連邦労働社会省、白書「労働4.0」を発表

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  • 国別労働トピック:2017年2月

連邦労働社会省(BMAS)は2016年11月28日、白書「労働4.0(Weißbuch Arbeiten 4.0)」を発表した。昨年4月に始まった対話プロジェクトの成果をまとめたもので、デジタル化時代の労働に適応するための様々な提案がなされている。

インダストリー4.0から労働4.0へ

ドイツ政府は、従来から科学技術のイノベーションを進めてきた。その中で、2010年に策定した「ハイテク戦略2020」プロジェクトの1つである「インダストリー4.0(Industrie4.0)」が内外の注目を集めるようになった。インダストリー4.0は、製造業を中心にあらゆる分野のデジタル化を進め、インターネット(例:ビックデータ)を徹底活用することで飛躍的に生産効率を高め、第4次産業革命(注1)を起こそうとするプロジェクトである。プロジェクトへの注目度が増すにつれて、「第4次産業革命が起こると人々の働き方はどのように変わるのか」という点にも関心が集まるようになった。そこで、連邦労働社会省は2015年4月22日、「労働4.0」というプラットフォームを立ち上げ、2つの討議グループを設置した。1つは、労使団体、学識者、その他の社会団体らが参画する「専門家グループ」、もう1つは、サイトやSNSを活用してコメントやアイデアを公募する「一般市民グループ」である。同時に、グリーンペーパー(討議資料)「労働4.0(Grübuch Arbeiten 4.0)」を発表し、未来の労働に関する30の質問項目や2016年末の白書公表に向けたロードマップを提示した。

より柔軟に、より保護を

234頁に及ぶ白書には、関係団体への意見聴取、専門ワークショップ・会議、220以上の科学的調査、1.2万人の市民との直接対話、1.5万人が回答したオンラインアンケートから得られた知見やアイデアが盛り込まれている。具体的には、以下の8分野の分析と提案がされている;

  1. 就業能力:失業保険から労働保険へ。
  2. 労働時間:フレキシブル、しかし自己裁量権を。
  3. サービス:良質な労働条件を強化。
  4. 健康な仕事:「安全衛生4.0」へのアプローチ。
  5. データ保護:高水準を確保。
  6. 共同決定と参加:パートナーシップ(労使)で構築。
  7. 自営:自由の促進と保護。
  8. 社会福祉国家:将来展望と欧州諸国との対話。

以上の各タイトルからも推測できる通り、同書の根底に流れる大きなテーマは、「柔軟化とそれに対応する保護のあり方」である。

2年間の政策実験

白書を踏まえて、ドイツでは今後、多様な産業や規模の企業が参加した政策実験(注2)が行われる。例えば、現行の労働時間法は近年拡大しているクラウドワーキング(注3)のような時間や場所を問わない仕事を想定していない。そのため、一定の条件を満たした上で協約当事者(労使)が合意すれば、現場のニーズに応じて現行法の規制を2年間緩和することができる。政府は、「このような政策実験の枠組み(Experimentierräumen)を通じて柔軟性と保護の調和に関するテストをし、必要性や需要性が明らかになった場合のみ、労働時間法など関連の制度改正を行う」としている。

さらに、ナーレス労働相は記者会見で、「就業口座(Erwerbstätigenkonto)」の創設も提案している。若者は、同口座を通じて職業訓練助成や起業の当初資金を得ることができる。他方、行政は、個人の生涯にわたる「仕事と訓練」の詳細な記録が得られるため、社会便益計算や政策分析に用いることができる。例えば公共職業訓練の効果や継続の可否について、合理的な政策判断を行う基礎資料としての活用も可能になる。

参考資料

  • Bundesministerium für Arbeit und Soziales(2016)Weißbuch Arbeiten 4.0, Pressemitteilungen(29. November 2016), BMAS (2015) Grübuch Arbeiten 4.0, Deutsche Welle(29.11.2016) ほか

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