雇用安定化法が成立
―解雇規制の関連条項、7月から施行

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年8月

フランスの失業者数は増加の一途を辿っており、今年3月には従来の1997年1月の数値を超え、過去最多を更新した。昨年来、各業界大手の企業による事業所閉鎖や大規模解雇が報道で大きく取り上げられている。深刻化する雇用問題への対応策として、雇用安定化に関する法律(雇用安定化法)が6月14日に制定された。同法は、期限の定めのない雇用の促進、パートタイム労働の保護、職業訓練の機会の拡大、従業員代表の企業経営への参画、複雑化した解雇手続きの明確化などを主な内容としている。このうち、解雇の回避を目的にした労働条件の不利益変更や労働者の配置転換・異動を容易化する等の解雇規制に関連する条項などが7月1日から施行された。

大量解雇など深刻な情勢に対応

自動車大手プジョーのオルネー工場で8000人規模の人員削減(12年7月)、タイヤ大手ミシュランのトゥール近郊の重量車両向け工場での従業員926人のうち700人を削減する計画(13年6月)、大手銀行ソシエテジェネラルでの700人規模の人員削減(13年6月)等、事業規模縮小や生産拠点閉鎖に伴う人員削減の例は枚挙に暇がない。こうした厳しい雇用情勢のなか、雇用安定化に関する法律注1が2013年6月14日に制定された。今年1月11日に労使で合意した内容注2に即して、議会で4月から審議されていた法案である。労組側各組織の主張が異なることに加え、法案審議の過程で1月の労使合意内容から逸脱した側面があるとの見方から、経営者側も一部の内容に反対の意見を唱え賛否両論あるが、7月1日からその一部条項が施行されることになった。

法律の骨子

雇用安定化法の趣旨は、(1)雇用労働者のために新たな個人的及び集団的権利を確立すること、(2)労働市場の不安定性・脆弱性を解消すること、(3)厳しい経済情勢下における雇用を維持する方法を構築することである。同法の具体的な項目に目を向けてみると、「健康保険付加制度の全雇用労働者への適用」「職業訓練の個人口座による労働者の技能向上」「復職権を伴う自発的外部就業機会の導入」「従業員代表機関による社会対話機能の向上」「大企業の経営戦略の従業員の参画」「期限の定めのない雇用促進のための失業保険料率の改定」「パートタイム労働者の労働条件の改善」「経済的理由による集団的解雇に対する監督強化」となっている注3

まず、(1)雇用労働者のために新たな個人的及び集団的権利の確立を目的として次の5つの項目が設けられている。

  1. 健康保険補足制度の全雇用労働への適用

    フランスにおいて保険診療を受けた場合、診療報酬や薬剤費の一定割合を公的健康保険制度によって負担し、残りの部分については被保険者の自己負担となる。ただ、この被保険者負担分を共済保険や民間保険でカバーすることも少なくない。これは健康保険付加制度と言われており、特に大企業では保険料の一部を雇用主が負担して、従業員を健康保険付加制度に加入させ、従業員の医療費負担の軽減を図っている。この健康保険付加制度を2016年1月1日までに、全雇用労働者に適用するという項目が今回の法律に盛り込まれている注4。任意加入の健康保険付加制度の適用を、中小企業も含めてすべての従業員が受けられるようにするとの項目が含まれている注5

  2. 職業訓練の個人口座による技能向上

    職業訓練に関する個人口座制度を導入し、職業訓練を受ける権利を時間として、職業訓練に関する個人口座に累積するというものである注6。転職した場合でも、職業訓練に関する権利を保持できるようになる。累積時間は年間20時間で、総計で120時間を限度とする。

  3. 復職権を伴う自発的外部就業機会

    従業員数300人以上の企業で就業する従業員で勤続24カ月以上の雇用労働者を対象として、雇用主の同意の上で、一定期間、復職の権利を伴った形で他の企業で就業することが可能となるという制度である注7。他の企業での就業期間が終了した後、従業員の希望に応じて、前職と同一または同等のポストに、以前と同額以上の賃金、同等以上の職位で復職することができるというもの注8

  4. 従業員代表機関による社会対話機能の向上

    従業員が300人以上の企業を対象として、企業内社会的対話の質を促進するために従業員代表組織と情報共有する項目が設けられた注9。解雇、合併、売却などの企業経営に関する重要な情報を従業員代表組織に提供し共有する仕組みになる。

  5. 大企業の経営戦略への従業員の参画

    フランス国内で従業員規模が5000人以上、海外の拠点を含めた従業員規模が10000人以上の企業を対象として、従業員の経営への参画を促進することが記されている注10。労働者の権利拡大を目的として、大規模企業で取締役会のメンバーに従業員代表を入れるというもの。

また、(2)雇用の不安定性を解消するために、次の2つの項目が設けられた。

  1. 失業保険の再受給を可能とする制度

    繰り返し失業した場合の、失業保険の再受給の条件が変更されることになる注11。失業保険手当の受給可能期間を残して再就職し、数カ月就業した後、再び失業した場合にも失業保険制度の失業手当の受給権が生まれることになる。失業手当を満額受給するために敢えて再就職を遅らせることを防ぐと同時に、失業保険の受給権の拡大にもつながるとされている。

  2. 期限の定めのない雇用促進のための失業保険料率の改定

    安定的な雇用、すなわち期限の定めのない雇用(CDI: Contrat a Duree Indeterminee)を促進するために、期限の定めのある雇用(CDD: Contrat a Duree Determinee)に対して、失業保険の拠出が75%上乗せされることになる注12

  3. パートタイム従業員の労働条件の改善

    短時間労働が原因となる低所得者を減らすため、最低でも就労時間を週24時間(月104時間)とするものである注13。労働時間を超えて就業した場合、超過勤務のうち契約時間の10%までは10%増、それ以上に対しては25%増の割増賃金が支払われることとなる。2014年1月1日以降の労働契約から適用されることになる。ただ、個人の雇用主に雇われている労働者や、学業に従事している若年者などは対象外となる。

さらに、(3)の厳しい経済情勢下における雇用を維持する方法を構築することを目的として、「解雇回避のための労使合意」「経済的理由による集団的解雇に対する監督強化」「従来より容易な従業員の配置転換・異動」などが掲げられている。

従来の法律での解雇手続きは、手続きが複雑で不明確であるため、長期化する傾向があった。解雇手続きのために策定が義務づけられる雇用保障計画の承認が、行政当局や裁判所とのやり取りに長時間要していた。また、労使対話を促進する仕組みになっていない等の評価があった注14

  1. 解雇回避のための労使合意

    解雇を回避するための方法として、経営状態が極めて悪化した企業は、従業員を代表する労働組合との合意のもと、最長2年間、雇用の維持を条件に賃金の減額や労働時間を延長することができるようになるというもの注15。減給などの合意を個々の従業員が拒否することもできる。ただ、従業員が拒否したことを理由として解雇された場合、経済的理由による個人の解雇注16)となり、複数の従業員を経済的な理由で解雇する場合注17より簡素化された手続きが適用される。

  2. 経済的理由による集団的解雇に対する監督強化

    従来の法律では手続きの過程での当該関係者に対する説明が不明確であったことを踏まえて、従業員50人以上の企業を対象として30日以内に10人以上の解雇をする場合、明確な説明に基づいて、雇用保障計画の実効性を高めることが求められている注18。雇用保障計画は、次の2つの方法で策定することになる。(a)絶対多数(50 %以上)の従業員代表組織との合意に基づく計画。これは、2カ月以内に従業員10-99人の解雇、3カ月以内に100-249人の解雇、4カ月以内に250人以上の解雇が実施される場合に適用され、従業員代表との会合は、少なくとも2回開催される必要があり、15日以内に行政当局による審査を受ける必要がある。もうひとつは、(b)従業員代表への情報提供・共有を行った上で、経営者主体で策定された解雇計画を行政当局に提出し審査を受けた上で、21日以内に承認を受けるというもの。この計画策定手続きによって、解雇手続きを明確化し長期化する傾向を打開するねらいがある注19

  3. 従来より容易な従業員の配置転換・異動

    従業員の配置転換や異動の交渉条件が変更される注20。従来の規程では配置転換や異動の交渉は不確実な要素が多いため十分に活用されない状態にあった。今回成立した法律では、企業が雇用と能力のための経営計画(GPEC:Gestion previsionnelle de l’emploi et des competences、(注21を策定し、交渉の枠組みを明確化した。職業訓練や地理的な移動に伴う異動の著経費の補助などに関して労使で合意した上で、従業員への異動の提示が容易に実施できるようになる。配置転換を拒否して従業員が解雇された場合、個人に起因する解雇注22となり、経営状況が改善した場合に復職する権利などはなく、解雇手続きも経済的な理由による解雇注23と比べて簡素化された手続きが適用される。

(ホームページ最終閲覧:2013年8月2日)

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