金属産業の労使交渉、妥結
―「賃上げ」と「時短⇔フル請求権」

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2018年4月

金属産業労組(IG メタル)と使用者団体(Südwestmetall)は2月6日、南西部の金属産業で働く90万人が対象の労働協約に合意した。 これにより、労働者は4.3%の賃上げと一時金を獲得し、さらに育児や介護のために最大2年間、週28時間まで労働時間を短縮できるようになる。同協約はパターンセッター(注1)の役割も担うため、合意内容は最終的に金属産業で働く390万人の労働者に波及する見込みだ。

好況と第4次産業革命を巡る議論

連邦統計局が1月11日に発表した実質国内総生産(GDP速報値)は、前年比2.2%増と過去6年で最高の伸びを記録した。また、近年、第4次産業革命(インダストリー4.0)を巡る「働き方の議論」が活発で、政府の白書(労働4.0)は、「労働者のライフステージに応じた主体的な労働時間決定が重要な鍵を握る」と提言している。今回の交渉は、このように好調な経済情勢や議論が追い風となった。

協約の具体的な内容は、4月から4.3%の賃上げと、3月までの100ユーロの一時金支払いである。また、2019年から介護や育児を担う労働者は、最大2年間、週労働時間を通常の35時間から28時間まで短縮できる請求権が付与される。2019年はさらに業績が極端に悪化しない限り、月収の27.5%相当の一時金のほか、400ユーロが労働者に支給される。その際、育児や介護を担う者やシフト勤務者は、一時金でなく、8日間の休暇を選択することもできる。

なお、労働者の中には、逆に週労働時間を増やしてさらに賃金を得たいという者もいる。そのため使用者は、希望者に対して週40時間を超える労働時間の延長を要請することができる。

協約期限は2020年3月31日までで、2年後に協約内容のレビューを行い、再調整が必要かどうかを判断する。

「労働者の時間選択権」要求の背景

ドイツでは「両親休暇法(BEEG)」や「家族介護時間法(FPfZG)」に基づき、一定の要件を満たせば、育児や介護を理由とした労働時間短縮請求権とフルタイム復帰権が労働者に認められている。他方、2000年に制定された「パート・有期法(TzBfG)」でも、労働者は理由を問わずフルタイムからパートタイムへの労働時間短縮請求権が認められる。しかし、同法に基づき、フルタイム復帰を希望した場合、使用者の義務は「企業内に空きポストがある場合の情報提供(TzBfG7条2項)」と「優先考慮(同9条)」のみで、復帰そのものは義務付けられていない。そのため、「両親休暇法」や「家族介護時間法」の要件に該当しない労働者が、育児や介護を理由にパートタイムへ移行したまま、フルタイムに戻れない状況が多く見られ、課題となっていた。

このような事態を改善するため、第3次メルケル政権(2013-2017)下では、育児や介護を理由にパートタイムを選択した労働者が、希望すれば再びフルタイムへ復帰できる権利を法改正で制度化することが予定されていた。しかし、最終的に使用者の強い反発で閣議決定には至らず、第4次メルケル政権へ持ち越された。

こうした法改正の頓挫を踏まえてIGメタルは、労使自治(労使交渉)を通じて、労働者がフルタイム復帰権(Rückkehrrecht)を保持しつつ、一時的にパートタイムを選択できる権利を獲得しようとしたのである。

労使双方ともに、合意内容を評価

労使トップはともに今回の合意内容を評価している。プレスリリースによれば、金属産業中央使用者団体(ゲザムトメタル)のドゥルガー会長は「21世紀における柔軟な労働制度の礎石だ」と述べ、IGメタルのホフマン会長も「自己決定的に働く近代の労働世界へ至る大きな1歩だ」と賞賛している。また、5000万人の労働者を代表する国際産別労組インダストリオールのサンチェス書記長もプレスリリースの中で「第4次産業革命による生産性向上の利益は社会や労働者と共有すべきであり、十分な収入を確保しつつ労働者が自ら労働時間を短縮し、ワークライフバランスを決定する権利を得たことは、デジタル化時代に対処する組合活動の貴重な成果だ」と高く評価している。このほか、地元メディア(Deutsche Welle)も、1984年に週40時間から週35時間の労働時間短縮を求めて7週間のストライキを実施し、IGメタルが要求を勝ち取った以来の労働時間に関する大きな成果だと評価している。

参考資料

  • ZEIT online(6 Februar,2018), IG Metall, Südwestmetall, IndustriALL, Deutsche Welle(06.02.2018)ほか。

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