2018年5月の最低賃金の引上げの影響

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2018年5月14日、法定最低賃金が従前の日額3600チャットから4800(約US$3.60、398円)チャットへ引上げられた(33.3%の引上げ)。従前の最賃額は、2015年9月から実施されているもので、3年弱を経て初めての改定となる。

2016年から労組が求めていた引上げ

ミャンマーの最低賃金は、政労使の代表が参加する国家最低賃金策定委員会(National Committee for the Minimum Wage)で審議される。代表はそれぞれ、政府が閣僚級、労使が産業別業界団体やナショナル・センターなどで構成されている。

最低賃金法は2年ごとの見直しを定めており、2015年9月に設定された1年後くらいから労組を中心として引上げの必要性が指摘されていた。労組側からは5600~7000チャットへの早期の引上げの必要性が訴えられていた。

本格的な見直しの審議が始まったのは2017年10月からで、労働組合側は5600チャット、使用者側は4000チャットをそれぞれ主張していた。

33.3%の引上げと適用拡大

国家最低賃金策定委員会の審議は17年12月までに終了し、日額の法定最低賃金を4800チャット(1日8時間労働)、時間給は450チャットから600チャットに引き上げとする決定が18年1月2日に発表された(注1)。公表後、2カ月間の意見公募期間が設けられ、4092件の意見や苦情がよせられた。労働者側の意見のほとんどが5600チャットの要求を支持するものだった一方で、使用者側の意見では4000チャット以上は支払い不可能というものだった。こうした意見を踏まえて地域別および国レベルの最賃委員会で労使が話し合いをもち、3月5日に当初提案通り、4800チャットとする決定が下された(注2)

今回の改定で適用対象企業は従来の従業員15人以上の企業から10人以上に拡大することになった。一方、10人未満の家族経営や零細企業は、対象外のままである。

雇用喪失の懸念

最賃引上げ直後からその影響が現れ始めた。ラインタヤ工業団地(Hlaing Tharyar Industrial Zone)の中国系企業、Seduno (Myanmar) Fashion Co Ltd(従業員数約400人)は、6月31日に工場閉鎖を従業員に伝えた。事業継続が困難と判断した理由として、生産量の減退、出荷遅延や人件費を含む事業コスト高騰を挙げ、翌7月1日に閉鎖した(注3)

事業コスト高騰の影響を受けて、2018年7月時点で、今後2カ月の間にヤンゴンの工業団地では少なくとも14の工場が閉鎖される可能性がある。該当する工場が閉鎖されれば、3000人ほどの雇用が失われることになる(注4)

人件費と地価の高騰による直接投資への影響

労働組合協同協議会(Cooperating Committee of Trade Unions)の事務局長は、今後、工場閉鎖が増えて、失業者が急増するのでないかと懸念。「政府は労働問題に関心を示さず、雇用機会創出のための対策を何ら行っていない」と批判している(注3参照)。

その一方で、ミャンマー縫製業協会の会長は、工場閉鎖は事業コスト、特に人件費の高騰が原因だとしている。人件費の安さが魅力で縫製業に投資した国内外の企業にとって、投資に着手した当時に比べてコストは2倍に上がったという(注4)。人件費が上がった一方で、労働生産性は向上せず、ASEAN諸国の水準と比較して低水準が続いている問題が指摘される。工場閉鎖に追い込まれなくとも、ヤンゴン市内の地価の高騰に伴って、工場の移転を迫られる企業もあるだろうとされている(注4参照)。

(ウェブサイト最終閲覧日:2019年1月11日)

参考レート

  • 100ミャンマーチャット(MMK)=7.1588円(2019年1月29日現在 Exchange-Rate.org新しいウィンドウ)

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