雇われて働く安定を取り戻す動き
―請負をめぐる議論
さまざまな場面で「請負」労働が拡大するなか、スマートフォンのアプリケーションを使ったタクシー配車サービス、「ウーバー(UBER Technology Inc.)によって乗客を紹介されるタクシー運転手がウーバーと雇用関係があるかどうかという問題や、物流サービス大手のフェデックスが契約するトラック運転手と雇用関係があるかという問題をめぐる議論が過熱している。
雇われて働く労働者には、健康保険や年金、生活の安定が確保されてきた。一方で、業務単位の契約関係のなかで「請負」では、企業が社会保障に関する経費を負担せず、労働者の生活の安定に関与しない。働く側の意志というよりもむしろ、働かせる側による柔軟な労働力の運用やコスト削減といった思惑による、こうした方向をとる企業に対して、社会的責任がどのように問われるかが焦点だ。
スマートフォンアプリを活用した新しい請負モデル
ウーバーをめぐる問題については、ウーバー発祥の地であるカリフォルニア州をはじめとして、法廷で争われている。主たる争点は、ウーバーによって乗客を紹介されるタクシー運転手がウーバーと雇用関係があるかどうか、それとも請負であるのかということである。
もしも雇用関係があれば、タクシー運転手が必要とする経費や年金、健康保険といった社会保障のほか、最低賃金などの適用を受けるだけでなく、運転手が労働組合を組織して団体交渉を行うこともできる。
連邦地方裁判所では、ウーバーと、ウーバーの同様の事業を展開するリフト(Lyft Inc.)で乗客を紹介されるタクシー運転手に関する訴訟が継続中である(O'Connor v. Uber Techs. Inc., N.D. Cal., No. 3:13-cv-03826; Cotter v. Lyft, Inc., N.D. Cal., No. 3:13-cv-04065)。
ウーバーとリフトは、どちらもスマートフォンのアプリケーションで運転手と乗客をつなぐ配車サービスを展開する。リフトは、タクシー運転手だけでなく、営業目的ではない自動車の運転手も対象としており、利用料金を寄付としている点でウーバーと異なるビジネスモデルを持つが、実質的にはウーバーと変わらないと理解されている。
審議中の訴訟では裁定がでていないものの、カリフォルニア州の労働委員会は、ウーバーの下でサービスを提供していたタクシー運転手がウーバーと雇用関係があったとする判断を6月3日に下した。それにともない、ウーバーに対して、一人のタクシー運転手が負担した2カ月分の走行距離に応じた経費と高速道路通行料、4千152ドルを支払うように命じた。
ウーバー側は、その判断を不服として、6月16日にサンフランシスコ郡高等裁判所に提訴している(Uber Techs., Inc. v. Berwick, Cal. Super. Ct., No. 15-546378, appeal filed 6/16/15)。
従来型と異なる請負モデル
ウーバーもリフトもともにカリフォルニア州が発祥の地である。カリフォルニア州は全米でもっとも労働者保護規制の強い州の一つであり、これまでも雇用か請負かといったことが争われてきた(S. G. Borello & Sons, Inc. v Dept. of Industrial Relations, 48 Cal. 3d 341 (Cal. 1989))。
1989年の訴訟に由来し、雇用か請負かを判断する基準をボレロ(Borello)・テストと呼んできた。
その基準は、「発注される仕事が職業か事業か」「いつも決まっている事業かどうか」「経費負担を発注者と労働者のどちらがしているか」「仕事に必要な投資は労働者自らが行うかどうか」「与えられるサービスが特別なスキルを必要とするかどうか」「発注者の監督下にあるかどうか」「損失が労働者自らの管理能力によるかどうか」「従事する時間の長さ」「仕事上の関係の永続性の程度」「時間単位か業務単位かの報酬支払い基準」「発注元と発注先のどちらかが雇用関係が成立していると感じているかどうか」
ボレロ・テストは、ウーバーのようなビジネスモデルが生まれる以前につくられたものであり、いくつかの基準では雇用関係があると認定されるものの、すべてにあてはまるわけではない。その意味において、カリフォルニア州の労働委員会の裁定は画期的なものであり、既存の規制の枠を超えたビジネスモデルを駆使する企業について、同様の社会的責任が課せられるかどうかが焦点となる。
フェデックスでは和解へ
トラック運転手でもタクシー運転手と同様の問題がある。
フェデックス(FedEx Ground Express System Inc.)は、請負として契約していたカリフォルニア州の2300人のトラック運転手を雇用労働者と認定するとともに、和解金として2億2800万ドルを支払った。これは、カリフォルニア州証券取引委員会の6月12日の提起(Alexander v. FedEx Ground Package Sys., Inc., N.D. Cal., No. 3:05-cv-00038, settlement announced 6/12/15)に基づく。
フェデックスとトラック運転手の問題は、トラック運転手がカリフォルニア州裁判所に2004年に提訴したことにさかのぼる。フェデックスはトラック運転手と個別契約に基づき配送業務を請け負わせていたが、その契約はトラック運転手の自由裁量がない一方的なものであり、実質的には雇用関係が存在するにもかかわらず、カリフォルニア州労働法典に基づくさまざまな義務を逃れているということが訴えの中身である。
今回の和解に基づき、フェデックスは、2011年以降の個別契約は無効であるとともに、トラック運転手は雇用労働者として扱うことになるとしている。
(山崎 憲)
参考資料
- Nagele-Piazza, Lisa, "FedEx Agrees to $228 Million Settlement of California Drivers 'Misclassification Claims", Daily Labor Report, Jun. 15, 2015.
- Snyder, Jim, "Uber Litigation Spotlights Challenge: When Are Workers Considered Employees", Daily Labor Report, Jun. 24, 2015.
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