緩和的金融政策・財政政策が引き続き必要
 ―OECD経済見通し中間報告

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  • 国別労働トピック:2021年4月

OECD(経済協力開発機構)は2021年3月、「OECD経済見通し中間報告-回復の強化:スピードの必要性(OECD Economic Outlook, Interim Report. Strengthening the recovery: The need for speed)」を発表した。以下、報告の概要を紹介する。

経済の回復は予測より早いが、地域間で差異が顕著

2020年後半は多くの国で新たな変異ウイルスが発生し、封じ込め措置が強化されたものの、経済は予測よりも速く回復している。しかし、そのペースには地域間で著しいばらつきが見られる。中国、インド、トルコ等の新興国では回復が比較的速く、強力な財政措置と製造業・建設業の回復に伴い、GDP成長率はパンデミック前の水準を上回った。また、オーストラリア、日本、韓国を含む多くのアジア太平洋諸国では、強力かつ効果的な封じ込め措置や政府の支援、製造業における広範な復興を反映して、GDPの損失は比較的軽度だった。一方、アメリカでは強力な刺激策と財政状態の改善によりGDPが上昇したが、2020年末には勢いが鈍化した。ヨーロッパ先進国では変異ウイルスの拡大とサービス業における労働時間短縮に伴う長期的な混乱を反映し、回復のペースは緩やかとなった。

労働市場は徐々に回復しているが、産業・労働者属性による格差も存在

労働市場の状況は徐々に回復しており、ヨーロッパや日本では短時間労働スキームや賃金補助等の雇用維持策が引き続き役立っている。しかし、OECD諸国全体で危機前よりも約1,000万人が失業し、就業率の低下と非経済活動人口比率の上昇が進んだ。発展途上国では数百万人の労働者が失業し、貧困が拡大している。多くの先進国では総労働時間が危機前よりも平均して約5%低下した(図1)。減少は主に、レジャー、ホスピタリティ、輸送、小売および卸売業等のサービス業に集中している。これらの産業はほとんどの国で雇用の20〜30%を占めており、ワクチンが迅速に配備されて封じ込め措置が大幅に緩和されない限り、依然として不安定な状況である。さらに、女性、若者、低所得労働者の多くは、これらの産業で働いており、特にリスクにさらされている。

図1:2020年第2四半期以降の総労働時間の推移(2019年第4四半期比、%)
画像:図1

  • 注:左からスペイン、フランス、カナダ、イタリア、イギリス、ユーロ圏、アメリカ、ドイツ、オーストラリア、日本。
  • 出所:OECD(2021)

今後の見通しは改善されたが、地域間で差異

世界全体のGDP成長率は基本予測の場合、2021年は5.6%、2022年は4.0%になると予測される(注1)。これは2020年12月の予測よりも回復が速く、2020年後半の強力な経済活動による勢い、ワクチン有効性の証拠の増加、多くの国(特にアメリカ)で今年実施された追加の政策支援による需要の刺激を反映している。世界全体のGDPは2021年半ばまでに危機前の水準を超えると予測されるが、先進国と新興国および広範囲な地域間で、短期的には著しい成長の不均衡が持続する可能性がある。

多くのアジア太平洋諸国ではパンデミックとその余波による経済的影響は限定的で、日本やインドが実施した追加の財政支援も回復に役立つと見られる。アメリカでは強力な財政支援が需要を大幅に強化し、パンデミックからのより強力な回復を可能にする見込みである。ヨーロッパ主要経済国では2021年初頭の継続的な封じ込め措置とより限定的な財政支援を反映して、緩やかな回復が予測される。中南米やアフリカ等の新興国では新たな変異ウイルスの出現に直面しているうえに、ワクチン展開のペースが遅く、追加の政策支援の範囲が限られているため、回復が鈍化する可能性がある。

緩和的金融政策および財政政策が必要

重要な金融・財政支援が、引き続き経済活動を支えている。アメリカ、日本、ドイツ、カナダ、インドを含むいくつかの国で、過去3か月間に追加の財政措置が発表された。また、多くの国は既存の所得支援スキームの拡張や再導入を計画している。ヨーロッパでは次世代復興基金からの支出が今年後半に開始予定だが、今年の財政刺激策の合計はユーロ圏GDPの約1%と比較的穏やかになる見込みだ。アメリカの今年の財政支援策「米国救済計画(アメリカン・レスキュー・プラン)」には最大1兆9,000億ドル(GDPの約8.5%相当)が投入される計画で、他国よりもかなり規模が大きい(図2)。この支援策はかなり大きな刺激を提供することとなり、施行後1年間のアメリカの総需要を平均3〜4%上昇させる可能性があることに加え、日本を含む主要な貿易相手国(特にカナダ、メキシコ)の経済活動に波及効果が見込まれる。一方、中国を含む一部の新興国では、今年は財政政策が引き締められる可能性がある。

図2:各国の財政支援(GDPに占める割合、%)
画像:図2

  • 出所:OECD(2021)

主要先進国では、緩和的な金融政策および財政政策を維持すべきである。同時に、初期段階で実施された経済全体への広範な支援は、回復が進むにつれて最も打撃を受けた産業へより的を絞った支援にする必要がある。

ワクチンの迅速な生産・展開、構造改革も重要

疫学的・経済的に重要な優先事項は、成人へのワクチンを可能な限り迅速に生産・展開することである。また、検査・感染経路・追跡・隔離プログラムを可能にする十分なリソースを提供することで、タイムリーで的を絞った局所的な対策を使用して感染拡大を制限できる。

また、景気回復の牽引力を高めるために、すべての国で強力な構造改革の取り組みが必要である。今回の危機はある程度、労働力と資本の再配分を必要とする可能性がある。物理的な距離とそれに関連する消費者の嗜好の変化によって最も影響を受ける一部の産業は、危機後、恒久的に縮小する可能性がある。また、在宅勤務への永続的なシフト、出張の削減、eコマースを含むサービスのデジタル配信の増加も、利用可能な仕事の組み合わせや職場を変化させる可能性がある。こうした潜在的な変化は、長期にわたる低成長、成果や機会へのアクセスの不平等の拡大、デジタル化と気候変動への適応の必要性等、パンデミック前から存在していた長年の課題を浮き彫りにすることとなる。

参考資料

  • OECD資料 OECD Economic Outlook, Interim Report. Strengthening the recovery: The need for speed
  • OECD(09/03/2021)The need for speed: faster vaccine rollout critical to stronger recovery
  • OECD(09/03/2021)Strengthening the recovery: The need for speed, OECD Economic Outlook, Interim Report March 2021

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