定年延長法成立、2016年から段階的に施行

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  • 国別労働トピック:2013年6月

定年を延長する「雇用上の年齢差別禁止および高齢者雇用促進法改正法」が4月30日、国会で可決成立した。改正法は、これまで努力義務であった60歳以上の定年を、従業員300人以上の事業所は2016年から、300人未満の事業所は17年から義務化した。また、定年延長に伴う企業の負担増に配慮し、労使は賃金体系改編等の必要な措置を講じなければならないと規定した。

60歳定年を義務化、罰則規定はなし

韓国の定年制は、これまで法律で一律の定年年齢を定めず、「雇用上の年齢差別禁止および高齢者雇用促進法」において、「事業主は、定年を定める場合、60歳以上になるよう努力しなければならない」と規定していた。改正法はこの規定を、「事業主は、労働者の定年を60歳以上にしなければならない」に改め、60歳以上の定年を義務化した。さらに、「定年を60歳未満と定めた場合、定年を60歳とみなす」という規定を追加し法律の実効性を高めた。しかし、同法には罰則規定がないため、定年を60歳未満に定めただけで事業主が処罰されることはない。このため、年齢を理由に60歳未満で解雇された労働者は、労働委員会や裁判所に対し事業主を不当解雇で訴え、現職復帰や解雇期間中の未払賃金の支払いを求めることとなる。

60歳定年制は、公共機関、地方公社、地方公団、300人以上の事業所で16年から、国および自治体、300人未満の事業所で17年から施行される。

賃金ピーク制による賃金体系の見直しを想定

改正法はまた、定年延長による企業の負担増に配慮し、「定年を延長する事業主と労働組合は、賃金体系改編等の必要な措置を講じなければならない」と規定した。立法過程では、一定年齢を超えた場合、賃金を削減する代わりに定年保障、定年延長や雇用延長を行う賃金ピーク制の導入を義務づける議論もあったが、法律には明記されず、労使の自主決定に委ねられた。政府は、賃金ピーク制を導入した事業所に対し、賃金ピーク制補填手当を支給している。

定年延長に伴う賃金体系改編をめぐって労使紛争が発生した場合、労働委員会に仲裁を申請することができる。

年金支給開始年齢を段階的に65歳まで引き上げ

韓国の国民年金の受給開始年齢は、少子高齢化や出生率の低下などにより、2013年から段階的に引き上げられ、2033年に65歳となる。1953年~56年生まれの加入者は61歳、57~60年生まれは62歳、61~64年生まれは63歳、65~68年生まれは64歳、69年生まれ以降は65歳から受給できるようになる。早期退職などで収入がない場合に55歳から申請することができた早期受給年金も、生まれた年によって早期受給可能年齢が56~60歳に引き上げられる。

60歳定年制の義務化に対する肯定的な見方

60歳定年制の義務化による肯定的な側面として国民年金受給まで家計の負担を軽減する効果が挙げられる。

企業側からは「負担が増加する」との声も挙がっているが、大企業の中には、すでに60歳定年制を実施している企業も数多く存在する。ポスコは、2011年から定年年齢を56歳から58歳に延長した。58歳の定年退職後も希望者は1年単位の再雇用契約により60歳まで働くことができる。これにより、12年に56歳で定年を迎える予定だった646人が現在も働いている。13年も485人がその恩恵を受ける見通しである。ポスコ側は、60歳定年制の実施に満足感を示している。ポスコ労務グループのムン・ジソン・チーム長は「定年延長に関する07年からの労使の議論を経て、賃金ピーク制とともに、現在の60歳定年制を導入した。導入後、インドネシア、ベトナムなどへの海外進出が増加し、現地採用者を教育する人材が必要となった。長年の経験を持つ社員は会社にとって大きな資源である」と述べた。ポスコの従業員も60歳定年制に満足感を示しているという。

ポスコグループでは、ポスコ鋼板、ポスコエムテック、ポスコICTなども60歳定年制を導入している。その他に60歳定年制を導入した企業を見ると、GSカルテックス、現代オイルバンク、現代重工業、大宇造船海洋など製造業の割合が高い。昨年定年を60歳に延長したGSカルテックスの人事担当者は、「コスト負担があることは事実だが、長年の経験を持つ人材を活用して負担を相殺するよう職務教育システムを開発し、新たな人材育成に活用している」と述べた。

60歳定年制の義務化に対する否定的な見方

賃金ピーク制の導入は義務化されているわけではなく、労使が自主的に決定するため、労使交渉の難航が予想される。また、雇用市場の変化により若者の雇用がますます難しくなることが懸念される。雇用が増えない状況で、定年を延長する場合、若年雇用を減らすしかない。賃金ピーク制による賃金削減の程度に応じて、企業が費用負担を理由に新規採用を忌避する可能性もある。

慶南経営者総会のバン・ヨンジク部長は、「昨年の賃金交渉で労働組合が譲歩したため、今年賃金引き上げを要求された場合、使用者側は応えざるを得ない。企業にとっては、不安定な景気状況の中で、コスト負担がより重くなる」と述べた。民主労総慶南本部のジョ・テイル政策局長は、「60歳定年制の導入は歓迎するが、高齢労働者の賃金を下方平準化させる恐れがあり、非正規雇用など質の悪い雇用が増大する可能性がある」と述べた。

世論調査専門機関モノリサーチが全国の成人男女1070人を対象に4月25日に実施した「賃金ピーク制導入の賛否に関する調査」結果によると、「導入賛成」54.9%、「導入反対」23.1%、「分からない」22.0%であった。導入賛成と答えた割合は、40代で61.8%、50代で59.8%、導入反対と答えた割合は、20代で32.7%、30代で27.6%と高かった。定年を控えた中高年層と就職などの悩みを抱えた若年層の間で、認識の差が大きいことが分かった。

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