最低賃金の時給換算方式を明確化する最低賃金法施行令の改正

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  • 国別労働トピック:2019年3月

韓国政府は2018年12月31日、最低賃金法施行令の改正案を閣議決定し、2019年1月1日から施行した。改正施行令は、従来から議論となってきた月給制労働者の最低賃金の時給換算方式を明確することを目的としている。しかし、人件費負担の増加を懸念する経営者団体は施行令の適用に強く反発している。

雇用労働部と最高裁判所の見解が相違

韓国の勤労基準法は、使用者に対し、労働者に1週間に平均1回以上の有給休日を保障するよう義務づけている。週15時間以上働く労働者は、週休日に働かなくとも1日分の賃金(週休手当)を受給できる。例えば、1日8時間・週5日勤務の場合、週40時間に週休時間8時間を加えた48時間分の賃金を受け取ることができる。さらに一部の大企業においては、法定週休日の他、労使合意に基づき、さらに1日(4時間または8時間)を約定有給休日としており、法定週休日と合わせると、実際の労働時間よりも12~16時間分多い賃金を受給できる。

最低賃金額(時給)は、算入対象となる月給額を月労働時間で割って計算することとされている。しかし、最低賃金法には、最低賃金の計算に週休日や約定休日が含まれるかどうかに関する規定がなかった。

雇用労働部は、最低賃金の計算に法定週休日及び労使合意に基づいて付与される約定休日が含まれると解釈してきた。週40時間労働、1カ月平均4.345週(52週÷12月)の場合、月労働時間は、月の所定労働時間174時間(40時間×4.345週)に法定週休時間35時間(8時間×4.345時間)を加えた209時間となる。これに労使合意による約定休日時間35時間(8時間×4.345週)を加えると、月労働時間は最大243時間となる。

他方、大法院(最高裁判所)は、法定週休手当を最低賃金の月給額(分子)に含め、法定週休時間は月労働時間(分母)から除く判断を示している。

改正最低賃金法施行令の内容

韓国政府は2018年12月31日、月給制労働者の最低賃金の時給換算方式を明確化するため、改正最低賃金法施行令(案)を閣議決定し、2019年1月1日から施行した。

改正施行令は、月給制労働者の最低賃金を時給に換算する際、労使合意に基づく約定休日を除外することとした()。これは、経営側から、約定休日を有給とする企業の場合、時給換算に適用する労働時間(分母)が最大243時間となり、時給が最低賃金額を下回って人件費負担がさらに増加する懸念が提起されたためである。

他方、法定週休日は最低賃金の時給換算の計算に含めることとした。その理由は、①最低賃金委員会が最低賃金額(時給)を示す際、法定週休時間を加えた209時間を基準とした最低賃金月額を併記してきたこと、②2018年の最低賃金法改正に関する国会審議において、209時間を想定して議論がなされたこと、③産業現場でも209時間を基準に算定する慣行が定着していること――である。

図:月給制労働者の最低賃金の時給換算方式
図:画像

韓国では、賞与や福利厚生費が実質的な賃金として定期的に支給され、基本給が最低賃金水準であっても、定期賞与や福利厚生費と合計すると年収が高い労働者がいる。最低賃金を引き上げることにより、こうした年収の高い労働者の賃金の時給換算額が最低賃金額を下回ってしまう恐れがあった。このため2018年に最低賃金法を改正し、2019年1月1日から毎月支給する賞与及び福利厚生費の一部を最低賃金の算入範囲に含めることとした。しかし、2月以上の周期で支給する賞与等は最低賃金に算入できない。

2019年1月1日からの最低賃金10.9%引き上げに伴い、政府は、賞与等を毎月支給に変更すると、最低賃金違反に該当しない企業に限り、猶予期間を与えることとした。賃金制度変更のために就業規則の改正が必要な場合は最長3カ月、団体協約の改正が必要な場合は最長6カ月(3カ月+必要に応じて3カ月追加)、労働基準監督の指示に基づき自律的是正期間(猶予期間)を付与する。ただし、時給制アルバイトのように、最低賃金額のみを受け取る低賃金労働者に関する最低賃金違反の場合、猶予期間は適用されない。

経営者団体は、改正施行令の適用に強く反発

韓国政府は、「今回の施行令の改正は、30年間行ってきた行政指導を明文化するだけで何も変わるところはない」との確固たる立場を示している。イ・ナギョン国務総理(首相)は、「週休手当は1953年の勤労基準法制定以来、65年間持続された法定手当で、今回新たに追加されるものではない」と述べた。

韓国経営者総協会は、「改正施行令は、追加的な最低賃金基準を満たすことができない使用者を行政懲罰に追い詰めるものである。閣議決定には困難で差し迫ったビジネスの現実が反映されておらず、使用者の財源や権利を1つの施行令によって破壊するものである」「政府は、改正施行令の実体的及び手続的な問題に加えて、全体的に不安定な経済情勢、短期間での過度な最低賃金引上げ、及び企業の最低賃金支払い能力の枯渇など、企業を取り巻く状況を考慮すべきである」と強く抗議した。

全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、「最低賃金算定の際の分子である賃金に週休手当を入れ、分母である労働時間に週休時間を含めることは当然の内容である」「雇用労働部は、賃金体系改悪の時間稼ぎと最低賃金違反に免罪符を与えることなく、積極的な違反摘発に乗り出すべきである」と主張した。

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