民間企業、人事管理担当者は税・社会保障負担軽減を望む
―ANDRH調査
人事労務管理責任者全国協会(ANDRH)が行ったアンケート調査の結果によると、民間企業の人事労務管理担当者が政府に期待する労働政策は、見習制度や労務費(税・社会保障負担)の軽減であるということが明らかになった。その一方で、週35時間労働制の廃止については優先順位がそれほど高くないことがわかった。
最も優先順位の高い見習訓練制度改革
人事労務管理責任者全国協会ANDRH (Association Nationale des Directeurs des Ressources Humaines)は、民間企業の人事労務管理責任582人を対象として改革の必要性の高い労働政策について質問をするアンケート調査を実施した(注1)。質問では、労働時間制度、若年労働者を対象とする見習契約制度、労務費、雇用契約の形態などについて改革の優先順位を尋ねている。
そのうち、「見習制度の改革が必要である」とする回答が92.6%で、最も多かった。恒常的に高い水準にある若年者の失業率(注2)を引き下げる対策として、見習契約の促進が必要だと考える人事担当が多いためであると推察している。具体的には「見習契約に対する社会保険料の全額免除(注3)を求める」とする回答が70.5%、次いで「見習制度に対する企業の役割を強化すべき」が47.9%、「見習契約終了の手続きの簡略化」が36.4%、「見習税の減額」が28.7%だった。
労務費の改革として社会保険料使用者負担の軽減
労務費について尋ねた設問では、「改革が必要」とする回答は84.5%だった。その対策として、「使用者の税・社会保険料負担の軽減」が76.8%、「労働者の疾病に関する社会保険料の引き下げ」が44.0%だった。
「雇用契約のあり方に関する改革の必要性」に関する設問では、「有期雇用契約の利用制限の緩和」が最も高く、69.9%だった。結果を受けて、ANDRHは、同一ポストでの有期雇用契約の繰り返し利用の制限を緩和すべきだとして、有期雇用契約の更新手続きの簡素化や空白期間の義務づけ(注4)の緩和等の施策の必要性を主張している。併せて、産業ごとに有期雇用契約の利用率を把握して、それが高い産業に対する罰則を設ける等の措置が必要だとも指摘している。
優先順位の低い週35時間労働制の改革
「労働時間制度の改革」について聞いた設問では、必要だとする回答が54.7%と、優先順位としてはそれほど高くない。改革が必要とする回答のうち、「企業レベルの労使交渉で労働時間を決定すべき」が50%強、「法定労働時間の長時間化」が20%強だった。また、週35時間労働制を維持しつつも、時間外割増賃金の対象に40時間以上の部分にすべきとする「割増賃金の支払義務の対象となる時間外労働の開始時間繰り延べ」が20%強だった。
週35時間労働制の廃止による労働時間の延長は大統領選挙の争点にもなっていた。主要な大統領候補の一人であった、フランソワ・フィヨン元首相は、週35時間労働制の廃止を公約にかかげた。しかし、多くの企業では週労働時間の延長を求めていない。ANDRHは、「週35時間労働制は、導入されてから既に15年が経過して国民の中に定着しており、企業も適応できているとする。その上で、ここ数年の労働法の改正で労働時間の調整が可能となっているため、『35時間労働制の廃止』は時代遅れである」と指摘している。
注
- この調査は、2017年1月5日から2月5日にかけて実施され、結果が2月22日に公表された。回答した者の所属する企業の規模の内訳は、従業員数50人未満の企業17%、同50人以上300人未満が27%、同300人以上1000人未満が22%、同1000人以上が33%である。なお、このアンケートに対する回答は、あくまでも個人的な見解であって、企業を代表した考えという訳ではない。つまり、人事労務管理の実務に携わる者の意見であって、経営者の意向ではない。(本文へ)
- 国立統計経済研究所(INSEE)によると、2016年第4四半期の15歳以上25歳未満の失業率は23.3%(推定値)となっており、フランス本土全体の失業率(9.7%)と顕著な差が見られる。(本文へ)
- 現在でも、(見習を除く)従業員数10人以下の企業では、見習の賃金に掛かる税・社会保険料が全額免除されている。(本文へ)
- 同一ポストに従業員を有期雇用契約(CDD)で採用する場合、原則として、CDD終了時から、その直前の契約期間の2分の1の期間(直前のCDDの契約期間が14日未満だった場合)、あるいは直前のCDDの契約期間が14日以上の契約であった場合には、3分の1の期間は、CDDで新たな従業員を採用することができない。例えば、30日間の契約期間のCDD終了後、少なくとも10日間は、同一ポストに、従業員をCDDで採用することができない。(本文へ)
参考文献
(ウェブサイト最終閲覧日:2017年10月20日)
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