外国人非合法労働市場の形成と類型
 ―韓国労働研究院レポートより

カテゴリー:外国人労働者労働法・働くルール労働条件・就業環境

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2020年6月

韓国労働研究院(KLI)は2020年4月、「外国人非合法労働市場の形成と類型」と題するレポート(注1)を発表した。それによると、韓国では最近、外国人の不法滞在、不法就労が様々な経路を通じて発生し、産業全般に拡大しているという。非合法外国人労働者の就業職種はほとんどが非熟練分野であるが、製造業などでは、熟練を必要とする分野にも及んでいる。KLIのレポートに基づき、韓国における外国人非合法労働市場の特徴について紹介する。

非合法労働市場の媒介機能

韓国では最近、外国人材に対する需要が増加し、需給を連結する媒介機能が発達してマッチングが容易になり、取引費用も大きくないため、非合法労働市場が拡大している。専門仲介人、職業紹介所、人的ネットワークを通じた連鎖移住、アプリなどの様々な形態が媒介機能の役割を果たしている。

媒介機能として最も大きな割合を占めているのは専門仲介人である。入国過程から就労斡旋、定住支援まで全体的に関与する仲介人もいるが、入国、就労斡旋、在留資格変更などの特定過程のみに介入する仲介人も多い。

職業紹介所は、地域単位を中心に、建設業、介護、清掃、製造業、農業、漁業等に従事する事業主に外国人労働者を供給して手数料を受け取る。非合法外国人労働者を斡旋する行為は違法であるが、職業紹介所は評判の悪い事業主のブラックリストを持っていて、そうした事業主に対して労働者の斡旋を拒否したり、労働者への賃金未払い問題を解決するなど、労働者の権益を保護している側面もある。また、事業主に適した外国人労働者を供給したり、比較的離職傾向が高く、評判の悪い労働者は斡旋しないなど、外国人非合法労働市場における雇用関係の安定化に貢献している。しかし、一部の職業紹介所では、余分な斡旋手数料の徴収、賃金搾取、談合、書類操作などの不法行為事案が発生している。

過去の移住者が作った社会的ネットワークは、家族、知人、自国出身者の移住を容易にしている。韓国語が達者で、様々な人的・社会的ネットワークを持つ長期滞在者(留学生、結婚移民、外国人就業者など)が本国の知人、同僚、親戚などを本人が属する地域、事業所、学校などに斡旋する役割を果たしている。

スマートフォンの普及とオンライン求人サイトやアプリの発達により、これらが非合法労働市場で重要な媒介機能を果たし、職業紹介所を訪問しなくても、事業所の所在地や求人会社の賃金・労働条件などの情報を得ることができるようになった。中国語、タイ語、ロシア語など各国語求人サイトが移住者によって共有され、韓国入国前から求人情報を確認することができ、非合法労働市場へのアクセスが容易になっている。

ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)の発達により、国籍別に交流するコミュニティ(母国語で作られたサイト、オープンチャットルーム、チャッティングアプリ、バンドなど)が生まれ、様々な情報交換が行われている。初めての移住者もSNSを通じて韓国の情報を簡単に入手し、入国後も就職斡旋、定住等に関する情報に接することができる。

非合法労働市場の形成経路

韓国政府は、観光市場の多様化・活性化を目的に査証免除国を拡大し、複数査証の許容範囲を拡大するなど、入国要件を緩和してきた。また、低価格の航空路線が就航し、外国人が以前よりも簡単に韓国に入国できるようになった。SNSの発達は、物理的距離や時間に制約されないコミュニケーションを可能にし、先に入国した親戚、知人が仲介人の役割を果たしている。入国のため仲介人に莫大な費用を支払う必要性は減少したが、不法就労を目的とする入国過程では専門仲介人が介入することもある。

非合法労働市場が形成される理由は、非合法労働者に対する需要の増加に起因する。外国人雇用許可制度(注2)の資格要件を備えていない、又は許可業種でない事業主は、雇用手続きの容易さ、比較的低い雇用費用、雇用管理の柔軟性などの理由で非合法外国人を活用している。最近は、最低賃金の大幅な引き上げや人材ミスマッチの深刻化も非合法労働市場を拡大する要因となっている。雇用許可制度に基づく外国人労働者割当数の不足、季節的需要や短期契約方式に適した産業分野のニーズに合致していない現行制度の運営体系なども原因とされている。

外国人労働者は合法的経路で就労した後、より良い賃金や労働条件を求めて事業所を離れて不法就労したり、滞在期間の超過や許可分野以外の滞在資格外活動で不法就労する場合がある。合法的な就労資格要件を備えていないため、又は合法的な資格を得る時間と費用を節約するため、最初から不法就労を目的として入国する場合もある。

このほか、事業主が雇用関係の柔軟性により非合法雇用を選好する場合もある。非合法外国人労働者は合法外国人労働者に比べて採用と解雇の柔軟性があり、事業主が必要とする適格者(身体条件、熟練度など)を選択できる利点がある。合法外国人労働者を雇用するには、複雑な行政手続きに長い時間を費やさなければならないが、非合法雇用はそれらの手順を必要としない。また、採用に伴う付加費用(4大社会保険、出国満期保険、退職金など)が少なく、電話一本で必要な期間、外国人を採用することができる。

非合法労働市場の類型と特徴

外国人非合法労働市場は滞在期間を超過したり、滞在資格外活動で就労する外国人労働者の労働市場である。外国人非合法労働者の就労分野は語学、通訳、技術職などの専門職だけでなく、サービス職、生産技能職など非常に多様であり、産業も広範囲にわたる。特定分野のみで就労する場合もあるが、職種間、熟練間、業種間を移動したり、仕事を2つ以上持っている場合もある。

外国人非合法労働市場の特徴を類型別みると、臨時・日雇い労働市場は、単純で日常的な業務を主に扱い、社会文化的環境が違っても容易に適応できる清掃、食堂・飲食業、短期製造業アルバイト、物流、建設日雇いなどの分野である。この分野に非合法外国人労働者が多い理由は、雇用契約の締結や身分を明かす必要がなく、当日の賃金精算、韓国語力や熟練度の不問、地域・業種間移動の自由などのためである。こうした臨時・日雇い労働市場の特徴と非合法な身分のため、彼らは低賃金、雇用不安、危険な作業環境などを経験している。また、外国人と韓国人の業務遂行能力に大きな差がない分野のため、事業主が韓国人より非合法外国人を好む傾向があり、韓国人労働者の賃金や労働条件に否定的な影響を与える可能性が高い。

季節労働市場は、農漁業分野が最も多く、建設業も部分的に季節性を持つことがある。農漁業分野には、合法的に外国人労働者を供給する雇用許可制度と季節労働者制度(注3)があるにもかかわらず、非合法労働者がこの業種に流入する背景には、季節労働市場の特性に合った労働力供給が行われないなどの多様な要因がある。雇用許可制度は、常用雇用契約を結ぶため、繁忙期だけ人材を供給することが難しく、複雑な書類の提出や退職金・出国満期保険などの付加費用負担をしなければならない。季節労働者制度は、地方自治体が農漁業の事業主と覚書(MOU)を結んで季節労働者を導入する方式であるが、MOUを結んでいない事業主が非合法季節労働者を雇用する事例が発生している。

合法外国人労働者の供給を受ける常用雇用の労働市場でも非合法労働者が定着する傾向がある。その理由は、必要な人材に比べて外国人労働者の割当数が少ないため非合法労働者を使うしかなく、一部の事業所では、合法と非合法の労働者が混在して働いている。また、常用雇用で働く合法外国人労働者が劣悪な労働条件のため事業所を移動したり、離脱して非合法化する場合もある。常用雇用の非合法外国人労働者の需要が多い分野は主に製造業であるが、宿泊業、介護などの業種でも需要が拡大している。

外国人によって形成される熟練労働市場は、学歴や資格よりもその事業に特化して形成される性格が強い。労働条件が良くない中小企業では、必要な知識と技術を持った内国人材を確保することが難しく、韓国人に比べて賃金や福利厚生費が安い外国人熟練労働者を好む傾向がある。雇用許可制度で入国した外国人労働者の中には、長期勤続によって熟練技能を習得し、より賃金の高い事業所に移動したり、在留期間が過ぎても帰国せず継続して仕事をしている者がいる。また、短期査証で入国し、製造業だけでなく、建設現場や農畜産業などで熟練技能を習得し、高い賃金を受けるようになった非合法労働者もいる。

労働市場の構造に着目した改善策検討の必要性

通信技術の発達や移住者の滞在期間長期化により非合法労働市場の構造と形態が多様になっている。外国人非合法労働市場は、非合法に外国人を雇用しようとする事業主と非合法状態で就労を希望する外国人とを接続する仲介人によって形成されている。

外国人非合法労働市場は地域別、産業別、業種別に領域・規模が拡大し、法的制裁を加えても、需要がなくならないため、不法就労目的で流入する外国人が後を絶たない。その背景には、人材不足で非合法外国人を活用するしかない労働市場の実態がある。そのため、非合法労働市場の問題は、事業主、仲介人、非合法外国人という個別の主体ではなく、労働市場の構造という観点から考えていく必要がある。

非合法労働市場が持つ負の側面は、合法的な外国人労働者の労働市場を撹乱するとともに、韓国人の雇用や賃金労働条件にも悪影響を及ぼし、人権侵害や労働搾取などの問題を引き起こす。この問題は、現在の合法的な外国人労働者供給体系が、非合法外国人に対する需要を満たしていない原因を検討することから始める必要がある。外国人非合法雇用の広範囲な実態調査を通じて現実を正確に把握し、合法的な外国人労働者供給体系を再整備して非合法外国人の就労や雇用誘因を減らす対策を講じていく必要がある。そうしたときに初めて、取り締まりや法的制裁も効果を得ることができる。KLIのレポートはこのように指摘している。

2020年6月 韓国の記事一覧

関連情報