コロナ禍による在宅勤務の影響に関する報告書

カテゴリー:多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2021年4月

シンクタンクCIPD(Chartered Institute of Personnel and Development)は、新型コロナウイルスの影響で拡大した柔軟な働き方について、特に在宅勤務に焦点を当てた企業等調査の結果をまとめた。国内のロックダウンに伴って、選択の余地なく広範に実施されることとなった在宅勤務の影響をめぐっては、雇用主の間でも評価が分かれるものの、多くの組織が、今後も在宅勤務の導入、拡大を予定しているとみられる。

3分の1の組織が生産性向上を報告

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、イギリスでは数度のロックダウンが実施され、政府は可能な限り在宅での就業を奨励した。在宅勤務自体は、従来から従業員の厚生の向上や、オフィス賃料の削減などを目的として実施されてはいたものの、ロックダウンの影響により、多くの組織が望むと望まざるとにかかわらず在宅勤務を実施することとなった。CIPDの企業等調査によれば、およそ3分の1(33%)の組織が、在宅勤務の実施による生産性の向上を報告する一方、23%は逆に生産性が低下したとしている。

在宅勤務の実施によるメリットに関する回答として最も多かったのは、通勤の回避(46%)や労働時間の柔軟化(39%)を通じた従業員の厚生の向上である。また、ITツールを使った従業員間の新たな協力(34%)や、ITに関する能力の向上(23%)も、メリットとして挙げる組織が多く見られた。加えて、業務の妨げとなるものが減少した、との回答も33%にのぼっている。

4割強で従業員の孤立が課題に

一方、課題として挙げられたものは、在宅就業に伴う従業員の孤立(44%)や、そもそも職務内容が在宅就業に向いていない(36%)、自宅が在宅就業に向いていない(31%)、技術面の不十分さ(15%)あるいは古さ(15%)、従業員の情報技術に関する知識不足(14%)、など。さらに、仕事関連の要因として、従業員間の交流や協力の難しさ(26%)、従業員の取り組み意識の不足(19%)、ラインマネージャーによる在宅就業者の管理能力の不足(19%)や従業員のパフォーマンスの管理能力の不足(18%)、などが挙げられている。

今後について、回答者の63%が在宅勤務と職場での勤務を併用した働き方の導入・拡大を計画しているとしている。また45%は、週5日間の完全在宅勤務の導入や拡大の意向を示している。ただし、現業部門(operational business units)は、実行可能性の点から完全在宅勤務の導入にはより慎重な傾向にあるという。

なお、在宅勤務拡大に向けた取り組みとして、45%が人事方針の改定を、また4割前後が技術面での向上や、オンラインのガイダンスの改善を挙げている。さらに、48%がフレックス勤務の導入を予定しているとしており、大半がその理由として、在宅勤務が可能な従業員とそうではない従業員の間の公正をはかるため、と回答している。

報告書は、在宅勤務を含む柔軟な働き方の推進にあたっての提言として、大きく3点を挙げている。一つは、在宅勤務をより生産的なものとするための訓練や支援の提供である。CIPDは、在宅勤務と職場での勤務の併用を推奨する一方、週5日の完全在宅勤務は生産性や習得に悪影響が生じる可能性があるとして、その実施には管理者の訓練や雇用慣行の変化を要する、としている。

二つ目に、就業場所だけでなく時間の柔軟性も可能とするような、職務の再編を積極的に検討することである。とりわけ、在宅勤務ができない従業員を中心に考える必要がある。その際、個別の従業員からの柔軟な勤務の申請を待つよりも、チームによるアプローチを行う方が、よい結果を生む場合が多いと考えられる。

三つ目に、異なる業種や職務に応じた柔軟な働き方のビジネス上の利益に関する評価を行うことである。特に、柔軟な働き方が困難な業種や職務におけるビジネス上の利益について、政府と雇用主が共同で評価にあたる必要がある。

参考資料

  • CIPD “Flexible working: lessons from the pandemic”

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