、インターネット基盤型では、先進国の仕事を発展途上国(インド、フィリピン、ウクライナなど)の労働者が相対的に安価で引き受けている。このような状況は、デジタルインフラが強靭ではない発展途上国の中小企業の事業活動を妨げ、経済的な不平等を拡大するおそれがある。また、一部のプラットフォームでは、特定の発展途上国在住の労働者に対してアカウントを開設させず排除し、より条件の良い仕事を先進国在住の労働者に提供するという恣意的な行動が報告されている。

活動地点基盤型で深刻な長時間労働

インターネット基盤型の労働者の週平均労働時間は27時間であったが、そのうち約3分の1にあたる8時間は無給労働に従事していた。半数程度の労働者の週平均労働時間は約20時間だったが、約20%は40時間以上であった。

インターネット基盤型のうち約半数の労働者は他の仕事と兼業していた。これらの労働者は他の仕事に週平均で28時間従事し、さらにプラットフォームでは週平均26時間働いていた。途上国の労働者はオンラインでの労働を主な収入源としている割合が高く、週平均労働時間は32時間であった(先進国は同20時間)。また、仕事が多く提供されるアメリカの就業時間に合わせて働く労働者も多く、特にマイクロタスクプラットフォームでは53%の労働者が途上国で夜間に労働していた。

活動地点基盤型では長時間労働が深刻になっている。従来の形態のタクシー労働者とデリバリー労働者の週平均労働時間は70時間と57時間、アプリベースでは65時間と59時間であった。タクシー労働者の41%、デリバリー労働者の38%は週7日間働いていた。さらに28%のアプリベースのタクシー労働者は12時間以上、同デリバリー労働者の半数は10時間以上勤務する日が週3日以上あると回答した。

活動地点基盤型では、プラットフォームが提示するボーナスやインセンティブなどでより多く稼げる可能性や、顧客や注文を失うおそれが、労働者に長時間や休憩なしの労働を動機づけている。また、一部のプラットフォームでは、労働者の休憩時間がアルゴリズムによって秒単位で管理され、長時間オフラインにしていると罰金を科されるといった事例も報告されている。

業務上の安全、健康、社会保障の現状と保護の必要性

活動地点基盤型プラットフォームの業務は安全や健康面でのリスクが高く、アプリベースのタクシー労働者の約10%とデリバリー労働者の約21%が業務上のけがや事故の経験があると回答した。しかしアプリベースのタクシーとデリバリー労働に従事している労働者のうち健康保険に加入している労働者は約半数であり、失業保険に加入している労働者は10%未満であった。公的もしくは私的な年金制度には20%程度の労働者が加入していた。業務災害保険に加入しているアプリベースのタクシー労働者は27%、デリバリー労働者は31%であった。障害保険に加入しているアプリベースのタクシー労働者は4%、デリバリー労働者は6%のみであった(表1)。

表1:タクシーおよびデリバリー分野の保険加入率 (%)
画像:表1
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  • 資料出所:ILO(2021)

労働者の自律性と不透明なアルゴリズム

デジタル労働プラットフォームでは、労働者はアルゴリズムに基づいて管理され、顧客からの評価によって自らの評価が左右される。プラットフォームは、一定の値より評価が低くなった場合には、労働者の仕事を拒否したりアカウントを無効化したりするが、顧客の評価がすべて公正かつ透明性が高いとは限らない。インターネット基盤型では、マイクロタスク労働者の86%とフリーランス労働者の34%が顧客から仕事をキャンセルされた経験があったが、そのうち半数近くの労働者はそれが正当ではなかったと考えていた。

活動地点基盤型では、交通渋滞や飲食店による注文の遅れなど労働者が統制できない要因が低評価に反映される。アカウント停止を経験した労働者の割合は、アプリベースのタクシーで19%、デリバリーで15%であった。停止理由は低評価、仕事の不承諾、休暇、顧客からの苦情などであった。アカウント停止の期間は1週間が最も多かったが、一部のプラットフォームでは永久停止処分も行われている。

また、インターネット基盤型では、一部のプラットフォームや顧客が、労働者に対して特定の時間帯の勤務やソフトウェアのインストールを要求するなど、勤務態度や勤務時間を監視している事例もある。活動地点基盤型では、労働者が仕事のキャンセルを行うと低評価と今後の仕事の減少につながってしまう。このように、プラットフォームは労働者の自律性を制限していると指摘されている。

団体交渉権の欠如

プラットフォーム労働者の団体交渉権の欠如が大きな問題となっている。日本、カナダ、アイルランド、スペインなど一部の国は特定のカテゴリーの従属的自営業者に例外を導入して団体交渉権を認めてはいるものの、多くの国が被雇用者ではない自営業者の団体交渉を禁止している。ILOは、プラットフォーム労働者の労働条件に関する諸問題を解決するために団体交渉と結社の自由を政策として推進するよう求めている。EUでは現在その議論が行われており、ドイツ、イタリア、スペインなどの加盟国はある程度の団体交渉権を承認する見込みである。

ILOは、プラットフォーム労働者が被雇用者であるかどうかを問わず労働者としての権利と社会的保護の恩恵を享受すべきであると主張する。プラットフォーム労働者に対してもILOが推進する「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を提供するべきであり、そのためには、プラットフォームおよびプラットフォーム労働者、政府によるソーシャル・ダイアログの促進や政策の推進、規制の強化によって対応していく必要があると述べている。

参考資料

  • ILOホームページ新しいウィンドウ
  • ILO資料 World Employment and Social Outlook 2021 The role of digital labour platforms in transforming the world of work
  • ILO駐日事務所ホームページ新しいウィンドウ
  • ILO駐日事務所 (23/02/2021) 新刊発表 ILO新刊:デジタル経済の急成長によって要請される整合性ある政策対応

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