年金制度の持続可能性
―図表で見る年金2019年版

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  • 国別労働トピック:2020年2月

経済協力開発機構(OECD)は2019年11月、『図表で見る年金2019年版(Pensions at a Glance 2019)』を公表した。当該報告書は、2017年9月~2019年9月の間にOECD諸国で法制化された年金関連制度について検討・分析したものである。

高齢化に逆行する年金制度改革

OECD諸国の多くは人口の高齢化が加速しており、生産年齢人口(本書では20~64歳の人口を指す)に対する65歳以上の人口の比率は、1980年からの40年で、20%から31%へと上昇した。次の40年ではさらに56%まで上昇すると見込まれる。

近年の年金制度改革について、OECD諸国は主に年金受給の年齢要件の緩和や支給額の増額、年金制度加入者の拡大に焦点を当てており、それまでの改革を押し戻すような動きが見られる。フランスでは高齢者向けのセーフティネットの拡充や最低保障年金の増額、ドイツでは低所得者の給付額の増額が行われており、またオランダやイタリアなどでは、退職年齢引き上げの制限や早期退職に関する選択肢の拡大措置がとられた。経済の回復に伴って各国の年金制度は緩和傾向にあるが、これは制度の持続性の面で、長期的な財政圧力を加えていることを意味する。人口の高齢化が加速する中、年金制度を後戻りさせれば、今後の経済危機に対する耐久性を低下させ、人口の高齢化に備えられなくなる恐れがある。

貧困率が上昇する高齢者 

OECD諸国の65歳以上の所得額は、経済全体における平均可処分所得の87%であり、フランスなど一部の国では100%超える一方、韓国などでは70%未満であった(図1)。

65歳以上の貧困率(本書では国民全体の平均世帯収入の中央値の半分を下回る割合を指す)は13.5%であり、全人口における貧困率(11.8%)よりやや高い。国別では、フランスやドイツで10%未満である一方、アメリカや韓国では20%を超えている(図2)。

強制的年金制度の枠組みの中にある、平均所得の労働者における将来の年金の代替率(定年退職時の所得に対する率)は59%と推定される。国別では、イギリスや韓国、日本などで30~40%程度(注1)であるのに対し、フランスでは70%を超える(図3)。この代替率は、生産年齢期間中、失業などで労働市場を離れることなく就労することを前提としているが、ほとんどのOECD諸国において今後数十年で低下するとみられる。

図1:65歳以上の可処分所得*(経済全体比)
図1:画像

図2:貧困率*
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図3:年金代替率*
図3:画像

年金受給額が少ない非正規雇用労働者

非正規労働者(パートタイム労働者、派遣労働者の他、自営業者を含む)はOECD諸国全体の雇用の3分の1以上を占めている。一般的に、年金制度への加入が制限される非正規雇用労働者は、正規雇用労働者より保険料の拠出額が小さく、また受け取る年金の額も少なくなる傾向にある。例えば自営業者の場合、同程度の所得の正規雇用労働者が受け取る年金の80%程度しか受け取ることができないと推定される(図4)。

技術革新に伴う就業形態の多様化が予想される中、このままでは非正規雇用労働者への給付ばかりか、将来の年金制度全体における十分な財源確保にも重大な影響を与えかねない。公正な保障や不平等の解消、あるいはスムーズな労働移動の促進のためにも、加入条件や拠出額、受給権の観点で正規・非正規雇用間の格差を削減するような制度改革が必要である。

図4:自営業者の年金受給額*
図4:画像

日本の年金制度

日本の生産年齢人口に対する65歳以上人口の比率は2:1以上であり、今後もOECD諸国で最も高い国の一つであり続けると予想される。65歳以上の貧困率は19.6%であった。

退職後の年金の代替率は37%で、全キャリアを通じた任意加入の年金を合わせると62%になるものの、45歳からの加入だとその上昇幅は大きく狭まる。

一般的な雇用労働者の年金制度の対象外であることから、自営業者は年金の拠出額も受給額も低い。OECDの推定では、受給額は正規雇用労働者の33%で、OECD諸国の中でメキシコに次ぎ2番目に低い。

*図表はすべてPensions at a Glance 2019掲載データより筆者作成。

参考

2020年2月 OECDの記事一覧

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