デジタル時代の子どもたちの職業願望
―OECD報告書「将来の夢:10代の若者のキャリアへの期待と仕事の未来」

経済協力開発機構(OECD)は2020年1月、国際学習到達度調査(PISA)に参加した国の15歳の子ども(以下、生徒)が持つ将来の職業願望についてまとめた報告書「将来の夢:10代の若者のキャリアへの期待と仕事の未来(Dream Jobs? Teenagers’ Career Aspirations and the Future of Work)」を公表した。

10代におけるキャリア志向は、将来の就労に影響を与える重要な要素である。本報告書は、生徒の職業に対する意識についての多面的な分析から、労働市場の需要を明確に示すことが生徒の職業選択の上で必要であることを示している。 以下、報告書の概要を紹介する。

仕事の将来性とのミスマッチ

PISA2018調査の結果によると、15歳の生徒が30歳で就きたいと希望する職業は一部の職業にある程度集中している。調査対象41国の男子生徒の47%、女子生徒の53%が希望する職業は人気上位10種のうちのいずれかであり、その中には医師や教師、企業経営者など、昔から存在する伝統的な職業も含まれている(表1)。また、デジタル化が急速に広まる前の2000年から、このラインナップはそれほど変わっていない。

表1:生徒が将来就きたいと希望する職業の集中度
表1:画像

この傾向から、変化する労働市場の需要についての情報が生徒へ十分に伝達されていないことが見てとれ、生徒の職業願望が今後ますます時代遅れで非現実的になる可能性が示唆される。さらに、国際成人力調査(PIAAC)による仕事の自動化リスクに関するデータを用いた分析によると、生徒の希望する職業の39%は、今後10~15年のうちに自動化されるリスクがあり、将来の労働市場の見通しに関する生徒の認識不足についても懸念が残る。

学歴目標とのミスマッチ

職業願望に対して学歴目標が低い場合、その生徒は将来、労働市場で困難に直面する可能性が高い。

職業願望と学歴目標に関する分析によると、高度な職業を希望している生徒のうち平均で5人に1人は、その職業に見合った学歴目標を持っていない。生徒の社会経済的背景で比較すると、上位25%のグループの生徒における職業願望と学歴目標のミスマッチは10%程度なのに対し、下位25%のグループの生徒におけるミスマッチは30%を超える(図1)。

図1:職業願望と学歴のミスマッチ
図1:画像

出所:PISA2018データより筆者作成。

注:値はドイツのように職業訓練システム(VET)の影響の強さを反映している場合がある。

キャリア開発活動が職業願望に与える影響

効果的なキャリア開発活動によって、生徒は教育と就労の関係性をより理解し、職業に対する視野を広げることができる。また、キャリア開発活動を通じて労働市場に関する多くの情報に触れることで、目標達成のために必要なことについて理解を深めることもできる。

キャリア開発活動への参加と職業願望の集中との関連についての分析では、インターンシップに加え、ジョブシャドウィング(注1)やジョブフェア(合同会社説明会等)への参加といった比較的手間のかからない活動についても、職業に対する広い視野を持つ上で効果的であることが示された。

一方で、大多数の生徒が行っているキャリア開発活動は、インターネットで職業について調べることや、自分の興味や能力についてのアンケートに答えることであり、ジョブフェアへ参加した生徒やキャリアアドバイザーへ相談した生徒は半数にも満たなかった。

このように、生徒が職業について正しい知識を得る機会は未だ限定的である。進学する生徒が増え、就労への備えがますます難しくなる中、キャリアガイダンスの正しい実施がこれまで以上に重要になるとOECDは指摘している。

参考

2020年4月 OECDの記事一覧

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