州公務職員の賃上げ交渉、合意へ
 ―7.8%の段階的引き上げ

カテゴリー:労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2019年5月

統一サービス産業労働組合(ver.di)とドイツ官吏同盟協約連合(dbb)は3月2日、州政府代表(TdL)との間で続いていた労使交渉に合意した。これによりヘッセン州を除く(注1)全州の公務職員100万人に対し、三段階に分けて計7.8%の賃上げが実施されることになった。

州の公務職員の労使交渉体制

ドイツの公務員は2種類に分けられる。公法上の忠誠関係にあり、昇進規則等が法令で定められているため労使交渉による給与改定が行われない「官吏(Beamte)」と、私法上の雇用関係にあり、労使交渉による給与改定が行われる「公務職員(Tarifbeschaftigte)」である(注2)。どちらも団結権を有しているが、「官吏」は法律に係る特定事項(公務員制度一般、給与、年金、勤務時間、昇任基準、職員研修・昇任試験等)の聴聞手続きがあるのみで、原則として協約締結権はない。また、争議権に関する明文規定はないが、諸原則から官吏の争議禁止は当然とされ、その代替として終身雇用や恩給制度がある。一方、公務職員には労働争議権がある。

公務員の産業別労働組合は、以前は“官吏の職員組合”としての「ドイツ官吏同盟協約連合(dbb)」、“公務職員労働組合”としての「統一サービス産業労組(ver.di)」という位置づけだったが、近年はその区別がなくなりつつある。また、両組合は長年対立関係にあったが、2007年頃から協調して同時に交渉に参加するようになった。

使用者である州政府は、「ドイツ州協約共同体(TdL)」を組織し、TdLが協約当事者となっている。

かつてはセレモニー的に約200人が参集して始まった労使交渉だが、現在は、使用者側のTdL 4 名(州の財務大臣等)と、組合側4 名(ver.di 2 名、dbb 1名、警察か教育から1 名)で、実質的な交渉がスタートする。最終的に合意に達した場合は、労使が同席して記者会見を行う。

主な合意内容

労働組合側は、当初12カ月以内に6%の引き上げと、少なくとも月200ユーロ以上の賃上げを求めていた。最終的に2年半に及ぶ段階的な賃上げとなったが、当初の要求以上の結果を引き出すことに成功した。今回の主な合意事項は、以下の通り;

  • 州の公務職員に対し、三段階にわたる賃上げが実施される。今年1月に遡及して、まず3.2%引き上げる。続いて2020年1月に3.2%、さらに2021年1月に1.4%引き上げる。このような段階的な引き上げで、現在の水準から見ると、33カ月間で少なくとも1人当たり月240ユーロ以上の賃上げを行う。
  • 職業訓練生についても二段階の賃上げが予定されており、1月に遡及して月50ユーロ、2020年1月にさらに50ユーロ、引き上げられる。
  • 公的医療従事者は、今回の賃上げに加えて、月120ユーロが上乗せされる。
  • 教員は、今回の賃上げに加えて、月75~105ユーロが上乗せされる。

労使双方が今回の妥結を評価

ドイツでは現在、好景気による人手不足のため、民間産業での賃上げが続いている。他方、公的な保育・医療・介護施設等で働く公務職員の賃金は相対的に低く、労働条件が良い民間へ人が流れ、人員の補充に苦心している。

このような背景を踏まえて、統一サービス産業労働組合のブジルスケ委員長は、地元メディア(Deutsche Welle)の取材に応え、「私たちは、公共サービスに従事することへの魅力を継続的に改善することに成功した。労使双方にとって、これは大きな勝利だ」と述べ、「近年の交渉の中では最も良い結果となり、公務職員にとって良い日になった」とコメントした。また、州政府の交渉担当者だったベルリン州のコーラッツ財務大臣も今回の結果を「良い妥協案である」と評価している。

参考資料

  • dbb (Einkommensrunde, 04.03.2019), ver.di(Pressemitteilungen/2.3.2019),
    Deutsche Welle(3.3.2019), Bloomberg(3.03.2019)、財団法人自治総合センター(2012)『諸外国の地方公務員の給与決定に関する調査研究会』、財団法人自治体国際化協会ロンドン事務所(2011)『ドイツの地方自治(概要版)』ほか。

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