雇用を守るために残業
―IAB報告

カテゴリー:雇用・失業問題統計労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2015年11月

ドイツ労働市場・職業研究所(IAB)は、四半期毎の労働時間統計と、残業実態を様々な角度から分析した報告書を発表した。それによると、労働者は環境や階層等の様々な要因によって、自ら進んで残業をする場合があること等が明らかになった。

フルタイム週38時間、パートタイム週16時間

IABの報告によると、今年第2四半期の就業者の総労働時間は、前年同期比で+0.6%とわずかに増加し、就業者1人当たりの3カ月間の平均労働時間(累計)は323.1時間だった(図表1)。分析を担当したIABのエンツォ・ウエーバー研究員によると、今期の時間生産性(注1)は、前年同期比で1.0%上昇した。

第2四半期の全就業者4284万人のうち、自営業等を除いた雇用労働者の総数は、3852万人(前年同期比0.7%増)で、フルタイム労働者が前年同期比1.1%増、パートタイム労働者が同0.2%増だった。週平均労働時間は、フルタイム労働者が38時間(前年同期比0.00%)、パートタイム労働者が16時間(同-0.05%)だった。

3カ月間の1人当たり平均の残業時間(累計)は、有給残業が平均5.0時間、無給残業(注2)が6.3時間だった。

また、ドイツで普及が進んでいる弾力的な労働時間制として「労働時間口座」があるが、この残高時間は、前年同期比で0.2時間増加した。「労働時間口座」とは―法律上の制度ではないため、個別の企業や協約によってその取り扱いはさまざまであるが―、残業時間を貯めておいて、それを手当や有給休暇として利用できる制度である。「所定労働時間」と「時間外労働を含む実労働時間」の差を計算し、それを労働者個人の労働時間口座に預金のように残高を記録する。1年以内に残高時間が精算される「短期口座」と複数年にわたる「長期口座」の2種類があり、短期口座の方が普及率は高い。

図表1:ドイツの労働時間(2013年~2015年第2四半期)

図表1画像

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  • 出所: Berechnungen des IAB (Quelle für Arbeitnehmer insgesamt und Erwerbstätige: Statistisches Bundesamt).

労働者は失業リスクが高い時に、企業は短期的な柔軟性のため

IABによると、残業時間全体の推移を長期的に見ると、相対的に有給残業が減少する傾向にあり、労働市場の構造変化や、労働時間口座などの労働時間の柔軟化がその要因としてあげられている。

残業発生のメカニズムは、「企業は原則として、需要変動に合わせて、投入する労働力を柔軟に調整するため、雇用労働者数を調整するか、労働時間を変更するかを選択することができる。そして、残業によって労働時間を延長するコストの方が、労働者を新規採用するよりも少なくて済む場合には、企業は労働時間の延長(すなわち残業)を選択する。特に需要変動が一時的なものとみられる場合には、企業は残業を選択する」とIABは説明している。

以上が企業側の理由だが、一方労働者が残業を行う理由としては、「労働者はそもそも自身の雇用を守ろうとして残業を行う。特に失業リスクが高めの時には、労働者はすすんで残業を行う。また、残業が“無給”場合、それは使用者に対する労働者のアピールと解釈することもできる。無給残業でより長時間働くことによって、労働者は自分の価値をアピールする」としている。

さらに、残業の有給・無給の実態については、「有給残業は、現場労働者など、特定層にとって、賃金の大きな部分を占めている」ことを指摘。「特に契約労働時間が、本人が希望する時間よりも少ない場合に、有給残業は労働者の利益になる」としている。

また、無給残業の多くは、管理職の労働者がしているが、「自身のチームの業績評判を高めることを目的に行うことが多い」としている。さらに、無給残業は「部分的には、使用者が高めの基本給を払っていることによっても説明することが可能で、これに応じて労働者は、契約上の労働時間以上に働く用意がある」とIABは分析している。

最後に、無給残業については、「企業の長時間労働文化」も一役買うことがあり、企業や同僚からの圧力や内在的な要因によって、労働者が無給残業する結果につながる可能性も指摘している。

フルタイム、サービス・情報通信に多い無給残業

細かい残業分析には、社会経済パネル(SOEP)調査(注3)が使用された。その結果、パート労働者は、無給よりも有給残業が多かったが、フルタイム労働者は、有給よりも無給残業の方が多かった。

さらに、職種別、階層別に見てみると、現場労働者の場合、有給残業が大きな比重を占めており、技能が高くなる、もしくは企業内の地位が高くなるにつれて、有給残業時間が増加している。未熟練労働者が、平均で月1.9時間の有給残業をしていたのに対して、工場長(マイスター)や職人頭の場合、同4.3時間だった。現場労働者の無給残業はごくわずかだった。

一方、現場労働者と比較すると、事務職の場合、有給残業の比重は小さい。特に管理職層は最も多くの無給残業を行っており、それは月平均14.6時間であった。事務職の場合は、単純業務等を行う層の無給残業の比重が最も小さかった。

公務員については、やはり階級が上がるにつれて、有給残業が減少し、無給残業が増加している。上級公務員は、専ら無給残業を行っており、平均で月9.6時間だった。

また、産業別に見ると、有給残業は、工業とサービス業の比較では、工業の方が多かった(一部のサービス業をのぞく)。最も多く有給残業をしていたのは、製造業(建設業を含まない)と建設業の労働者だった。これらの産業では、月平均で、製造業は3.3時間、建設業は3.0時間の有給残業が行われていた。一方、商業・交通・飲食旅館業においても1カ月あたりの平均残業時間は2.9時間という値になっていた。

無給残業は、特にサービス業(月平均4.1時間)や情報・通信産業(月3.0時間)で多い。その次に無給残業時間が多かったのは、製造業(建設業を含まない)の月2.8時間、次いで不動産・金融・保険サービスの月2.7時間だった。

労働時間口座の活用について

労働時間口座は、前述の通り、労働者が口座に労働時間(残業時間等)を貯蓄しておき、休暇等の目的で好きな時にこれを使えるという近代的な時間管理ツールであり、企業にとって重要な労働時間の柔軟化ツールとなっている。この制度は、主に大企業で普及しているが、中小企業でも、労働時間形態に関する、多くの非公式な規定が存在している。

現場労働者20人未満の企業では、従業員1人当たり平均で労働時間口座に月2.7時間の残高時間があり、現場労働者が200人超の企業では、月5.3時間の残高時間となっていた。

参考資料

  • IABサイト、Presseinformation des Instituts für Arbeitsmarkt- und Berufsforschung vom 8.9.2015, Aktuelle Berichte Verbreitung von Überstunden in Deutschland 2014, ほか各ウェブサイト

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