社会経済委員会と企業評議会の設立の動き
 ―企業内労使対話の改革の進展

カテゴリー:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2019年7月

効率化や簡素化によって企業内労使対話の質の向上につなげる改革がすすめられている。企業単位では、労働組合、企業委員会、衛生・安全・労働条件委員会、社会経済委員会等を通した労使対話機会の設置が法律で規定されている。複数の委員会が混在することで、目的や趣旨が重複することを防ぐとともに、労使対話の形骸化や委員会メンバーにとって過度な負担とならないようにすることが目的である。

企業委員会や衛生・安全・労働条件委員会の設置義務

従業員数50人以上の企業では企業委員会(comité d’entreprise)の設置が義務づけられている。同委員会は、経営や戦略、組織、人材配置などについて、経営陣から従業員側への情報提供や労使間の質疑の場となっている。メンバーは選挙で従業員の中から選出されるが、労働組合と異なり労働条件を労使で交渉する場ではない。従業員及びその家族のための福利厚生や文化活動に関する運営、経営者から支給された資金の管理や従業員に対する補助金の支給なども行っている。

衛生・安全・労働条件委員会(comité d’hygiène, de sécurité et des conditions de travail)は、従業員数50人以上の企業に設置が義務づけられ、従業員の労働環境や安全や健康の維持や改善を主たる目的としている。

従業員代表(délégués du personnel)は、従業員数11人以上の企業において、選挙で選出することが義務づけられている。使用者に対して、賃金や企業内規則、健康や安全など労働に関係する従業員の主張や要求を、従業員を代表して行う。企業内で不法行為や健康に関わる問題、差別やハラスメントといった行為などがある場合は、使用者や労働監督署に通報することもある。従業員数50人未満の企業で、企業委員会と衛生・安全・労働条件委員会がない場合は、従業員代表の果たす役割や責任は大きい。

社会経済委員会への統合の義務づけ

これらの委員会等は、類似する議題を複数の委員会で取り上げることが散見され、事務手続き上の重複を改善すべきとの指摘があった(注1)。前オランド政権下の2015年の労働法改革(レブサメン法)により、従業員数50人以上300人未満の企業において、企業委員会や衛生・安全・労働条件委員会の統合が、使用者の意向により、従業員や労働組合の同意を得ることなく、行えるようになった。さらに、マクロン政権下における2017年の労働法改革(ペニコー・オルドナンス)によって、従業員数11人以上の企業を対象として、上記の各種委員会等の役割を社会経済委員会(comité social et économique)に統合することを義務づけた(注2)。統合は遅くとも2020年1月1日までに行なわなければならない。また、企業評議会(conseil d’entreprise)が新たに設けられ、義務ではないが、労働組合代表の役割(délégués syndicaux)を同委員会に統合することも可能となった。

委員会統合によって進む効率化

マクロン政権下における17年9月の労働法改革から1年が経過した18年9月に労働省は、改革の実施状況に関する報告書を発表した。7月末現在、各種委員会が統合され社会経済委員会が設立されたのは8814件で、これにより委員会メンバーのポストが36000から24000へ減少し、効率化が進んでいることがわかる。

企業評議会の設立の事例は、2社のみで、その一つSNIE(従業員数460人)は、パリ首都圏に本社を置く中規模企業である(注3)。同社では2018年3月に各種委員会を統合して社会経済委員会を設置、2018年6月29日には企業評議会が設置され、最初の企業事例となった。同社で委員会を担当する従業員は、16年間にわたって経営側との全ての交渉や従業員との意見交換などを担当してきたが、この任務を独りで背負うのは重すぎるとしており、委員会が統合されることによって負担軽減されるため、今回の改革を歓迎している。同社社長は、今回設立された企業評議会に基づく労使対話の継続が、従業員の満足度を向上し、労働の質につながるとしている(注4)。企業評議会の設立件数は決して多くはないが、労使対話のあり方に確実な変化が起きていると指摘している(注5)

(ウェブサイト最終閲覧:2019年6月13日)

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