不安定な働き方の従事者の保護に関する政府の方針

カテゴリー:労働法・働くルール多様な働き方

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  • 国別労働トピック:2018年3月

政府は2月、シェアリング・エコノミーや待機労働契約、派遣労働などの従事者の保護に向けた取り組みに関する方針文書を公表した。昨年の、専門家報告書による提言を受けたもので、休暇手当や傷病手当などの権利拡充を含め、多岐にわたるプランが示されている。ただし、専門家が提言の柱とした、雇用法上の身分をめぐる判断基準の見直しなどについては、慎重な立場を示している。

既存制度の執行強化が当面の柱

政府の諮問を受けた専門家により作成され、2017年7月に公表された報告書「良質な仕事」(注1)は、「全ての仕事を公正かつディーセントで、発展性と達成感の余地があるものとする」ことを目標に掲げ、デジタル・プラットフォームの登場などで広がりつつある新しい働き方に関して、労働者や使用者の権利と責任、既存の雇用法の枠組みなどを検討、雇用の質の向上に向けた各種の提言を行った。

今回の方針文書(注2)は、一連の提言に対する政府の立場と、今後の対応の方向性を示したものだ。文書の公表にあたり、政府は取り組みの内容について、労働者の権利保護、公正な賃金支払いの確保、透明性の向上の大きく3点にまとめている(注3)

このうち、労働者の権利保護に関する施策のプランには、雇用審判サービスによる執行強化策として、悪質な雇用主に対する罰金額の引き上げ(注4)や、違反を繰り返す雇用主に対する罰金額の加算、賠償金を支払わない雇用主の氏名公表などが挙げられている。

また、公正な賃金支払いの確保に関する施策としては、派遣労働者に賃金明細(賃金から差し引かれる費用・手数料等の明示)を要求する権利の付与、派遣事業者が直接雇用した場合に、派遣先における均等取り扱い義務が免除される法律の廃止、待機労働契約の従事者により高い最低賃金額を設定した場合の影響の検討(注5)などを挙げている。

透明性の向上に関する方策としては、シェアリング・エコノミー従事者の労働時間に関する定義の明確化、出産予定の母親に関する職場での権利、雇用主の義務の周知、また柔軟な働き方の利用促進に関するタスクフォースの設置、共有両親休暇の利用を奨励するキャンペーンの実施を挙げている。

政府はさらに、専門家による提言内容を上回るプランとして、就業初日からの休暇手当(有給休暇)や傷病手当などの権利の保障や、立場の弱い労働者における休暇手当や傷病手当の履行確保、また全ての労働者に対する、より安定した雇用契約への変更の申請権の付与などを挙げている。

一方、専門家が提言の柱に掲げる雇用法上の地位の明確化をめぐっては、慎重な立場を示している。就業者は法律上、被用者と労働者、自営業者の3つに区分され、最低賃金や休暇、社会保険の適用などで扱いが異なる。シェアリング・エコノミー従事者は通常、自営業者として扱われるが、実態は従属的な労働者であるとして、本来適用されるべき法的な権利を求めて従事者が事業者を提訴するケースが相次いでいる。政府は、法的な区分についてより容易な判断を可能とすべき、との専門家の提言に賛同するものの、これに伴う判断基準の変更などをめぐっては、コンサルテーション(一般向け意見聴取)によるさらなる検討の必要性を述べるに留まっている。

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