雇用の減少及び、財政政策の効果を分析
 ―ILO緊急報告

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  • 国別労働トピック:2020年11月

ILO(国際労働機関)は2020年9月、「ILOモニター:新型コロナウイルスと仕事の世界第6版(ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. Sixth edition)」を発表した。 ILOは本報告において、これまで発表してきた推定労働時間減少率を更新し、雇用の減少及び財政政策と労働時間損失の関係を分析している。以下、報告の概要を紹介する。

労働時間及び所得の減少

新型コロナウイルス危機以前と比較した、2020年第1四半期の世界の労働時間の減少率は前回推計値の5.4%から5.6%へ、第2四半期は前回推定値の14.0%から17.3%へと修正された。また、本報告で初めて発表された第3四半期の労働時間減少率は12.1%と推定されており、これは3億4500万人分のフルタイム換算の仕事(週48時間労働を想定)の減少に相当する。第4四半期の労働時間減少率の予測は、前回の予測値4.9%から大幅に修正された。ベースライン・シナリオ(注1)では、世界の労働時間減少率は2020年第4四半期に8.6%に達すると予想され、これは2億4500万人分のフルタイム換算の仕事の減少に相当する。

こうした労働時間の損失は、世界中の労働者の所得の大幅な減少を意味する。2020年第1~3四半期の世界全体の労働所得は危機前と比較して、10.7%減少したと見られる。所得グループ別に見ると、下位中所得国で15.1%と下落幅が大きく、次に、上位中所得国で11.4%、低所得国で10.1%減少したと推定される。合計すると、2020年第1~3四半期における世界の労働所得の損失は3.5兆ドルに達する。労働所得損失の総和には、労働者間でかなり差が見られる。公式経済の雇用労働者は社会保障や、その他公的機関による労働所得損失の打撃を緩和する措置の恩恵を最も受けやすいため、彼らの純所得損失は小さくなる。一方、世界の労働者の60%を占める非公式経済で働く労働者は、社会的保護の仕組みによる保護を受けられる可能性が低いため、新型コロナウイルス危機において所得の損失と貧困に対して特に脆弱である。

雇用の減少 ―特に女性に顕著、非求職者の増大

最新の労働力調査によれば、国によってかなり差があるものの、2020年第2四半期の雇用が前年に比べて大幅に減少している。雇用の相対的な減少は、一部の例外(フランス、イスラエル、メキシコなど)を除くすべての国で男性よりも女性の方が大きい(図1)。例えば、アメリカでは男性の雇用減少率が11.4%なのに対し女性は13.4%と高く、日本でも男性の1.0%に対し、女性は1.3%と高かった。

図1:2019年第1四半期から2020年第2四半期までの雇用の減少率 (%)
画像:図1

出所:ILO(2020)

また、2020年第2四半期の雇用の減少は、アメリカとカナダを除く全ての国で、失業者よりも非求職者が増えたことに起因する。非求職者を労働市場に再度参加させることは、失業者を再度雇用することよりもさらに難しく、非求職者の増加は雇用回復をより困難にする可能性が高い。新型コロナウイルス危機によって特に大きな打撃を受けている若年者と高齢者は通常、非求職者になるリスクが高いため、長期的に労働市場で不利な状況に直面する危険性がある。

大規模な財政政策が必要

新型コロナウイルスの影響による大規模な労働市場の混乱に対応して、各国は前例のない規模の財政政策を打ち出した。労働時間の損失を緩和することができた主な方策には、以下のものがある。第一に、休暇制度を利用した労働者、失業者や家計を含む労働者への所得支援である。これにより、活動の継続が認められているセクターや、一旦閉鎖されたが活動が再開されたセクターでの需要不足を防ぐことができる。第二に、企業に補助金などのインセンティブを与えることで、事業閉鎖を防ぐことができる。第三に、民間・政府の消費誘導効果と企業への直接支援効果の双方により、投資を促すことができる。第四に、医療やソーシャルケア等の社会サービスへの直接支出も含む、政府の直接支出を通じた経済活動の拡大である。

ILOの分析によれば、このような財政政策の規模がGDPに占める割合が大きいほど、2020年第2四半期の労働時間の損失は減少する(図2)。平均して、財政政策を年間GDPの1%分増やせば、第2四半期の労働時間の損失が 0.8%減少することになる。この効果を考慮すると、もし財政政策が実施されていなかった場合、労働時間減少率は平均で28.0%にも上ると推定される。さらに、財政政策の経済活動への累積的な影響は長期的に大きくなる可能性が高い。

図2:2020年第2四半期の財政政策と労働時間減少率の関係
画像:図2
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注:図はデータ入手可能な34カ国における労働時間減少率と財政政策(対数スケールの対GDP比)の関係をプロットしたものである。

出所:ILO(2020)

労働市場への打撃に対する財政出動の価値は、国の所得グループによって大きな差がある。例えば、高所得国では財政政策の規模は総労働時間の10.1%に相当し、推定労働時間減少率は平均9.4%だった。一方、低所得国では労働時間の損失は平均9.0%であるのに対し、財政出動の規模は総労働時間のわずか1.2%にすぎなかった。発展途上国では所得を補償するための社会的保護制度がはるかに少なく、それがこれらの国々における政策対応と危機の影響とのギャップをさらに拡大させていることに注意が必要だ。

支援の継続及び、国際的連帯強化が必要

ガイ・ライダーILO事務局長は「この危機に単独で打ち勝てる団体や国、地域はない」として、「国際社会が対話、協力、連帯を通じた復興のための世界戦略を打ち出すことが急務である」と指摘している。政策立案者は、今後数ヶ月間および2021年のかなりの期間まで、雇用と所得の支援を維持し、以下のような主要課題に対応する必要がある、と主張している。

  • 医療・保健政策と経済・社会政策の介入の適切なバランス及び順序の維持
  • 労働市場の混乱の大きさに対応する規模の政策介入の実施
  • 移民、女性、若年層、インフォーマル・ワーカーなど、脆弱で困難な状況に置かれているグループに対して、政策手段を通じた最大限の支援の提供
  • 新興国と途上国の財政出動格差を埋めるため、国際的連帯の強化
  • 危機への政策対応のための重要かつ効果的な社会的対話の実施

参考資料

  • ILO資料 ILO Monitor: COVID-19 and the world of work. Sixth edition
  • ILO(23/09/2020) COVID-19 leads to massive labour income losses worldwide

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