自営・小規模企業における雇用に焦点を当てた政策が必要
国際労働機関(ILO)は自営業者や各事業規模の企業による雇用への貢献度について世界規模の検証を行い(注1)、2019年10月に報告書『自営業、零細企業、中小企業の雇用に対する貢献に関する世界的な証拠(Small matters: Global evidence on the contribution to employment by the self-employed, micro-enterprises and SMEs)』を公表した。また、図や動画で報告書の内容を分かりやすく記した解説ページもウェブ上で公開されている。
世界の雇用分布の実態
報告書によると、自営や零細・小企業(注2)で働く就業者の割合は、調査対象99カ国平均でおよそ7割である。この割合は所得水準の低い国ほど大きくなっており、高所得国では58%だが、所得水準が最も低い国では就業者のほぼ100%が、こういった小規模な企業、または自営で働いている。
表1:企業規模別 就業者の割合 (%)
産業別の雇用分布を見ると、サービス業の割合が高くなるほど農業の割合が低くなる傾向がある。例えば、サービス業が雇用の80%以上を占めているオランダやデンマークなどでは、農業の割合は5%未満である。総雇用のうち農業が占める割合は、各国の所得水準に関連しており、所得水準が高い国ほど農業の割合が小さい傾向がある。
99カ国平均で就業者の62%は、社会保障が適用されず賃金も低いといった特徴のあるインフォーマル・セクターで働いており、その大部分が自営や零細企業における雇用である。特に農業は、どの地域においてもインフォーマル・セクターで働く就業者が多数を占め、その大部分が自営である。
自営・小規模企業を中心に据えた経済・社会開発戦略
自営や零細・中小企業における雇用は世界の雇用の大部分を占め、経済成長や社会開発の原動力となっているものの、大企業と比べると経営側・労働側両方において不利な状況にあり、多くの課題を抱えている。経営側の課題としては、不必要に複雑な法規制、資金調達や職業訓練のコスト、不十分な基盤設備などが挙げられ、労働者側の課題としては、低賃金、社会保障の欠如、劣悪な労働安全衛生、労使関係の弱さなどが挙げられる。
自営・小規模企業で働く人々が直面する問題を理解することは、雇用創出、仕事の質の向上など労働市場全体の課題に取り組む上で重要である。各国の経済・社会開発戦略は、これらの雇用の支援を中心として組み立てる必要がある。
注
- インフォーマル・セクターも含めた雇用について体系的に測定したデータを使用。調査対象は99カ国(日本、アメリカ、カナダを除く)。(本文へ)
- 従業員数10人未満を零細企業、50人未満を小企業と定義。(本文へ)
参照
- ILOサイト,SMALL MATTERS, Global evidence on the contribution to employment by the self-employed,micro-enterprises and SMEs (PDF:2.10MB)
- ILOサイト, Small businesses and self-employed provide most jobs worldwide, new ILO report says
- ILOサイト, Info Stories 「THE POWER OF SMALL: UNLOCKING THE POTENTIAL OF SMES
」
- ILO駐日事務所サイト「世界中で最も大きな雇用の受け皿になっているのは小規模事業と自営業
」
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