ギグ法を巡る議論
―ギグ・エコノミー下の労働者の権利

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  • 国別労働トピック:2018年8月

連邦労働省労働統計局(BLS: Bureau of Labor Statistics)が2017年5月に実施したコンティンジェント(臨時)労働調査の結果が本年中頃に出る見通しとなったことを受けて、数が増えていると言われる独立請負労働者(Independent Contractor)を保護するためのギグ(GIG法)立案に向けた議論が連邦議会で盛んになっている。

臨時労働

BLSがコンティンジェント労働調査を実施したのは10年以上前の2005年のことである。コンティンジェントは、日本ではあまり耳慣れない言葉だが、偶発、臨時、不確か、といった意味を表す形容詞である。したがって、コンティンジェント労働といえば、短期的で臨時の労働という意味になり、派遣やパートタイム労働、事前に登録した労働者を必要に応じて呼び出して短期間の就労を行わせるオンコールワークや短期的な個人請負労働も含まれることになる。

日本では派遣やパートタイム労働の増加が注目されることが多かったが、これらは雇用という範疇のなかでの課題だった。一方、アメリカでは雇用のみならず請負を含めた形で、不安定で臨時の働き方としてコンティンジェントワーカーがとらえられてきたのである。

このコンティンジェントワーカーのうち、個人請負労働者の数が急増しているとの指摘がある。その背景にはギグ・エコノミーの急速な拡大がある。ギグ・エコノミーは日本では分かち合いを意味するシェアリング・エコノミーであるとか、省略してシェア・エコのように称されることが多いが、アメリカではスマートフォン等の情報通信端末を通じて利用者とサービスの提供者をその場限りでつなぐ実態から、コンサートでミュージシャンがその場だけ集まって演奏して解散することを意味するギグからギグ・エコノミーと呼ばれる。そのため、こうした働き方をギグ労働という。

ギグ労働者の数は増えているか

ギグ・エコノミーの拡大と同様にギグ労働者の数はほんとうに増えているのか。現在、このことが連邦議会で大きな関心を集めている。なぜならば、個人請負労働者は、健康保険、年金、失業保険といった社会保障の適用から除外されているため、労働者の生活において不安定さが増すだけでなく、将来的に生活ができなくなった場合の負担を政府が追わなければいけない可能性が高まるからである。

コンティンジェント調査の実施には相応の予算額を必要とするが、従来は連邦議会要求を承認してこなかった。その状況がオバマ政権で変わり、ようやく2017年5月の調査実施となったのである。

今回は前回の調査項目と比べて次のような変更点がある。派遣、パート、オンコール、請負のようなコンティンジェント労働の分類をよりわかりやすくする基準や、仕事満足度、失業保険・年金・健康保険といった社会保障の有無などである。連邦政府機関であるBLS以外にも調査はこれまでも行われてきた。たとえば、カッツとクルーガー(2016)はコンティンジェント労働者の数が2005年2月の10.7%から、2015年2月の 15.8%へ伸びているとした。連邦準備制度理事会(Federal Reserve)が行った調査では36%、フリーランスで働く労働者の権利を守る組織であるフリーランサーズユニオンの調査でも36%がギグ労働者だとする。それぞれの調査は、調査対象や定義が異なるため厳密な比較ができない。また、主たる収入の糧としてギグ労働に従事しているかどうかは不明である。したがって、BLSによる公式調査の結果が待たれているのである。

ギグ法 ―雇用社会か否か

連邦議会では、共和党、民主党を問わず、雇用、請負の別なく継続可能な年金、健康保険、失業保険などの社会保障の必要性が議論されている。しかし、その方法には温度差がある。共和党はニューディール政策以来継続している労働基準法そのものを解体しようとする一方、民主党はあくまでも雇用労働を基盤とし、ギグ労働に不法に分類されている労働者を雇用に区分し直したうえで、それ以外の労働者を保護するという立場をとっている。

こうした政治的な背景を加味すれば、ギグ法の議論はBLS調査結果の発表後、もしくは11月の中間選挙を待って、勢力図が明らかになってから活発化するだろう。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Richardson Tyrone(2018) Gig Bills May Be in Works After Labor Department Report, Daily Labor Report, May 2. 2018

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