待機労働契約による労働者80万人
―統計局
雇用主の求めに応じて不定期に働き、労働時間によって賃金を受け取る「待機労働契約」について、統計局が3月に公表した調査結果によれば、こうした契約のもとで働く労働者は2015年10~12月期に80万人と推計され、前年から約10万人増加したとみられる。特に、宿泊・食品サービス業や保健・介護業などで労働者数が拡大している。
多くは若者・パートタイム労働者
待機労働契約(zero-hours contract)は、定められた時間のない働き方で、雇用主には仕事を提供する義務がない一方で、労働者にも仕事を受けるか否かを任意に決めることができるとされる。法律上、被用者とみなされにくいため、正規従業員に比べて雇用上の権利が限定的になりがちとみられるほか、賃金水準の低さも指摘されている。近年、不安定な雇用形態の一つとして注目を集め、保護法制の必要性が議論された結果として、契約において他の雇用主の下で働くことを禁じる排他条項(exclusive clause)を無効とする法整備が、2015年に実施されたところだ。
統計局の推計によれば、2015年10~12月期における待機労働契約による労働者数は80万1000人(就業者全体の2.5%)で、前年から約10万人増加している。属性別には、女性が42万8000人(53%)で男性を若干上回るほか、年齢階層別には16~24歳層が30万人(38%)と最も多くを占めており、同年齢層の就業者に占める比率も顕著に高い(7.6%)(注1)。また、パートタイム労働者が50万8000人(63%)と多いものの、前年からの増加はそれぞれ5万人で、フルタイム労働者の比率が高まっている(注2)。
加えて、6割弱(58%)の労働者が同一の雇用主の下で1年以上働いており、うち3分の1は5年以上に及ぶ。この間の就労が待機労働契約によるものか否かは不明だが、相対的に勤続期間の長い労働者にも、待機労働契約が拡大している状況にあるとみられる。
なお、労働者の37%が、労働時間を増やしたいと回答している。このうち、「追加の仕事により労働時間を増やしたい」との回答は4%(待機労働契約以外の労働者では1%)、「より労働時間の長い別な仕事に就きたい」との回答が9%(同1%)で、大半(23%)は「現在の仕事で労働時間を増やしたい」(同8%)としている(注3)。図表1:待機労働契約による労働者数及び就業者に占める比率
- 出所:Office for National Statistics "Contracts that do not guarantee a minimum number of hours"
業種別には、宿泊・食品サービス業が19万人、保健・介護業が18万人(各2割強)と多く、前年からそれぞれ3万人増加している。これに、運輸・芸術・その他サービス業(12万人)、卸・小売業(7万人)、教育行(6万人)などが続く。
図表2:待機労働契約による労働者の業種別分布
- 出所:Office for National Statistics "Contracts that do not guarantee a minimum number of hours"
なお、統計局が併せて公表している雇用主調査の結果によれば、待機労働契約に類する契約(最低限の労働時間が設定されない契約)を利用している雇用主は全体の10%で、これらの雇用主において実際に調査期間中(2015年11月の2週間)に就労が発生した契約の件数は170万件であった(労働契約全体の6%に相当)(注4)。利用企業の比率は、企業規模に比例して高まる傾向にあり、10人未満規模では9%とほぼ平均と同等だが、10~19人規模では16%、20~249人規模で28%、250人以上規模で44%となっている。
注
- なお、フルタイムの学生が23%と多い(待機労働契約以外の契約による労働者では3%)。(本文へ)
- シンクタンクResolution Foundationはこれに関して、従来は臨時的な契約が見られなかった職務で、雇用主の利用が拡大している可能性を指摘している。なお、統計局は、当該調査は労働者の自己申告によるため、増加分の一部は、メディアなどを通じて待機労働契約に関する認識が広がったことによる、との見方を示している。(本文へ)
- なお、17%にあたる13万4000人は、調査対象期間全く就労していなかった。(本文へ)
- これに加えて、同月に就労の発生しなかった同種の契約が200万件あり、全体では370万件。この中には、複数の企業とこうした契約を締結している労働者が重複しているとみられる。なお、就労が発生しなかった理由として、労働者が就労する状況になかった(病気や休暇などによる)、他の雇用主のもとで働いていた、何らかの理由で雇用主が提供した仕事を労働者が引き受けなかった、あるいは雇用主の側に提供すべき仕事が発生しなかった、などが挙げられている。加えて、既に失効している契約が含まれていた可能性も指摘されている。(本文へ)
資料出所
- Gov.uk
、UK Parliament
、Resolution Foundation
、BBC
ほか各ウェブサイト
2016年7月 イギリスの記事一覧
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