青年雇用のための総合対策「青年雇用絶壁解消総合対策」
政府は7月27日、財界との協力によって、2017年までに20万人以上の青年層の雇用創出を目指す「青年雇用絶壁解消総合対策」を発表した。青年層の雇用の急激な減少を「雇用の崖」にたとえ、まさに断崖絶壁に追い込まれた状況にある若者に、雇用機会を提供していく対策を講ずるため、企画財政部主宰による官民合同対策会議が開かれた。会議には、企画財政部長官、雇用労働部長官等、関係官庁の長と韓国経営者総協会会長、全国経済人連合会会長等、経済6団体の長が参加し、そこでの議論を経た後、本対策は発表された。また、会議参加者は「青年雇用機会20万プラスプロジェクト推進のための政府-経済界協力宣言」に署名した。
以下「青年雇用絶壁解消総合対策」の概要を紹介する。
対策の背景にある青年層の雇用状況
企画財政部の発表資料によれば、本対策が打ち出された背景にある近年の青年層の雇用状況は次のとおりである。
経済の低成長基調が続く中、労働市場改革の進展は思うように進んでおらず、その一方で、大学教育もまた、産業現場の需要とは乖離している。こうした問題が複合的に作用して、青年層の雇用を一層困難なものにしている。近年の失業率は、3.1%(2013年)→3.5%(2014年)→3.9%(2015年6月)と推移しているが、青年層のそれは、8.0%(2013年)→9.0%(2014年)→10.2%(2015年6月)と、かなりの高水準で推移している。
更に、ベビーブーマー(注1)二世による20代人口の増加傾向に加え、退職者の労働市場への再進入が拡大しているという現象も見られる。また、2016年より義務化される定年60歳制(注2)は、企業側に人件費の負担増をもたらし、今後の青年層の雇用はいっそう深刻化するおそれがある。すなわちこれが「雇用の崖」と言われるものである。
このように青年層の雇用は切迫した状況にあり、これを打開するため、政府は人材供給のミスマッチの解消対策とともに、政府と経済界による官民合同の対策会議を開催し、短期間で青年層の雇用を確保するための総合対策を講ずることとなった。
対策の主な柱
1.公共部門による雇用創出
本対策には、短期間で雇用を拡大できる余力がある部門において、新規雇用を供給することが挙げられている。具体的には、2016年から2017年中に、教員の新規採用を1万5千人規模に拡大する。また、看護人材を2017年までに1万人規模で採用し、特に看護人材については、入院時の完全看護サービスを全ての病院において実施することを2018年までに実現するとしている。
また、短時間勤務等によって雇用増が見込める時間選択制公務員を、2017年までに4500人規模で採用し、更に公共機関においては、賃金ピーク制(注3)の導入を通じて、浮いた人件費を活用して新規採用規模を8000人にまで拡大するとしている。
2.民間部門による雇用創出
民間企業に対しては、政府による財政支援を強化する。青年層の新規採用を誘導するための税制度や補助金の新設を計画する。例えば青年層の正規職を前年度より増やした企業に対する税額控除、また賃金ピーク制の導入や賃金体系の改編を行うことで、新規採用を増やした場合の人件費の支援等、青年層の雇用創出のために努力した民間企業に対し、支援を行う内容となっている。これに加えて、青年インターン制を一層拡大し、年間5万人規模を目指すとしている。また、インターンの後は正規職としての採用に結びつくよう支援していく方針も示している。
更に、労働市場改革及びサービス産業の活性化を推進する。具体的には、賃金ピーク制を拡散していくことと、柔軟性と安定性の向上に焦点を合わせ、労働市場改革を加速させていく計画である。
サービス産業の活性化対策としては、医療、観光、コンテンツ産業等の有望産業を集中的に育成していく方針である。
現場中心の人材育成等によるミスマッチの解消
「青年雇用絶壁解消総合対策」には、人材需給のミスマッチ解消のための対策も盛り込まれている。そのひとつが、産学協力を通じた現場中心の教育である。学校教育に並行して仕事学習を拡充していくことが、産業界の求めに応じて盛り込まれた。例えば、産学一体型学校(高校)、専門大学、長期現場実習型大学といった学校において、仕事学習を持続的に拡大していこうとするものである。
もうひとつは、大学の改革である。これも産業界の需要に基づいたものであるが、今後の社会変化と産業界の需要を反映した大学教育とするよう改編が求められている。そして、大学の改革に実際に活用できるよう、中長期的(5~10年)な人材の需要展望を専攻別に提示する計画が示されている。また、産学連携教育を活性化させた先導的な大学には支援金を提供していく。
青年雇用支援のためのインフラの拡充と効率化
本対策には、就職支援サービスの効率化策も含まれている。例えば、大学に対し、ワンストップ型の就職支援サービスを提供することができるよう、既存のプログラム体系を改編する対策や、相談、職業訓練、インターン、海外就職、就職あっせん等、段階ごとに行ってきたサービスを、今後は統合して提供する・メ・年明日さがしパッケージ・腸 新設して、年間20万人の支援を行う対策である。
また、青年に対する雇用支援インフラの拡充のため、それぞれの所管官庁がそれぞれに実施していた雇用対策事業を統廃合して合理化し、効率的に実施していく体制を整備していくことも含まれている。
さらには、専門人材を中心に、青年層の海外就職を促進し、1万人規模に拡大する計画も盛り込まれている。またその支援のための教育体制の整備や、海外進出にあたってのビザ取得時の障壁等を緩和していく外交的努力にも傾注していくことが挙げられている。
協力宣言の主な内容
この度の政府と経済界によって発表された「青年雇用機会20万プラスプロジェクト推進のための政府-経済界協力宣言」の主な内容は以下のとおりである。
青年雇用機会20万プラスプロジェクト推進のための政府-経済界協力宣言
政府と経済界は、青年雇用問題が、我々の社会が緊急に解決しなければならない国家的課題であるとの認識をともにし、2017年までに「青年雇用機会20万プラスプロジェクト」を共同推進するよう宣言する。
- 政府は、雇用絶壁の解消のため、公共部門を中心に、2017年までに4万人以上の雇用を追加創出する。
- 経済界は、新規採用、インターン、有望職種の職業訓練等を通じ、2017年までに16万人以上に新たな雇用機会を提供するよう努力する。
- 政府は、企業の青年雇用創出努力に対する税制及び財政支援の強化、労働市場改革の加速化、有望事業の集中育成等を推進する。
- 政府と経済界は、現場中心の人材育成と、人材需給のミスマッチ解消のための教育訓練分野の改革に努力する。
- 20万プラスプロジェクト推進のための、政府‐経済界の協力が、実際に現場で具現されるよう推進体系を構成し、運営する。
以上の宣言は、政府側は、企画財政部、産業通産資源部、雇用労働部、教育部、未来創造科学部、中小企業庁の各長官等によって、経済界側は、全国経済人連合会、大韓商工会議所、韓国経営者総協会、中小企業中央会、中堅企業連合会、韓国貿易協会の各長等によって、署名された。
労働界の反応
以上は、政府が発表した「青年雇用絶壁解消総合対策」についてその概要を紹介したものであるが、労働界の反応を見ると、本対策に対する反発の声が大きい。本対策には労働組合の意見は一切反映されておらず、また、その中身についても、青年雇用のための総合対策と称しながら、財界が求める雇用柔軟化を推し進めるだけの内容となっていると指摘する。本対策に掲げられているような時間選択制公務員やインターン制の拡大等は、非正規雇用の一層の増加をもたらし、良質な雇用を減らすことにつながり、青年層の雇用はいちだんと悪化させる結果となる、と労働側は批判している。
注
- 韓国のベビーブーム世代は、朝鮮戦争後の1955年から1963年生まれ。(本文へ)
- 2013年4月に成立した定年延長法により、2016年より従業員300人以上の企業と公共機関においては、定年を60歳以上とすることが義務化された。韓国の定年延長については、以下のJILPTウエブサイトを参照。
海外労働情報 国別労働トピック「定年延長法成立後の賃金体系改編の動き鈍く」(2015年6月掲載)、 「定年延長法成立、2016年から段階的に施行」(2013年6月掲載)(本文へ) - 労働者が一定年齢を超えた場合、その生産性に応じて賃金を削減する代わりに、定年までの雇用を保障する賃金制度。韓国政府は、この制度の導入を企業に対して推奨している。(本文へ)
参考資料
- 2015年7月27日報道資料「青年雇用絶壁解消総合対策発表」(企画財政部、雇用労働部、教育部、中小企業庁)。東亜日報、朝鮮日報、ハンギョレ、各ウェブサイト。
関連情報
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:掲載年月からさがす > 2015年 > 10月
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:国別にさがす > 韓国の記事一覧
- 海外労働情報 > 国別労働トピック:カテゴリー別にさがす > 若年者雇用
- 海外労働情報 > 国別基礎情報 > 韓国
- 海外労働情報 > 諸外国に関する報告書:国別にさがす > 韓国
- 海外労働情報 > 海外リンク:国別にさがす > 韓国