職場でのウイルス感染拡大防止のための実施要領と企業の対応

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  • 国別労働トピック:2020年7月

フランスでは、新型コロナウイルス感染拡大の対策として、3月17日から全土で移動制限の措置が実施されていたが、感染の状況に好転の兆しが見えてきたため、5月11日から段階的に解除していくことになった。経済活動の本格的再開に先立って労働省は、職場において労働者の安全を確保するため事業主がすべき対策(注1)についてまとめた実施要領を公表した。

従業員だけでなく顧客等も含めて1人当たり4平方メートルの確保

職場での感染リスクを避けるため、可能な場合はテレワークの継続を奨励するとした上で、出勤が不可避な場合は、定期的な手洗いの励行、握手やハグの禁止、事業所内での密集を避けソーシャル・ディスタンスを確保するために、職場の人的な配置や構成の見直しを義務づけている。職場への到着から退出までの動線を見直し、扉を開放したり通路を一方通行にするなど、人の滞留やすれ違いによる接触の機会を減らす措置をとらなければならない。具体的な基準として、1メートルの物理的距離、1人当たり少なくとも4平方メートルの確保などを明記している。これは事業所の延床面積ではなく、棚や倉庫、廊下などを除いた実際の作業可能面積(ワークスペース)から算定する必要がある上に、従業員数だけに基づくのではなく、顧客等の来訪者も含めて距離(面積)を確保する必要がある。

3時間ごとの換気、時差出勤、休憩時間の分散

個室での業務が推奨されるが、1箇所で複数の従業員が就労する必要がある場合には、対面での座席配置を避け、従業員間に少なくとも1メートルの距離を取らなければならず、可能であれば、衝立などを設置することを求めている。また、定期的に(3時間ごとに15分間)換気をしなくてはならない。一つのワークスペース内で同時に就労する者の数を限るために、時差出勤や休憩の時間帯を分散することも求めている。

従業員間だけでなく、従業員と顧客との間に1メートル以上の距離を確保する必要があり、できない場合は双方にマスクの着用が義務づけられる。なお、ソーシャル・ディスタンスを確保する措置を講じた上で、雇用主が従業員に対して職場でのマスク着用を義務づけることも可能であるが、その場合は、雇用主がマスクを提供する必要がある。

検温の義務づけは不可

今回の実施要領で検温は、労働者自身が自宅で行うべきであり、企業による検温は義務づけることはできないとしている。企業が従業員の検温を実施する場合、従業員は拒否することができる。検温を拒否した従業員に対して雇用主が帰宅を命じた場合、その日に就労した場合と同額の賃金を支払う必要がある。ただ、発熱の自覚がある場合は、従業員に対して検温することを勧め、新型コロナウイルス感染の症状がないかを注意深く観察することが求められる。企業が感染の有無に関する検診を従業員に対して行うことは認められていない。

その他にも、職場の定期的な清掃や消毒が求められ、特にドアノブや電気のスイッチ、手すりやエレベーターのボタンなどは、1日数回、消毒しなければならない。

大企業にとってソーシャル・ディスタンス確保は困難

この実施要領を順守するのは、現実には難しいとの指摘がある(注2)。例えば、オフィスの廊下や通路、資料を保管する棚、会議室などを除いたワークスペースの面積を算出するには多大な作業が必要である。また、就労可能な従業員数を算出した結果、全ての従業員を同時に就労させることが不可能な場合、労働省は交代勤務を推奨しているが、企業にとって実際に業務遂行可能なシフトを組む必要がある。さらに、エレベーターの広さによっては、従業員が短時間で集まることが不可能となり、会議が定刻通り開始できないなど問題が生じる懸念もある。

企業活動を再開しているのは小規模事業所及び中小企業に限られ、大企業は再開が難しいとの指摘もある(注3)。大企業の経営者は、間違った判断を避けるため、状況分析を行っている段階にあり、職場への実際の出勤を再開する判断を留保する場合が多く見られるためだ。従業員や事業所が多い企業にとって、労働省の実施要領を順守するためには、従業員代表などとの協議も含めて膨大な作業が要求される。

(ウェブサイト最終閲覧:2020年7月20日)

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