失業保険改革の動き
―適用対象の拡大と保険料拠出額の差別化

失業保険改革に関する労使協議が2018年1月から始まり、4月には閣議決定され、6月19日に下院を通過した。今回の法案にはマクロン大統領の選挙公約に基づいて、独立自営業者・自発的離職者の適用拡大や不安定な雇用(有期雇用労働)対策といった改革が盛り込まれてる。

失業保険制度への国の関与の強化

フランスの失業保険制度は、労使合意の協約に基づいて運営されている。協約を政府が承認するかたちで強制力を持たせ、失業保険制度を民間部門の全ての雇用主と被用者に適用させている。この失業保険及び健康保険の社会保険料の労働者負担が2018年1月1日から引き下げまたは廃止された一方で、一般福祉税(CSG:Contribution Sociale Généralisée)の税率が引き上げられた。併せて失業保険制度の財源の一部が社会保険料から国税(一般福祉税)に置き換える改編が実施された。こうした一連の改革が失業保険制度に対する国の関与を強めるものであるとして、労使から反対する声が上がっている。

独立自営業者へ適用拡大

改革は失業保険の適用対象拡大にも及ぶことになる。現行の失業保険制度では独立自営業者(indépendants)は支給の適用の対象外にある。2017年10月に発表された財務監査局等が作成した報告書によると、独立自営業者には収入の格差が見られ、一部の自営業者は失業のリスクに対する保障が十分ではないことが指摘されている(注1)。そのため、今回の改革は、適用対象を職人、小売商人、自営業者・請負業者、自由業、農民などに拡大する検討が行われている。自営業者の場合、保険料や支給額の根拠となる収入の把握が困難であり、失業手当受給のために職を喪失したと偽装する可能性もある。社会保険料の拠出方法、失業手当の支給開始基準(収入の減少・途絶)の定義など基本的な課題も山積である。

政治的な立場により労使には様々な意見がある。例えば、フランス・キリスト教労働同盟(CFTC)は、独立自営業者の中には失業手当の受給権を求めていない者もおり、自営業者に失業保険制度を適用することに消極的と主張する。財務監査局の報告書は自営業者の失業リスクが様々であり、失業保険の必要性や保険料拠出の意向は一様ではないと指摘している。これに対して、労使団体は、Uberのドライバーなどデジタル・プラットフォームを通じて就労している雇用類似の労働者を失業保険の対象とするかどうかの是非を議論することが先決であると主張している。

自発的離職者へ適用拡大

改革では自発的な離職者も失業手当の受給対象にすることが検討されている。現在、自己都合による離職者は失業保険給付の対象になっていない。このため、5年に1回程度の頻度で受給するようにすべきではないかということが議論されている。この措置が実現すれば、初年度で80億ユーロから140億ユーロの支出増が見込まれるが、従前賃金が高い辞職者には失業手当の受給権を付与しないこと、離職後の再就職に向けての明確なプランの有無など厳格な条件を加えることで支出増を抑える方針が示されている。この政府案に対し、フランス民主労働同盟(CFDT)は、労使間にある従来よりも不利益な条件の制度をつくらないという共通認識にはそぐわないとして、反対の姿勢を示している。

有期雇用の多い企業を対象に保険料率の引き上げ

契約期間が短い不安定な雇用が増えていることへの対応も、今回の改革に含まれている。失業保険を運営する労使団体のUNEDICの資料によれば、契約期間が1カ月未満の有期雇用契約(CDD)による新規雇用が増加している。2016年の新規雇用のうち、CDDと派遣労働者などの不安定な雇用が80%を占めた(注2)。これに対し、政府は、保険料率を契約期間の短いCDDをほとんど利用していない企業とCDDを多用している企業で、保険料の差をつけることを検討している。具体的には、過去3年間の離職者に支給された失業手当の支給総額と全国平均の水準との差に応じて、2%から10%の範囲で保険料率を課するというものである。これに対して、経営者団体のMEDEFは強く反対する一方、労働総同盟(CGT)は条件つきながら賛成している。

失業保険改革法案は、見習い研修・職業教育の改革とともに、4月27日に閣議決定され、6月20日には下院を通過した。

(ウェブサイト最終閲覧日:2018年6月20日)

参考レート

関連情報