配達人の保護強化法案
―クリスマス前に成立へ
連邦参議院(上院)は11月8日、下請け会社で働く配達人の保護を目的とした「配達人保護法(Paketboten-Schutz-Gesetz)」に同意した。今後は連邦大統領の署名を経て、連邦官報による公布とその翌日の発効を予定している。手続きが順調に進めば、小包配達がピークを迎えるクリスマスシーズン前に同法が発効する見通しである(注1)。
法制化の背景 ―搾取の横行
近年、デジタル化の発達とともにオンラインによる通信販売が拡大している。連邦労働社会省(BMAS)によると、ここ数年は、前年比で5ポイント前後の伸びが続いている。現在は年間30億個以上の荷物が配達されており、配達業に従事する者は24万人に上ると推測されている。こうした近年の宅配荷物の急増により、元請け会社が配達の一部を、下請け会社に外注する動きが広がっている。統一サービス産業労組(ver.di)によると、国内の大手配達企業5社のうち、「ドイツポスト(Deutsche Post DHL)」と「UPS」 の2社のみが、自社の従業員で配達を行っており、残りの3社は恒常的に下請け会社を利用していた。また、下請け会社の配達人は、ドイツ語能力が十分でない東欧出身者や難民が少なくない。ver.diの調査では、法律を遵守する良心的な下請け会社がある一方で、コストを下げるために劣悪な労働条件で配達人を働かせる下請け会社も多かった。中には、最長16時間のシフトを組み、1時間当たりわずか4.5ユーロ(2019年の法定最低賃金は時給9.19ユーロ、2020年からは9.35ユーロ)の報酬しか支払っていない会社や、本来支払うべき社会保険料を負担していない会社もあった。このような実態については行政当局も把握しており、不法就労等の闇労働(Schwarzarbeit)を取り締まる税務当局が、2019年2月に配達業界に対する一斉取締を実施した所、下請け会社の事業主の6人に1人が、最低賃金違反や、社会保険料を支払わない等の違法行為を行っていた。
報道(Reuters)によると、下請け会社の配達人に対する労働搾取の横行は、結果的に配達業界全体の賃金を押し下げ、労働協約に基づく賃金を払っているドイツポスト(Deutsche Post DHL)等の遵法企業の収益が急速に圧迫される事態になっていた。また、社会保険料負担を不当に免れようとする一部の雇用主の悪質な行為は、事故リスクや荷物の運搬などで体を痛める可能性が高い配達人に過酷な状況をもたらしており、早急な改善が求められていた。
法案を所管するフベルトゥース・ハイル連邦労働社会相は、「闇労働や社会保険詐欺などを行う雇用主は、法律を遵守する企業や労働者にとって有害であり、配達業界を公正な競争の場に戻す必要がある」という立法趣旨を述べた上で、「配達人保護法」案を提出し、9月18日に閣議決定された(BMASサイト)。その後、10月24日に連邦議会(下院)で採択され、11月8日に連邦参議院の同意を得たことで、当初より目指していた最大需要期のクリスマスシーズン前に成立する見通しとなった。
元請けの“発注元責任”を強化
同法が成立すると、元請け会社の発注元責任が強化される。下請け会社が配達人に対して社会保険支払い義務を履行していない場合、元請け会社が下請け会社に代わり、支払い義務を負うことになる。これにより、配達人が事故に遭ったり、病気になったりした際のセーフティネットが確保される。
なお、元請け会社の負担軽減策として、「支払責任履行証明書(Unbedenklichkeitsbescheinigung)」制度も導入される予定である。これは、医療保険者である疾病金庫(Krankenkasse)や労働災害保険者である職種別の同業者組合(Berufsgenossenschaft)が、社会保険料の支払いを適正に履行している下請け会社に対して、その証明を発行できるというものである。証明書を保持する下請け会社に発注した元請け会社は、下請け会社の配達人に対する社会保険支払い責任から免除される。
食肉や建設の分野では導入済み
以上のような「発注元責任」は、すでに食肉業界や建設業界で導入されており、今回の法案はそれを新たに配達業界にも拡大することで、下請け会社等の配達人の保護の強化を図ろうとしている。
連邦労働社会省は、同法の成立によって、約8000社の配達会社が影響を受けると想定している。
注
- 脱稿後の11月23日に配達人保護法が施行された(BMASサイトより)。(本文へ)
参考資料
- BMAS,Bundestag, Bundesrat, Deutsche Welle(02.03.19),Reuters(Sep. 18, 19)ほか。
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=119.96円(2020年1月28日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2020年1月 ドイツの記事一覧
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