ギグエコで働く労働者は増えていない
―BLS、臨時労働(Contingent Work)労働調査結果

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  • 国別労働トピック:2018年8月

連邦労働省労働統計局(BLS: Bureau of Labor Statistics)は、コンティンジェント(臨時)・オルタナティブ(代替)雇用契約調査結果を6月7日に公表した。

2017年5月現在、コンティンジェント労働者は586万人で就業人口の3.8%だった。また、フリーランスを含む独立請負労働者(independent contractor)は、1060万人で就業人口の6.9%だった。

メディア各社は、この数字が大方の予想を裏切るほど低いものとして報じている。

ギグエコの拡大

コンティンジェント・オルタナティブ雇用契約調査は、2005年に行われた前回調査から10年以上の年月を経た2017年5月に実施された。ギグ・エコノミーの急速な拡大のなか、残業代や失業保険、健康保険、年金といった保障がない状態にいる請負労働者の数が急増しているとの見込みが背景にある。

ギグ・エコノミーの意味は、ミュージシャンがその場だけ集まって演奏して解散するギグセッションからきている。スマートフォンのアプリケーションを媒介にして利用者とサービスの提供者をつなぐ配車業であるウーバー社が2009年に登場して以降、請負労働者として扱われるギグ・エコノミーの労働上の問題が指摘されるようになっている。

オルタナティブ雇用契約は減少

調査は、コンティンジェント労働とオルタナティブ雇用契約の2種類について行われた。

一つは、1年以上の継続した雇用期間を望めないと感じているコンティンジェント(臨時)労働であり、もう一つは、雇用主と被雇用者という関係ではない独立請負労働者、オンコールワーカー、派遣労働、請負企業に雇用されるといった働き方をする従来型のオルタナティブ(代替)としての労働である。このうち、オンコールワーカーとは、必要なときに一定期間だけ呼び出される労働者のことで、代用教員や建設労働者などが該当する。

2017年5月現在、それぞれの人数と就業人口に占める割合は、独立請負労働者が1060万人で6.9%、オンコールワーカーが258万人で1.7%、派遣労働者が136万人で0.9%、請負企業が93万人で0.6%だった。前回調査の2005年における就業人口にしめる割合は、独立請負労働者が7.4%、オンコールワーカーが1.8%、派遣労働者0.9% 請負企業が0.6%だったことから、ギグエコの拡大で個人請負としての独立請負労働者の割合が大幅に増えているとの推測を覆したことになるどころか、むしろ割合としては減少していることを明らかにしたのである。

調査はスマートフォンのアプリケーションを通じた労働の提供に関する設問項目を新たに加えてその数を計上しており、時期をあらためて分析を行うとしている。

これに関連し、フォーブス誌(注1)やブルームバーグ(注2)等では、連邦労働省の調査結果が副業としてオルタナティブ雇用契約を行っている部分を考慮していないとして、実際はその数がもっと多いはずだと主張している。

しかし、連邦労働省の調査結果はオルタナティブ労働について週35時間以上のフルタイムかそれ未満のパートタイムかの双方について聞いており、短時間のパートタイムに副業が含むとすれば数字に変動はない。

オルタナティブ雇用契約労働者の特徴

オルタナティブ雇用契約で働く人はどのような特徴を持っているのだろうか。

独立請負労働者は3人に1人が55歳以上であり、通常の働き方をする労働者の場合、4人に1人と比較して多く、年齢の高い労働者の働き方となっている。また、3人に1人が男性であり、白人が多い。これは年齢と経験を経た上で独立する専門的なスキルを持つ労働者が多いことが推測できる。産業では建設に多い。

オンコールは65歳以上が多く、週35時間未満のパートタイムが45%を占め、産業では建設とヘルスが多い。

派遣労働者は大卒未満の学歴が多く、4人に1人が週35時間未満で製造業に多い。

請負企業に雇用される労働者は3人に2人が男性で、コンピューター専門職や警備といったサービス業に多い。

週給で比較すれば、請負企業に雇用される労働者は専門職中心であるためもっとも高く、週給1,077ドルで、派遣労働者がもっとも低く、週給521ドルとなっている。

コンティンジェントとは何か?

コンティンジェント労働はこれまで臨時労働であるとか非典型労働として日本語に訳されてきた。一般的には日本の派遣労働やパートタイム労働と同意義であるように理解されることがあったが実態は異なる。

連邦労働省は調査を実施するにあたり、コンティンジェントを厳密に定義している。コンティンジェントとは、明示的であれ暗黙であれ、継続した雇用契約を有しないことをいう。たとえば、6カ月の代用教員契約を結び、6カ月後には代用教員という仕事そのものが無くなってしまえば、それはコンティンジェントである。一方で、学生が在学中にファーストフードで働いていて卒業と同時に仕事を辞めるといった場合、学生にとって当初から仕事を辞めることはわかっていたことだが、その仕事自体がなくなるわけではないため、こうした仕事はコンティンジェントとは言わない。つまり、派遣労働やパートタイム労働であってもコンティンジェントの場合とそうでない場合があるということになるのである。

この定義に基づき、調査では3つの分類で推計している。

第1推計は、現在の就労期間が1年未満であり、かつ仕事の継続が1年未満しか期待できない場合であり、自営業は除かれる。第2推計は、第1推計に自営業を含む。第3推計は、1年未満の仕事の継続期間だけが問題であり、自己都合も含む。つまり、第1推計がもっとも狭義で、第3推計がもっとも広義になっている。

2017年の調査結果の就業人口における割合は、第1推計で1.3%(196万人)、第2推計で1.6%(251万人)、もっとも広義の第3推計で3.8%(586万人)だった。前回調査の2005年は第1推計が1.8%、第2推計が2.3%、第3推計が4.1%であり、すべての推計で2017年が下回ったことになる。

つまり、オルタナティブ雇用契約もコンティンジェント労働も減少している傾向にあることが明らかになったのである。

コンティンジェント労働者の特徴

コンティンジェント労働者を年齢でみると、コンティンジェント28%、非コンティンジェント12%となり、コンティンジェント労働者がそうでない労働者に比べて25歳未満の割合が高い。

学歴では、コンティンジェント14%、非コンティンジェント7%となり、コンティンジェント労働者の方がそうでない労働者に比べて、高卒未満の者が多い。

週35時間未満のパートタイムであるかどうかをみると、コンティンジェントが5人に2人で非コンティンジェントが5人に1人となり、コンティンジェント労働者の方がそうでない労働者に比べてパートタイムで働いている割合が高い。一方で、パートタイムで働いている労働者の大半はコンティンジェントの雇用契約ではないという特徴があり、パートタイムで働くことからみればコンティンジェントであるかどうかには相関関係がない。

職業でみれば、コンティンジェントで働く労働者の3人に1人は専門職であり、非コンジェントの4人に1人と比べて高く、コンティンジェントが専門職に特徴的な働き方であることがわかる。一方で、産業では、3分の1が教育およびヘルス・サービス産業に従事しており、非コンティンジェントの4分の1と比べて高くなっている。また、農業および建設産業に特徴的である一方で、小売りや製造業にはあまりみられない。

予測とのギャップをどう修正するか

コンティンジェント・オルタナティブ雇用契約調査は人口動態調査(CPS:Current Population Survey)に基づく特別調査として実施される。実施にかかる予算は連邦議会の承認が必要になるが、2005年の前回調査から長期間に渡って承認を得ることができなかった。

そのため、近年のギグエコの拡大やAI、IoTといった科学技術の進展のなかで、新しい未来の働き方(Future of Work)の一つとしてフリーランスの働き方が増えているとの予測が広まっていた。

連邦労働省の調査結果はそうした予測が正しくはないことを明らかにしている。これまで検討されてきたこうした労働者の保護施策の必要性も含めて、あらためて分析を行わなければならないだろう。

(調査部海外情報担当 山崎 憲)

参考

  • Contingent and Alternative Employment Arrangements-May 2017, News Release, Bureau of Labor Statistics, U.S. Department of Labor, June 7, 2018.

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