連邦憲法裁、協約単一法「概ね合憲、一部要改正」

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

ドイツの記事一覧

  • 国別労働トピック:2017年10月

連邦憲法裁判所(BVerfG)は7月11日、多数組合による排他的な性格を持つ協約単一法(2015年施行)について「概ね合憲だが、一部の規定は改正が必要」とする判決を出した。これを受けて同法は、2018年12月末までに改正される見通しである。

「多数決主義」の協約単一法

協約単一法(Tarifeinheitsgesetz)は2015年7月10日の施行以来、合憲か違憲をはじめとして様々な議論がなされてきた。同法は、事業所内に多数決主義を導入することで、労働協約の単一性を確保しようとするものである。具体的には、2つの労働組合が1つの事業所で同じ従業員グループを代表する場合、その事業所内で「組合員数が最も多い労働組合の労働協約」だけが適用される。同法の主な内容は以下の通りである。

(1)多数決主義に基づく協約単一性

1つの事業所内で複数の労働組合があり、内容が同一でない労働協約が競合/衝突する場合、その事業所内で最多の組合員を擁する労働組合の協約のみが適用される。

(2) 事後的導入の請求権

排除された少数労働組合は、使用者に対して、多数組合が締結した労働協約の事後的導入(Nachzeichnung)を求めることができる。つまり、多数労働組合と同一内容の労働協約を締結することへの直接的な請求権が存在する。ただし、その前提条件は、当該の少数労働組合が、事前に労働協約を締結していた場合に限られる。

(3) 参加権

多数組合が協約の交渉を開始する際には、適切な時期に少数組合にも周知する必要がある。その際、少数労働組合は使用者または使用者団体に対して、異義や要求を口頭で述べる権限を有する。

(4) 裁判所が「協約単一性」を確認

多数派組合による協約の排他性は労働裁判所で、関係する協約当事者の申し立てによって確認の手続きが開始される。多数支配の状況は、公証人文書によって確認される。公証人は、事業所内のかかる労働組合の該当する組合員数を確認し、記録する。組合員の氏名は匿名性が守られる。

(5) 平和義務に関する規定

労働協約の有効期間中の「平和義務」規定は、協約単一法には含まれていない。平和義務規定とは、当該労働協約で定められた事項の改廃を求める争議行為を行わないとするものである。しかし、同法の施行によって改正された労働協約法(TVG)第4a条1項(注1)で、明示的に労働協約制度の平和機能が強化された。そのため、少数労組が行うストライキ等の労働行為の妥当性は、労働協約法に従って、労働裁判所が「協約単一性の尺度で判断する」ことになった。

2010年判決、少数労組によるスト増

そもそもドイツでは、従来から「1事業所1協約」が原則とされてきた。

しかし2000年代に入り、公共部門の民営化等に伴い、産業別労働組合が締結した協約内容を不服として専門職労働者らが独自の職種別組合を結成し、より良い労働条件を勝ち取ろうとする動きが広がった。

そのような中、連邦労働裁判所は2010 年に、協約単一の原則は法律で定められたものではないとして従来の判例を変更し、「事業所内に異なった労働協約が存在しても良い」と認めた。

これが契機となり、少数・専門職労組が締結した労働協約も、事業所における適用可能性が生まれ、複数の協約締結や交渉に付随するストライキや労働損失日数が増加した(表1)。

2015年には、ドイツ鉄道の少数労組である「機関士労組(GDL)」が、自身の存在意義を示すために、多数労組の「鉄道交通労組(EVG)」が先に締結した労働協約よりも好労働条件を勝ち取ろうとして、計9回のストライキ(ドイツ鉄道史上最長の6日間のストライキを含む)を頻発し、通勤者や旅行者の移動に大きな支障が出た。ドイツ産業連盟(BDI)の試算によると、ドイツ経済全体の損害額は、1日あたり1億ユーロ相当に及び、大きな議論と批判を巻き起こした。

多数労組を擁する「ドイツ労働総同盟(DGB)」や、交渉の煩雑化や労働損失の増加を懸念する「ドイツ使用者連盟(BDA)」は、2010年の判決以降「協約単一性原則」の法制化を求めてきた。政権はその要求に応える形で、2015年7月10日に協約単一法を施行した。

表1:労働争議件数・労働争議参加人員・労働損失日数
  2000年 2005年 2009年 2010年 2011年 2012年 2013年 2014年 2015年
労働損失日数
(単位:千日)
11 19 64 25 70 86 150 155 1,092
労働争議件数
(単位:件)
67 270 454 131 158 367 1,384 637 1,618
労働争議参加人員
(単位:千人)
7 17 28 12 11 22 67 58 230
  • 注:参加人員10人以上、全日以上の争議。
  • 出所:ILOSTAT 2016年12月時点。

少数労組一斉に反発、訴訟へ

協約単一法の施行後、排除される側の少数労組は一斉に反発し、相次いで訴訟を起こした。「鉄道機関士労組(GDL)」、航空パイロットが加盟する「コックピット連合(Vereinigung Cockpit)」、医師が加盟する「マールブルク同盟(Marburger Bund)」、各航空会社の客室乗務員が加盟する「独立客室乗務員組合(UFO)」、第2のナショナルセンターである「ドイツ官吏同盟(DBB)」など、いずれも比較的少人数で輸送や経済活動を麻痺させることができる専門職組合である。彼らは「協約単一法は、基本法(憲法に相当)第9条3項(注2)が保証する団結の自由に反する」として、連邦裁判所へ憲法異義の訴えを行った。

判決に対する関係者の反応

今回の判決では、協約単一法を概ね合憲として同法の存続を認め、少数労組の主張はほとんど認められなかった。ただし、同判決は、基本法9条に照らして、少数労組に対する保護を強調しており、平和義務はあるが、それ以外の場合のストライキ権は妨げないとしている。さらに、職業年金や雇用保障など、少数労組が交渉によって得た長期的な利益は、別の多数労組の協約によって阻害されてはならないとした。その上で、多数労組は労働協約の締結に際して、少数労組の利益を考慮することをより明確に保証するための規定を2018年末までに新たに導入するよう求めている。

報道(Handelsblatt)によると、アンドレア・ナーレス労働社会相は、今回の判決を歓迎した上で、「協約単一法は、事業所内の複数労働組合が、賃上げや労働条件の改善を求めるにあたり、相互に調整し合うことを目的としている。少数労組は、多数労組が行う協約交渉の前段階で、自身の権利主張を行い、合意をすることが重要である。少数労組が同法を恐れる必要は何もない」と述べた。ナショナルセンターであるドイツ労働総同盟(DGB)とドイツ使用者連盟(BDA)も、ともに同判決を歓迎している。

参考資料

  • Leitsätze zum Urteil des Ersten Senats vom 11. Juli 2017(1 BvR 1571/15 ,1 BvR 8/15 ,1 BvR 2883/15 , 1 BvR 1043/16 ,1 BvR 1477/16) , Spiegel online(11.07.2017 ), Handelsblatt (July 12, 2017) 、JILPT海外労働情報〔2015年8月 ドイツ鉄道の労使交渉、ついに決着〕ほか。

参考レート

関連情報