活力ある”高齢社会を目指して
―OECD報告書“Working better with Age”

カテゴリ−:高齢者雇用労働条件・就業環境雇用・失業問題

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  • 国別労働トピック:2020年2月

OECDは2019年8月、高年齢者の就業に関する加盟国の現状分析や、更なる就業促進のための提言を盛り込んだ報告書『生涯を通じたより良い働き方に向けて(Working better with Age)』を公表した。

高齢者の就労状況

100人の就業者が支えなければならない高年齢者(仕事をしていない50歳以上の者)は、2018年にはOECD諸国平均で42人であったが、このまま対策を講じなかった場合、2050年には58人へと約40%増加すると予測される。一方、退職年齢の引き上げや、労働市場への参入時における男女格差の是正などに取組むことにより、この増加率は9%程度に抑えられる可能性がある(図1)。

図1:就業者100人対する高年齢者の割合
図1:画像

出所:OECD “Working Better with Age”掲載データより作成。

注:退職率について、(a)は一定、(b)と(c)はそれぞれ20%、50%段階的に減少すると仮定。

人々はより長く、健康的に生活できるようになり、退職後に生きる期間も長期化している。一部の国では、65歳以上まで仕事を続けることを奨励する施策に多くの進展が見られるものの、今日の実質的な退職年齢は30年前を下回る状態にある。その原因として、高年齢で働き続けることのインセンティブの低さや使用者による高年齢者の雇用の忌避、高年齢者のスキル不足等が挙げられる。

“活力ある”高齢社会に向けた提言

OECDは2015年に「高齢化および雇用に関する理事会勧告」と題する提言を発表し、人口の高齢化が進む社会で人々の生活水準や公共財政を維持していくために、高年齢者のさらなる就業機会の拡大と改善に取り組まなければならないと各国に呼びかけている。今回はその提言に沿って、次の様な具体策を発表した。

<高年齢者の就業意欲の喚起>

  • 働き続ける高年齢者に報いるような老齢年金制度を設計すること
  • 使用者による早期退職制度の濫用や強制的な定年の設定を防ぐこと
  • 福祉給付が事実上の早期退職制度として利用されないようにすること

<高年齢者を継続雇用する使用者の支援>

  • 採用、昇進、継続雇用における年齢差別に対処すること
  • 労使団体と協力し、高年齢者雇用に係る生産性を適切に高めること
  • 多様な年齢層が働く職場環境を整備・管理するために必要な取組みを奨励すること

<労働者のエンプロイアビリティの維持>

  • 全体の就業率を底上げするために、全ての年代の労働者について、労働条件や仕事の質を改善すること
  • 生涯学習への参加のしやすさを改善すること
  • 求職中の高年齢者に対し、効果的な就労支援を提供すること

日本の高齢者の就労について

日本における100人の就業者が支えなければならない高年齢者(仕事をしていない50歳以上の者)は、2018年の46人から、2050年には59人へと約30%増加すると予測される(図1)。OECD平均(約40%)より増加幅が小さいのは、高年齢者の就業率や実質的な退職年齢が高いことが影響していると見られる。また、さらなる退職年齢の引き上げや若年層の労働参加率における男女差の是正によって、この増加率は5%にまで抑えられる可能性がある。

日本に求められる取組みとして、OECDは次の様な具体策を示している。

  • 退職年齢と年功賃金の更なる改革に着手し、高年齢者の雇用およびその保持を奨励する
  • 使用者が不安定な非正規の雇用形態により労働者を雇うインセンティブを減らすことで、労働市場の二重構造解消に取り組む
  • 生涯学習のための取組みに力を入れ、高年齢者や若者のスキルを向上させて雇用可能性(Employability)を維持できるようにする(質の高い職業訓練の受講が年齢によって妨げられるのを防ぐ)
  • 仕事の質を向上させ、労働者が高齢になっても働き続けられる機会を増やす

参考

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