2020年の最低賃金引き上げ率を2.87%(前年比マイナス8%pt)に抑制

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境労使関係

韓国の記事一覧

  • 国別労働トピック:2019年10月

最低賃金委員会は2019年7月12日、2020年1月から適用される最低賃金を現行より240ウォン(2.87%)引き上げ、時給8,590ウォンとすることを決議した。雇用労働部長官は8月5日、最低賃金委員会の決定どおり2020年の最低賃金を定めることを告示した。ここ2年連続の大幅引き上げ(2018年16.4 %、2019年10.9%)に対する中小零細企業を中心とする産業界からの痛烈な批判を受け、引き上げ率は大幅に抑制された。

使用者委員は企業規模別の最低賃金適用を要求

韓国の最低賃金法では、雇用労働部長官の要請に基づき最低賃金委員会が最低賃金案を審議・議決し、労使団体による異議申し立て期間を経て、雇用労働部長官が毎年8月5日までに翌年1月1日から適用される最低賃金を定めることとされている。

公労使各9人、合計27人の委員で構成される最低賃金委員会は、2020年適用の最低賃金について審議するため、2019年4月から7月にかけて13回の全体会議を開催した。

第4回全体会議(6月25日)において、使用者委員は、小規模事業場ほど最低賃金未満の者の割合が高く、小商工業者の大部分は最近の最低賃金の高率引き上げにより大きな打撃を受けているため、最低賃金を企業規模別に適用するよう要求した。これに対し労働者委員は、企業規模別の異なる最低賃金額適用は現行法上不可能であり、企業の支払能力を判断することは誰にもできず、最低賃金に違いを設けるという概念自体が不適切であると主張した。

第5回全体会議(6月26日)において、最低賃金の適用区分に関し、使用者委員が業種別区分の有無を定めて、規模別区分も併記して処理することを提案した。27人の委員全員が出席する中、この案に関する採決が行われ、17名が反対して否決された(表1)。使用者委員は否決に反発し、全員が以降の会議には参加しないと表明して退席した。

表1:最低賃金委員会における「最低賃金額決定単位」及び「事業種類別区分適用」に関する議決
表1:画像

出所:韓国最低賃金委員会発表資料(2019年7月12日付)

労使の当初改定要求案に24%の開き

第7回全体会議(6月27日)において、労働者委員は時給10,000ウォン(現行比19.8%増)の当初要求案を提示した。時給10,000ウォンは文在寅大統領の社会的約束であり、大統領選挙では達成時期は異なるものの与野党すべてが10,000ウォンを公約していた。最近2年間の最低賃金引き上げにより低賃金労働者が減少し、賃金不平等が改善するプラス効果が認められるが、賃金格差縮小のためにさらなる改善が必要であると主張した。

他方、使用者委員は、第8・9回全体会議(7月3日・4日)において、時給8,000ウォン(現行比4.2%減)の当初要求案を提示した。現在の時給8,350ウォンは企業の支払能力を超えており、市場の歪み、雇用への副作用、零細企業の経営困難を引き起こしている。最低賃金未満率と影響率が上昇傾向にあり、有給週休時間(注1)の効果までを考慮し、下方調整が必要であると主張した。

第11回全体会議(7月10日)において、労働者委員は時給9,570ウォン(現行比14.6%増)、使用者委員は時給8,185ウォン(現行比2.0%減)の第1回修正案をそれぞれ提示したが、労使双方が自らの案の正当性を主張するばかりで議論は進展しなかった。

第12・13回全体会議(7月11日・12日)において、労働者委員は時給8,880ウォン(現行比6.3%増)、使用者委員は時給8,590ウォン(現行比2.87%増)の第2回修正案を提示した(表2)。在籍委員27名が出席して、この2案に関する採決が行われ、使用者委員案が賛成15名、反対11名、棄権1名で可決された。

これは、現行の最低賃金(時給8,350ウォン)から240ウォン引き上げ、時給8,590ウォン、月換算(週40時間、有給週休時間を含む、月209時間)で1,795,310ウォン(前年比50,160ウォン増)とするものである。2.87%の引き上げ率は、アジア通貨危機時(1998~1999年)の2.7%、世界金融危機直後の2010年の2.75%に次いで低い水準である。

表2:2020年最低賃金労使委員提示案 (単位:時給、ウォン)
表2:画像

* (  ) 前年比引上げ率

出所:韓国最低賃金委員会発表資料(2019年7月12日付)

最低賃金委員会の決議に関する労使の立場

韓国労働組合総連盟(韓国労総)は、今回の最低賃金決定案の手続きと内容には大きな欠陥があるため、雇用労働部長官に異議を提起し再審議を要請すると表明した。使用者委員は、2.87%引き上げ案のいかなる合理的根拠も提示せず、ひたすら経済状況と小商工業者の経済的負担を理由とする低率改定の必要性のみを主張するばかりであったと批判した。経済成長率と物価上昇率の合計にも及ばない実質賃金削減レベルでは、低賃金労働者の生活の安定という最低賃金制度の根本的な趣旨に反すると主張した。

全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、2020年の最低賃金引き上げ率2.87%は、最低賃金法が定める決定基準(労働者の生計費、類似労働者の賃金、労働生産性及び所得分配率)を無視して、使用者が一方的に提示した法的根拠のないものであると主張した。政府与党がこれまで主張してきた「最低賃金引き上げ速度調節」の立場が、政府が任命した公益委員を介して、そのまま貫徹された結果であり、昨年度の最低賃金の算入範囲の拡大の影響を考慮すると実質的なマイナスである。最低賃金審議期間を通じて、公益委員は最低賃金労働者の切迫した要求と声をほとんど聞くことがなかったと批判した。

韓国経営者総協会は、零細・小商工業者をはじめ、すべての企業が経験している苦痛や不安、競争力低下、経済見通しなどの諸要因を考慮すると、2020年適用最低賃金は凍結以下で決定する必要があったが、破局を避け、国民経済主体すべての力を結集するため、2.87%の水準で対処するよう努力していくとしており、政府に対しては経済活性化のための諸施策を要請した。また、現在のように最低賃金が非常に高い状況では、業種別、規模別、地域別の市場競争条件、資本と労働の集約度、営業利益と付加価値の水準、生活費水準などの違いが発生しており、これらによる区分適用の問題が課題となっていると主張した。

雇用労働部は2019年8月5日、最低賃金委員会の決定どおり2020年1月から適用する最低賃金を2019年より240ウォン(2.87%)引き上げ時給8,590ウォンとすることを告示した(図1)。

図1:最低賃金の推移
図1:画像

出所:韓国最低賃金委員会資料(2019年7月12日付)

参考

  • 韓国最低賃金委員会ウェブサイト
  • 韓国雇用労働部ウェブサイト

参考レート

関連情報