生活できる賃金を求める運動が過去最大規模で展開

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  • 国別労働トピック:2015年5月

236都市、参加者約6万人のファイト・フォー・フィフティーン(Fight for Fifteen)運動が4月15日に全米で展開された。ターゲットとなったのは、マクドナルドをはじめとするファスト・フード店だった。連邦最低賃金が7.25ドルにとどまるなか、人間らしい生活ができる最低水準となる貧困ラインを上回る賃金、15ドルを獲得することが目的だ。

ワーキング・プア

経済政策研究所(Economic Policy Institute)は、スーパーマーケットなどの小売産業で働く労働者の賃金は他産業で働く労働者の賃金よりも32.4%低く、働いているにもかかわらず貧困ラインを下回る、いわゆるワーキング・プアの比率が10.1%にのぼるという。他産業で働く労働者の6.6%がワーキング・プアであることと比べればはるかに高い。

2015年の貧困ラインは四人家族で、2万4520ドルだった。ワーキング・プアの状態にある労働者のうち、41.5%がなんらかの社会保障を受けており、その総額は年間134億ドルに達するという。

低賃金にあえいでいるのは、ファスト・フードや小売といった産業で働く労働者とその家族だけではない。経済政策研究所は大学新卒者の賃金についても調査結果を報告している。それによれば、2000年比で賃金が7.7%減少するとともに、26万人が最低賃金水準で働いているとする。

同じことは製造業にもいえる。法・経済系のシンクタンクNELPが2014年12月に発表したところによれば、製造業で働く労働者のうち60万人が時給9.6ドル以下で、150万人が時給11.91ドル以下で働いているという。NELPによれば、アメリカの労働者の42%が時給15ドル未満となっているという。

こうした状況で働いている労働者の課題は、時給の低さだけではない。経営者による柔軟な雇用の活用が進んだために、まとまった時間数を働くことができないため、年収が低い。最低賃金で週5日、一日8時間働いたとしても貧困ラインを下回る計算になるが、そもそも週5日、一日8時間働くことができない。結果として、貧困ラインを下回る年収しか手にできず、健康保険や年金などの社会保障の対象外となってしまう。ファイト・フォー・フィフティーン運動の背景にはこうした全米で拡大する低賃金の問題がある。また、ファスト・フード店の多くはフランチャイズ経営をしており、本体企業は労働条件や安全衛生、団体交渉といった責任とは無関係とする姿勢をとっている。このような状況に異議を唱えて、本体企業に雇用主責任を負わせるとともに、あわせて労働組合を組織しやすくすることも運動の目的となっている。

フランチャイズ形式、法的責任も課題に

ファイト・フォー・フィフティーン運動は、店舗前で参加者が行うデモンストレーションが中心だが、それだけではない。

多くのファスト・フード店はフランチャイズ経営を行っている。そのため、採用や労働条件などはフランチャイズ店のオーナーに責任があるとして、本体企業とは無関係とする立場をとってきた。時給15ドルを求める運動についても、判断することが自分たちにはできないと主張している。

これに対して、労働組合側に立つ法学者、弁護士、および法経済系のシンクタンクであるNELPといった法律系の専門家は、労働条件や安全衛生、人種差別やハラスメントといった課題に対して、フランチャイズ店のオーナーと本体企業の双方に共同経営者としての法的責任があることを確認するための訴えを全国労働関係委員会(National Labor Relations Board)に対して起こした。

現在、審理が進行中なのは、「フランチャイズ店オーナーによる不当労働行為」「店舗における安全衛生配慮義務」「フランチャイズ店オーナーによる超過勤務手当の未払いや休息時間不付与」「フランチャイズ店オーナーによる人種差別やハラスメントによる解雇」に関して、本体企業に責任があるかどうかということの4つである。

労組と草の根組織の連携

ファイト・フォー・フィフティーン運動の中核を担ったのは、サービス従業員労働組合(SEIU)と地域住民の組織、学生、中小企業事業主、宗教団体、NPOといった草の根の組織だった。そこに、在宅保育労働者や大学の非常勤講師、クリーニング労働者も参加した。

とくに、SEIUによる運動に対する支援活動の影響が大きいことを、アメリカ商業会議所や国際フランチャイズ・チェーン協会が批判的に指摘している。両団体によれば、SEIUは2013年に1180万ドル、14年に1850万ドルの資金を投じている。

ファスト・フード店を対象とする運動は2012年から展開されている。この年は、ファストファッションやウォルマートに代表される小売店舗をターゲットにした賃上げ要求運動が開始された。SEIU同様に、ホテルやレストランの従業員を組織する労働組合UNITE–HEREが支援をしている。

経営者団体は、賃上げ要求運動に現役従業員がほとんど参加していないことや労動組合が主導的な立場にあることを批判している。一方で、中小企業事業主団体が最低賃金引き上げを求めるロビー活動を展開するようになるなど、運動を支持する動きは広がりをみせている。

その一つが大学の非常勤講師の運動への参加である。非常勤講師は時間あたり賃金で働いている現在の状況から、一年間一コマの講義につき、1万5000ドルの報酬を求めている。大学の非常勤講師はSEIUが組織化を継続しており、2万3000人が団体交渉権を得た。

運動は全米レベルに拡大し、各地域で進んでいる州別最低賃金引き上げの原動力となっている。

(山崎 憲)

参考

  • Ben Penn, Fast-Food Strikes Reach 230 Cities, As Fight for $15 Evolves in 13th Walkout, Daily Labor Report, Apr. 15th, 2015.

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