フォルクスワーゲン・チャタヌーガ工場
―労組の組織化に新展開
2015年12月3日から4日にかけて、フォルクスワーゲン・アメリカ(VWGOA)のチャタヌーガ工場は161名の保全工が全米自動車労働組合(UAW)に組織されるかどうかを問う代表選挙が行われた。結果は108対44で労働組合の組織化が支持された。
VWGOA経営陣は今回の組織化そのものが、UAW等の労働者組織とこれまでに構築してきた関係を阻害するものとして反発している。
2014年の失敗
チャタヌーガ工場にはおよそ1500人の労働者が働いている。UAWが組織化を試みたのはこれが初めてではない。2014年2月12~14日には工場で働く労働者大半の労働者を対象とする組織化選挙が実施された。
VWGOAとUAWとの間には事前の約束があった。それは、ドイツ本国の従業員代表制度(Betriebsrat)と同様の仕組みをチャタヌーガ工場に導入するというものである。これにより、UAWが単なる要求だけの労働組合ではなく、企業経営のパートナーとして協力関係をつくることが期待された。したがって、VWGOAはUAWによる組織化に好意的であった。ところが、大半の労働者は労働組合の組織化に賛成の立場をとらなかったのである。その背景には、チャタヌーガ工場近隣の企業・政治家や住民の反対活動がある。
UAWは、2014年7月から労働組合費を徴収せずにメンバーシップを付与する新たな組織化手法を開始。従業員の45%がメンバーとなった。VWGOAはこれを受けて、新たな企業ポリシーを作成した。これは、定められた割合の従業員を組織したグループと経営側との定期的な協議の場を設定するものである。これにより、UAWは毎月一回の経営側との協議のほか、工場内に事務所を置くことができるようになったのである。
同時に、労働組合の組織化に反対するグループである、「アメリカ従業員評議会(ACE;the American Council of Employees)」も、従業員の15%の支持を受けて、経営側と定期的な協議をもつ権利を得た。
VWGOAとしては、工場労働者の多数派を占めるUAWとの協議を尊重しつつ、地域の意見を代弁するACEにも配慮したかたちだったといえよう。
保全工のみの一点突破による組織化
UAWは、2014年の組織化選挙がテネシー州選出州上院議員(共和党)の発言により妨害されたとして、選挙の無効を全国労働委員会(NLRB)に訴えるといった措置も検討していたが、4月21日に訴えを取り下げていた。それ以降は、UAWがチャタヌーガ工場で過半数の従業員から支持を取り付けて、自主的に経営側に組織化を認めさせる方向へと舵を切っていた。
だがここにきて、工場全体の従業員からすれば、少数に過ぎない161名の保全工の組織化を強行するという手段をUAWは選択したのである。その根拠は、NLRBが2011年11月に少数割合の労働者の組合組織化を認めた判断である(Specialty Healthcare & Rehabilitation Center of Mobile, 357 NLRB. No. 83, 191 LRRM 1137 (2011))選挙は全国労働関係委員会(NLRB)の管理下で実施される。
UAWからすれば、たとえ少数であったとしても、チャタヌーガ工場に合法的な労働組合が組織されたことをもって、ドイツ本国のVW経営側が自発的に労働組合との団体交渉を行うように促す思惑がある。
一方のVWGOAとすれば、これまでUAWに配慮しつつ、労働組合の組織化に強行に反対する近隣企業・政治家、住民等との軋轢を避けてきた経緯が反故になる恐れが否めない。また、2014年9月に発覚した排気ガス不正問題の処理において、重要な役割を担う保全工のみが組織化対象とされたことも、経営側によるUAWに対する不信感を高めている。そこには、もっとも弱い部分を狙い撃ちしているのではないかという疑惑がある。
2015年12月3日から4日にかけて行われた代表選挙では、9割以上の保全工が投票に参加し、7割以上の賛成で組織化が支持された。選挙に先立ち、VWGOAはNLRBに対して、投票を実施しないように求めていた。UAWは勝利を受けて、少数組合であっても団体交渉の成果は労働組合員以外に波及させるとしている。VWドイツ本社および、VWをドイツで組織化する労働組合IGメタルとも協議を行っている。
(山崎 憲)
参考
- Ben Penn, (2014) VW Maintenance Unit Votes 71 Percent for UAW, Daily Labor Report, 2014, Dec.7
- Michael Rose, (2014) Volkswagen to Appeal Election Order for Maintenance Group, Daily Labor Report, 2014, Dec.1
2016年2月 アメリカの記事一覧
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