「より輝く未来のための仕事」
―ILO仕事の未来世界委員会報告

カテゴリ−:労働法・働くルール労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2019年1月

国際労働機関(ILO)は1月22日、『より輝く未来のための仕事(Work for a brighter future)』と題する報告書を発表した。報告書では、人口動態の変化、科学技術の飛躍的な進展、生産手段と雇用の変化などの複数の要因によって、かつてないほど急速で大規模な変化が「仕事の世界(World of work)」で起きていることを指摘し、「人間を中心に据えた取り組み」の重要性を訴えている。

次の100年に向けて

ILOは、第一次世界大戦が終結した1919年に設立された。「社会正義の実現こそが平和の基礎であり、重大な社会不安を引き起こす不公正や、貧困につながる劣悪な労働条件をなくす」という理想を掲げ、これまで政府、労働組合団体、使用者団体の三者構成を柱に、様々な取り組みを実施してきた。2019年は、ILO創設100周年の年に当たり、その節目として、次の100年を見据えた以下の7つのイニシアチブ(政策課題)が掲げられている。

7つのイニシアチブ

  1. 仕事の未来(The future of work)
  2. 貧困撲滅(The end to poverty)
  3. 働く女性(The women at work)
  4. 環境(The green)
  5. 基準(The standards)
  6. 企業(The enterprises)
  7. ガバナンス(The governance)

特に、「仕事の未来イニシアチブ」は、取り組みの中心的役割を果たしており、同イニシアチブの下で2017年8月に「仕事の未来世界委員会」が設立された。委員会は、スウェーデンのステファン・ロヴェーン首相と南アフリカのシリル・ラマポーザ大統領が共同委員長を務めるほか、世界各地の研究機関、使用者代表、労働者代表、政府、非政府組織の第一線で活躍する27人の委員で構成されている。

報告書の主な提案項目

今回発表された報告書は、未来の仕事に関する新たな課題の把握と効果的な対策方法を模索するため、約15カ月間にわたり、110カ国以上で政労使が参加する国内対話を行った結果を、同委員会が分析し、まとめたものである。

報告書は、以下の3点を基盤として、10の重点項目の達成に向けた取り組みの提案を行っている。

人々の能力に対する投資の拡大

  1. 生涯学習
  2. 移行支援
  3. 男女平等のための変革的取り組み
  4. 社会保護の強化

労働関連制度への投資拡大

  1. 共通の労働保証(Universal Labour Guarantee)の確立
  2. 時間主権の拡大
  3. 労使団体の活性化
  4. ディーセントワークのための技術

持続可能なディーセントワーク(注1)への投資拡大

  1. 持続可能なディーセントワークを促進するための経済的変革
  2. 人間を中心に据えたビジネス経済モデルへのインセンティブ移行

その上で、報告書は、現在の主な取り組み目標になっている「労働と生活の質の向上、選択肢の拡大、男女格差の解消、グローバルな不平等の解消は、そのまま放置しているだけでは解決しない。私たちが断固とした行動を起こさなければ、いとも簡単に、さらなる不平等や不確実性が増す世界に足を踏み入れることになるだろう」と述べた上で、「AIの進展やロボット化/自動化は、技能の陳腐化や失業をもたらすが、他方で、これらの技術的進展を新たなチャンスとして捉えてみると、環境保全とともに何百万という雇用創出をもたらす原動力にもなる」点を強調している。

ILOの要請に応じ、日本でも討議

今回の報告書は、ILOのガイ・ライダー事務局長報告として6月に開かれる第108回ILO総会に提出される。そこでは、すべての加盟国が参加してILO創設100周年を祝うとともに、本報告書について議論を交わし、100周年宣言にかかる今後の取り組みとして採択されることが期待されている。

そのため、ガイ・ライダー事務局長は今回の報告書の提案について、加盟各国で十分に検討した上で、総会での討議に参加するよう求めている。この呼びかけに応えるものとして、日本でも2月にデボラ・グリーンフィールドILO政策担当副事務局長等が同報告書の内容を紹介し、日本の政労使等がパネル討議を行うシンポジウムを開催する予定である。

参考資料

  • Global Commission on the Future of Work (2019) Work for a brighter future, ILO. ILO本部サイト、ILO記者会見動画、ILO駐日事務所サイトほか。

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