雇用労働部が裁量労働制の運営ガイドを発表
雇用労働部は2019年7月31日、「裁量労働制とみなす労働時間制運営ガイド」を発表した。2018年7月から労働時間の上限を週52時間(時間外労働を含む)に制限する法律が施行されたことに伴い、産業現場では裁量労働制に対する関心が高まっている。しかし、「対象業務」や「使用者の具体的な指示」の範囲が不明確なため制度の活用に困難があると指摘されていた。雇用労働部は、今回のガイドの発表をきっかけに、制度の利用率を高め、適法に運用されるよう継続的に努力していくとしている。
裁量労働制の概要
韓国の裁量労働制は、勤労基準法第58条(労働時間の計算の特例)において、「業務の性質に照らして、業務の遂行の方法を労働者の裁量に委ねる必要がある業務として大統領令で定める業務は、使用者が労働者代表と書面による合意で定めた時間労働したものとみなす」と規定されている。大統領令で定める対象業務は、業務の性質上、労働者が自主的に業務遂行方法を決定する必要がある専門的又は創造的業務である。具体的には勤労基準法施行令及び雇用労働部告示で規定された「新商品又は新技術の研究開発や人文社会科学・自然科学分野の研究業務」「情報処理システムの設計及び分析業務」「新聞、放送又は出版事業での記事の取材、編成又は編集業務」「衣服・室内装飾・工業製品・広告などのデザインや考案業務」「放送番組・映画などの制作事業でのプロデューサーや監督業務」「その他の雇用労働部長官が定める業務」が該当する。
労使による書面合意には、①対象業務、②使用者が業務の遂行手段及び時間配分等に関して労働者に具体的な指示をしないという内容、③労働時間の算定は、その書面による合意で定めたところによるという内容――の3事項を明示しなければならない。
裁量労働制の対象者は、実労働時間ではなく、書面による合意に記載された時間の労働をしたものとみなされる。書面合意で定めたみなし労働時間が法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超える場合は、時間外労働手当が支給される。裁量労働制対象者が休日・深夜労働をした場合は、休日・深夜労働手当が支給される。
法令等で定められた対象業務に該当しなかった場合、書面による合意がない場合、書面合意の必要記載事項が明示されていない場合には、裁量労働制自体が無効となる。また、使用者が業務の具体的指示を常時繰り返すなど、制度の趣旨を損なった場合も裁量労働制が無効となり、法定労働時間を超える労働時間は時間外労働となる。
対象業務の範囲を具体的に明示
「裁量労働制とみなす労働時間制運営ガイド」では、裁量労働制の対象業務の範囲をより具体的に明示した(表1)。
「新商品又は新技術の研究開発や人文社会科学・自然科学分野の研究業務」には、製造業の実物製品だけでなく、ソフトウェア・ゲーム・金融商品などの無形の製品の研究開発業務なども含まれる。
「情報処理システムの設計及び分析業務」には、情報処理システムの分析、設計、実装、テスト及び機能改善などの業務を自らの裁量で実行するプログラマーも該当する。ただし、他人の指示・設計に応じて裁量権がない状態で単にプログラムの作成だけを実行する場合は含まれない。
「衣服・室内装飾・工業製品・広告等のデザインや設計業務」の「室内装飾」には、舞台・セット・ディスプレイデザイナーも該当し、「広告」には、商品のディスプレイなども含まれる。
表1:裁量労働制の対象業務(勤労基準法施行令第31条及び雇用労働部告示で規定された業務)
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出所:韓国雇用労働部「裁量労働制とみなす労働時間制運営ガイド」(2019年7月31日)を基に作成。
労働者の裁量性の保証範囲
裁量労働制対象労働者の「業務遂行の手段」及び「労働時間の配分」の裁量性の保証範囲に関して、ガイドは、使用者が制度の趣旨を損なうほどの「具体的な指示」を行ったかどうかを判断するための基準を示した。具体的には、①業務指示が「業務遂行の手段」や「労働時間の配分」に関する内容であるかどうか、②指示の周期と具体性の程度、③労働者の裁量に関する制限が合理的かどうか、④労働者の実質的な裁量権行使の可能性、⑤労働者代表との合意内容―などを総合的に考慮して判断するとしている。
裁量労働制の下で裁量性が保証されているかどうかは、制度の趣旨を損なうほどの指示や干渉が行われたかどうかで判断されるが、個別事例ごとに業務の性質、指示の内容と具体性・再現性、合理的な理由が存在するか否か、判断を制限する程度などを総合的に考慮する必要がある(表2)。
表2:業務指示が可能かどうかの判断基準
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出所:韓国雇用労働部「裁量労働制とみなす労働時間制運営ガイド」(2019年7月31日)を基に作成。
「業務遂行の手段」に関する判断基準
裁量労働制対象労働者は、原則、業務遂行の方法・手段などを自らの裁量で決定することができ、使用者は具体的な指示を行うことができない。使用者が業務の段階ごとに手順や方法を指定して、それを実行するかどうか確認するなど、事実上、労働者の裁量を制限するような場合は、適法な制度運営とはみなされない。
一定の段階で労働者に進捗状況や経過などを報告させることは、労働者の裁量を根本的に制限するものでなければ許容される。また、製品の発売や新技術の開発、研究報告書の完成などが差し迫った段階で業務の完成度を確保するため、報告期限を事前に定めて運営することも制度の本質を侵害しない限り可能である。
業務の進捗状況を確認・共有、調整・協議するために、労働者代表との書面合意で会議の周期・回数、日程などを決めて労働者を参加させることもでき、書面合意に定めがなくても、労働者が自らの日程を調整できる十分な期間を設けて、業務目標の達成に必要な会議に出席させることは、労働者の裁量性を侵害したとはみなされない。
業務完成のために必要な出張や、外部会議、イベント参加などを指示することもでき、業務を実行する方法と直接関係のない事業場内の秩序の維持、設備、セキュリティ管理に関する事項についても指示・監督が可能である。
「労働時間の配分」に関する判断基準
所要時間の管理については、業務の単位課題がある程度具体的‧細部的かを考慮して判断される。労働者の時間配分の裁量性を侵害するほど単位課題の時間配分について干渉又は指示をした場合、裁量性を認めることは困難である。
業務付与の周期については、個別業務の特性に応じて異なるので、画一的な基準で判断することは難しい。業務の種類・性格、当該業務の遂行方法等について保証される裁量のレベルなどを総合的に考慮する必要がある。
業務の期限については、業務遂行に通常必要とされる期間に満たない期間を定めて業務を付与した場合、実質的に労働者に時間配分に関する裁量が保証されているとはみなされない。
出勤義務については、勤務場所を指定して出勤義務を付与することは可能であり、出勤日を書面合意に定めた場合は、それに従うこととなる。
出退勤時刻については、始業・終業時刻を厳格に適用・管理することは、労働者の時間配分に関する裁量性を侵害するものとみなされる。ただし、事業場の秩序維持、労働者の安全確保などのために避けられない場合は、一時的に出退勤時刻を定め、これに従わせることができる。
勤務時間帯の指定については、業務の完成のために必要な場合、労働者代表との書面合意に特定の時間帯を定めて運営することは可能である。ただし、事実上、出退勤時間を定めるように、労働時間帯を過度に広く設定・配置する場合は、労働者の時間配分に関する裁量を侵害したものとみなされる。
参考
- 韓国雇用労働部「裁量労働制とみなす労働時間制運営ガイド」(2019年7月31日)
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