操業短縮手当の支給要件を緩和へ
 ―新型コロナウイルスで打撃を受けた企業を支援

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  • 国別労働トピック:2020年3月

ドイツ政府は3月9日、新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で操業短縮を余儀なくされた企業や従業員を支援するため、操業短縮手当の支給要件の緩和を決めた。3月10日の閣議決定後、議会の審議を経て、4月上旬の施行を目指す。

緩和案の概要

今回の閣議では、操業短縮手当(操短手当)の支給要件である「事業所内の3分の1以上の従業員が対象」を、「従業員の10分の1以上が対象」まで比率を大幅に引下げ、支給対象を派遣社員にも拡大、さらに、操業短縮分の社会保険料を連邦雇用エージェンシー(BA)が全額肩代わりするという緩和案が示された。

報道(RND)によると、連邦雇用エージェンシーの準備金は現在、約260億ユーロほどあり、法案審議が順当に進めば、3月27日に連邦議会で可決、4月3日に連邦議会の同意を経て、4月上旬に施行される見込みである。

新型コロナウイルスの影響で、全体の輸送量を今後最大で50%削減する案を発表したルフトハンザ航空は、従業員の解雇を回避するため、すでに操短手当の申請に向けて3月6日から連邦雇用エージェンシーと協議を開始したことを明らかにしている。同時に、採用凍結、従業員への無給休暇の付与、年次休暇の繰り上げ措置を行いながら、運営パートナーや労働組合との協議も行っている。

失業を抑制する操短手当制度

操短手当は、失業の抑制や企業内の技能維持に一定の効果があるとされる。操短手当を利用して熟練従業員を解雇せずに短時間労働に移行することで、熟練者の保有する技能を社内に留めることができるためである。景気が回復して増産する場合は、新たに採用して教育する手間と費用が省ける上、即座に以前と同質の製品が生産できる利点がある。

このような効果が見込まれる操短手当(Kurzarbeitergeld)は、景気後退等による操業短縮に伴って従業員を休業(部分休業を含む)させた場合に、従業員の賃金減少分の60%(扶養義務がある子を有する場合は67%)を助成する制度である。主な財源は社会保険料(労使折半)で、支給期間は原則12カ月までだが、省令によって最長24カ月まで延長が可能である。

支給の決定に際し、①経済的理由等のやむを得ない事由による操業短縮で、それを防ぐための様々な対策がすでに講じられていること、②操業短縮に伴う休業が一時的なもので、助成期間中に再びフルタイム労働への移行が見込まれること、③操業短縮について関係者の合意があること、④事前に公共職業安定機関への届け出があること、⑤事業所内の3分の1以上の従業員について10%以上の所定内賃金の減少があること等が要件となっている。

操短手当の制度自体は1969年に創設されたものだが、2008年秋以降の世界的な経済危機に対応するため時限措置で期間延長(最長24カ月まで延長)や対象者の拡大(正規だけでなく派遣労働者等にも拡大)が図られた。

当該制度の活用と、従来から普及していた「フレックス」や「労働時間口座(注1)」等の柔軟な労働時間を併用することで、ドイツは世界経済危機の時に大量の失業者を出さず、他国に先駆けて景気が回復したため、当時のEUやOECDから「雇用の奇跡」と称されて、注目を集めた。

7人の経済学者による評価と提言

研究機関や大学に所属する7人の著名な経済学者は3月10日、「コロナ危機の経済的影響と経済政策」と題する政策提言を共同発表した(注2)。それによると、操短手当の要件緩和は「雇用と家計の安定に寄与する」と評価した上で、一時的なコロナ危機が続く間は、更なる企業の経営支援と雇用の安定化が欠かせないとしている。報告書ではその他、感染拡大による医療現場の人員不足に対応するため、退職した医療従事者を呼び戻すための金銭的インセンティブ付与や、休校措置がされた場合(注3)は医療従事者の子どもに対する特別保育の提供、コロナ危機で通常業務がなくなった公務員を速やかに別の公務支援に充当すること、公務部門でさらに深刻な人員不足が発生した場合は民間人材を柔軟に活用すること等が提言されている。

参考資料

  • ECDC(11 Mar 20), BMAS (10. März 2020), Frankfurter Allgemeine Zeitung(FAZ)(08.03.2020), RND(10.03.2020) ドイツ政府、厚労省資料ほか。

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