「雇用でない」労働の拡大
―シェアリング・エコノミーの実態把握へ

カテゴリー:労働法・働くルール労使関係

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  • 国別労働トピック:2016年2月

「雇用」か、「雇用でない」か。
近年、シェアリング・エコノミーと呼ばれる新しい形態のビジネスモデルが発展している。このなかで、雇われないで働く働き方が急速に拡大した。そのために、さまざまな面で問題が起こるようになっている。

2月1日、多くの労働者がシェアリング・エコノミーを代表する企業のひとつ、ウーバーのニューヨーク事務所の前に集まった。契約条件の切り下げに抗議することが目的だった。その背後には、雇われて働いていることを基盤としてつくられてきた社会システムの機能不全がある。

「雇用でない」労働が不安定さを増大

シェアリング・エコノミーもしくはギグ・エコノミーとは、ITC技術を媒介にして企業と企業、企業と人をつなぐ新しいビジネスモデルだ。

ひとつの企業の中で行っていたコンピュータ・ソフトウェアやアプリケーションの開発をさまざまな連携のなかで実施することや、スマートフォンのアプリケーションを媒介にしてタクシーの利用者と運転手を結び合わせるといったものがある。一戸の家を他人同士が共同で住むシェア・ハウスや、同じ目的地に行く人が車に乗り合いをするカーシェリングなどを考えればイメージしやすい。タクシーの利用者と運転手を結びつけることで急成長したウーバーやリフトといった企業はカーシェアリングが原型だ。

1990年代のIT革命は、企業間の水平方向の連携による知の集積により新たな競争力を産み出した。シェアリング・エコノミーもその延長にあるが、連携は垂直方向にも拡大した。問題となるのは、高度な専門能力をもった人材であったとしても、「雇われて働く」ことから請負へ切り替えられることで安定が失われることである。

拡大する抗議行動

ニューヨークで起きた抗議行動は、ウーバー側が運転手に対して賃金の引き下げを一方的に通告したことをきっかけとする。とくにニューヨークの運転手にとって利益率の高いラガーディア空港から市内の運賃引き下げが問題となったのである。

シェアリング・エコノミーでは運転手のような労働は雇われているのではなく、自営業者として扱われる。したがって、最低賃金や労働時間など雇われて働いている人を守る公正労働基準法、年金や健康保険、労働条件等に関して使用者と集団で交渉する権利を定める全国労働関係法、仕事中の怪我など不測の事態のための労働災害補償などの適用を受けることができない。

ガソリン代、高速道路料金、自動車購入費用、メンテナンス費用も自己負担となる。さらに、ウーバーは運転手に対して自動車をローンで販売しており、報酬から支払い金額が天引きされる仕組みになっている。購入した運転手は、支払いが終わるまでウーバーから離れることができない。

運転手に料金決定に対する発言権がないことも問題となっている。料金が引き下げられれば、報酬額を下げないために労働時間を長くする以外に方法がない。

シェアリング・エコノミーとどう付き合うか

カリフォルニア州ではウーバーとリフトが運転手から請負から雇用へと区分を修正するための集団訴訟を起こされている。リフトはウーバーと同種のビジネスモデルを展開している。どちらも訴訟は継続中だが、1月26日、リフトは運転手に1225万ドルの和解金を支払うことに合意した。

連邦労働省や連邦議会でも問題を取り上げるようになっている。こうした労働者の数を正確に把握するための予算を確保しようというのである。同種の調査は2005年から行われていない。ペレス労働長官は2017年3月に調査を実施したいとしている。

問題はそれだけではない。雇用労働者の社会保障などにかかる費用は国税庁が企業から徴収しているが、請負労働者の数が拡大すれば必要な税金を確保できなくなってしまう。現行の法律である内国歳入法は、請負か雇用かについて新しいガイドラインを出すことができないようになっている。そのため、法律を改正するべきだとの声もあがっている。

(山崎 憲)

参考

  • Robert Burnson, Eric Newcomer and Joel Rosenblatt, (2016) Lyft Will Pay $12M to Settle California Drivers’ Claims, Daily Labor Report, 2016, Jan.27
  • Selina Wang, (2016) Uber Drivers Strike to Protest Big Apple Fare Cuts, Daily Labor Report, 2016, Feb.1

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