職業訓練個人口座制度(CPF)の施行
―より労働者個人の意思を尊重する制度へ

カテゴリー:人材育成・職業能力開発労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2015年4月

フランスの職業訓練制度の一つとして行われてきた「職業訓練を受ける個人の権利(DIF)」(注1)に代って、1月1日から「職業訓練個人口座(CPF)」(注2)が実施されることになった。レプサメン労働相によると、施行後2日間で27,500人が従来のDIFからCPFへ切り替え手続きを行い、制度を有効に利用できる状態になった(注3)

雇用安定化法の一環としての職業訓練政策の実施

2013年6月に成立した雇用安定化法(注4)は、労働者の権利を拡大するとともに、雇用の柔軟性を高めることを目的とする同年1月11日の労使合意の内容を法制化したものである。

この法律には、短期の有期雇用契約(CDD:Contrat de travail à Durée Déterminée)の乱用を防ぐことを目的として短期間の雇用契約を対象として失業保険の使用者負担分の保険料率を引き上げることや、短時間労働による低収入を防ぐことを目的として、パートタイムの最低労働時間を原則として週24時間を下回らないとすることが明記された。そうした労働者保護的な政策の一方で、経営が悪化した企業において、賃金の引き下げや労働時間の延長、配置転換を容易に行える措置が盛り込まれた。これらの他に、「職業訓練を受ける権利の時間数を蓄積する個人口座制度」(CPF)を導入することも含まれていた。このCPFが2015年1月1日から施行された(注5)

公的機関による費用負担に

CPFは、民間部門における就業者に、職業訓練受講可能時間(権利)を付与するもので、従来からあるDIFに代替する制度である。このCPFの個人口座に職業訓練受講可能時間を持つ者は、職業訓練を受けることができ、この職業訓練にかかる費用は、労使同数職業訓練費徴収機関(OPCA)が負担する(注6)

このCPFは、16歳以上の労働者全員(注7)に自動的に開設され(注8)、完全引退まで保有し続けることになる(注9)。CPFは労働者本人に帰属し、転職したり失業者となっても保持され、就業者及び求職者全員が、就労の意思がある限り職業訓練を受講する権利(時間)を持つことができる。

民間部門の雇用労働者として就労した場合、CPFに、職業訓練受講可能時間が蓄積される(注10)。出産、育児、養子受け入れ、労災・職業病などを理由に休暇を取得している期間も、職業訓練受講可能時間の算定に考慮される(加算対象となる)。逆に、失業期間中に対しては加算されない。また、民間部門の雇用労働者にだけ加算され、自営業者や公務員(注11)には、職業訓練個人口座が開設されるものの、職業訓練受講可能時間は加算されない。フルタイム労働者の場合、年間24時間が加算され120時間に達するまで蓄積される。その後は、年間12時間が150時間に達するまで加算される(注12)。パートタイム労働者には、労働時間に比例して加算される。例えば、フルタイム労働の約半分の労働時間の場合、年間12時間が加算されるが、上限は同じく150時間である。企業別又は産業別の労使協約で、パートタイム労働者の加算時間を増加させることも可能である。150時間の上限が設定されているため、フルタイム労働者として8年間就労すれば、上限に達する。この上限によって職業訓練の受講を促すかたちとなっている(注13)

なお、2014年12月31日時点で、DIFに蓄積された残高(職業訓練受講可能時間)は、CPFへ移行することができる。自動的には移行されないが、公式ウェブサイト上で蓄積残高(時間)を申告することによって移行できる(注14)

勤務時間外の場合、雇用主の許可不要に

CPFに蓄積された職業訓練受講可能時間は、希望する職業訓練の全部または一部に充てられる。就業者でも求職者でも利用でき、求職者の場合、公共職業安定所への登録も必要ではない。CPFの対象となる職業訓練は、公式ウェブサイト上で調べることができる。そこでは、職業訓練を希望する者の状況(就業者か失業者か)、産業や職種、希望する場所(地方圏単位)、キーワードなどを入力の上、検索することができる(注15)。この制度の適用になる職業訓練は、国及び地方圏レベルにおける労使によって決定され、今年1月の時点でおよそ7,500に上っている。

就業時間内に職業訓練を受ける場合、雇用主の同意を得なくてはならない。その場合、賃金は、完全に維持される。ただし、雇用主は従業員の職業訓練について、CPFの利用を強制することはできない。また、就業時間外に職業訓練を受ける場合は、職業訓練を受講する旨を雇用主に申告する必要はないし、また、職業訓練の受講時間に対する手当等は支払われない。すなわち、雇用労働者の意思に基づき、CPFを利用した職業訓練の手続きが進められる。

もし、口座に蓄積された職業訓練受講可能時間が、希望する職業訓練に充てるのに不十分な場合や、職業訓練費用が上限を超える場合(注16)、自己負担するか、雇用主に一部負担を求めたり(雇用労働者の場合)、他の助成制度など(注17)も併用することもできる。なお、CPFで利用した職業訓練時間は、職業訓練終了後に、引き落とされる。

蓄積時間の上限が150時間に引き上げ、消失しない権利に

従来のDIFとの主な違いは以下のとおりである。DIFは1年以上同じ企業に勤めた場合、年間20時間(フルタイムの雇用労働者の場合)まで、職業訓練を受ける権利が生まれる制度であった。訓練時間は最高6年分(120時間)、累積することができた。120時間以上は加算できず、フルタイム労働者の場合、6年でその時間は消失していた。それに対して、今回つくられたCPFは全ての労働者を対象として口座が開設され、毎年の加算時間が24時間(120時間に達するまで)となり、上限が150時間に引き上げられ、いったん蓄積した時間は、職業訓練を受けない限り減少したり消失したりしない。

DIFは民間企業の雇用労働者も公務員も区別されない制度であった。それに対して、CPFでは、16歳以上の全ての国民(公務員を含む)に個人口座が開設されるが、公務員には、職業訓練に利用できる時間は加算されない。その代わり、公務員にはDIFが継続される。

DIFの場合も、従業員の意思に基づいて職業訓練を受講するとされていた。しかしながら、DIFでは、職業訓練が勤務時間中に実施されるか否かを問わず雇用主の同意が必要であった(注18)。それに対して、CPFでは、勤務時間外に職業訓練が実施される場合、不要となった。

DIFの枠組での職業訓練にかかる費用は、雇用主が負担しなくてはならなかった。また、勤務時間外に職業訓練を受ける場合、その時間に対して、賃金の50%相当額を支払わなければならなかった(注19)。勤務時間内の場合は、それまでの賃金は維持されていた。それに対してCPFでは、職業訓練費はOPCAが負担し(注20)、また、勤務時間外の職業訓練に対する賃金の支払い義務はない(注21)

表:CPFとDIFの主な相違点
  CPF DIF
年単位の蓄積時間 24時間 20時間
蓄積時間の上限 150時間 120時間
権利の消失 消失しない 一定の年月を経ると消失
雇用主の同意 就業時間外では不要 就業時間内外問わず必要
費用負担 OPCAの負担 雇用主負担
就業時間外の訓練に対する賃金の支払い 雇用主による負担義務なし 雇用主による50%の負担
職場間移動の権利保持(ポータビリティ) 制限なし 制限あり

制度としてのポータビリティの確立

DIFにも職場が変わることによって権利を保持することはできた。2009年の法改正でDIFのポータビリティが可能となった。しかしながら、一定の条件が必要であり、辞職の場合、辞表提出以降、実際の辞職までの間に職業訓練受講に関して雇用主と合意に達する必要があった。また、離職後でも、新しい雇用主の下で採用後2年以内で、かつ新しい雇用主が同意した場合に限り、以前の雇用主の下で蓄積されたDIFの蓄積時間(職業訓練受講可能時間)を利用することができるというものだった。このように、DIFにおける職業訓練受講可能時間のポータビリティは、事実上、制限されていたが、CPFでは一旦蓄積された時間は、雇用主の変更などの状況が変わったとしても維持され、利用しない限り永久的に消失しない。

このように、CPFは、より個人の意思を尊重する内容になっており、職業訓練受講可能時間をより多く蓄積させることができ、しかもそれが永久的に失効しないという点で充実した制度になった。しかしながら、CPFでは勤務時間外に職業訓練を受けた場合、手当が支給されなくなるなど、労働者にとって不利になった点も見受けられる。

参考資料

  • 職業訓練個人口座の公式ウェブサイト Mon Compte Formation新しいウィンドウ
  • 雇用安定化法について、労働省のウェブサイト Compte personnel de formation (CPF)新しいウィンドウ
  • Compte personnel de formation : 27 500 inscrits en deux jours, Le Monde, 6 janvier 2015
  • Compte personnel de formation : déjà 27 500 inscrits, Le Point, 7 janvier 2015

(ホームページ最終閲覧:2015年3月18日)

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