個人所得税法の改正
―中・低所得層の負担減へ
2018年8月31日、中国政府による個人所得税修正案が、全国人民代表大会常務委員会で可決された。基礎控除額の引き上げや中所得以下の所得層に対する減税措置、新たな付加控除項目の追加などの改正を盛り込んだものだ。2018年10月1日から基礎控除額など一部改正が先行で開始、2019年1月1日以降、改正の内容が全面的に施行される。
基礎控除の拡大
個人所得税法改正の目的は、中低所得層の負担を減ずることで国内消費を刺激することにある。改正によって、まず、基礎控除額が従来の3500元から5000元(約8万2千円)に引き上げられた。この金額は、都市部住民1人あたり消費支出、就業者1人あたりの扶養者数、住民の消費価格指数などに基づいて決定された(注1)。国家統計局の統計によると全国都市部就業者1人あたりの消費支出額は、2017年は月3900元、2018年は推計で月4200元である。さらに所得税の減税や控除項目の拡大によって住民1人あたりの可処分所得が増加し、消費支出が増えると見込まれる。
中・低所得者に対する所得税の減額
改正は、税率面にも及ぶ。1つは課税項目・算出方法の変更で、従前は、11項目の所得区分につき、各項目に定められた方式で課税する算出方法(分離課税)がとられていた。改正後は、所得区分が9項目に減り、そのうちの一部は合算して課税する方式(総合課税)が採用される。9つの所得区分は次のとおり。①賃金、給与による所得;②役務報酬所得(注2);③原稿料による所得;④特許使用料による所得;⑤経営による所得;⑥利息・配当・割増配当による所得;⑦財産賃貸による所得;⑧財産譲与による所得;⑨一時所得。そのうち、①~④の項目を総合課税とし、⑤~⑨の項目を分離課税とする。
2つ目は、各税率の対象所得額の変更である。上記①~④の総合課税項目(主に賃金・給与所得者)については、累進税率が適用される。改正によって、7段階の税率は現行のまま、より低い税率(3%、10%、20%)の対象となる所得層が拡大された(表1)。具体的には、控除後の所得額が年30万元(約494万円)未満の場合、減税となる可能性が高い。また、個人事業主等が対象となる経営所得項目(個人事業主等)は、5段階の累進税率は現行のまま、より高い課税所得額が設定された(表2)。具体的には、課税所得額が50万元(約823万円)未満の場合、減税の恩恵を受けることとなる。⑥~⑨の項目は改正を受け、一律20%が適用される。
税率 (%) |
所得額(控除後)(単位:元) | |
改正後 | 現行 | |
3% | 36,000以下 | 18,000以下 |
10% | 36,000~144,000 | 18,000~54,000 |
20% | 144,000~300,000 | 54,000~108,000 |
25% | 300,000~420,000 | 108,000~420,000 |
30% | 420,000~660,000 | 420,000~660,000 |
35% | 660,000~960,000 | 660,000~960,000 |
45% | 960,000以上 | 960,000以上 |
税率 (%) |
所得額(単位:元) | |
改正後 | 現行 | |
5% | 30,000以下 | 15,000以下 |
10% | 30,000~90,000 | 15,000~30,000 |
20% | 90,000~300,000 | 30,000~60,000 |
30% | 300,000~500,000 | 60,000~100,000 |
35% | 500,000以上 | 100,000以上 |
付加控除項目も追加
これまでも、基本養老保険(年金)、基本医療保険、失業保険などの社会保険費と住宅積立金は、「特定項目」として所得から控除されていた。今回、新たに子女教育、継続教育、難病医療、住宅ローンの利息あるいは賃貸住宅家賃、老人扶養親族などの支出が「新たな付加控除項目」として追加されることとなった。具体的な範囲、基準や実施時期については、現在国務院によって策定中である。
個人所得税法に「183日ルール」を明記
「183日ルール」とは、中国に滞在する外国人に対し、中国での滞在日数が年間183日を超えれば「居住者」、183日以内であれば「非居住者」と区分し、「非居住者」には中国国内での租税を課さないという、日中租税条約等一般に適用されているルールを指す。今回の修正により、個人所得税法に「183日ルール」が明記されることとなった。
その内容は、中国本土内における住所の有無にかかわらず、一納税年度に滞在日数が累計183日を超えた場合、「居住者」と認定され、中国本土で得た所得に対して個人所得税を課税する。他方、中国本土内に住所がなく居住もない場合、あるいは、住所がなく一納税年度に滞在日数が累計183日以下の場合、「非居住者」と認定され、中国国内における納税の義務が生じない。
なお、1年以上5年以下の長期滞在者を対象とした海外所得への課税は、これまで免除されており、今後も継続される見込みだ。5年を超える長期滞在者は、中国国外での所得についても個人所得税を納めなければならない。
注
- 財政部の記者会見(2018年8月31日)による。(本文へ)
- 役務報酬所得とは、個人がデザイン、装飾、据付、製図、化学分析、測定検査、医療、法 律、会計、コンサルティング、講演、報道、放送、翻訳通訳、校閲、書画、彫刻、テレビ 映画、録音、録画、公演、実演、広告、展示、技術サービス、紹介サービス、仲介サービス、代行サービス及びその他の労務に従事して取得する所得を指す。「中華人民共和国個人所得税法実施条例」(2011年修正)より。(本文へ)
参考文献
- 国家税務総局、人民網、新華網、新京報、経済日報
参考レート
- 1中国人民元(CNY)=16.12円(2019年1月17日現在 みずほ銀行ウェブサイト)
2019年1月 中国の記事一覧
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