EU域内からの移民がさらに増加
―新たな失業者対策も課題に

カテゴリー:雇用・失業問題外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2014年2月

連邦雇用エージェンシー(BA)によると、2013年、労働市場の完全開放が進む中欧・東欧の国々や欧州債務危機の影響の強かった南欧の国々の出身者を中心に、ドイツ国内の就労人口が増加していたことがわかった。だが同時に、それら中・東・南欧諸国の国籍を有する失業者もドイツ国内で増加しており、裁判所では、ドイツ政府関連機関はケースに応じてそれらEU域内外国人(EU市民)に対する「失業給付Ⅱ」の支払いを拒否できるかが争われている。

中・東・南欧出身者、ドイツ国内の就労者・失業者増に大きく寄与

BAの調査によると、(1)2011年5月にドイツとの間で労働市場の完全開放が実施された国々(ポーランド、ハンガリー、チェコ、スロバキア、スロベニア、バルト三国)出身の2013年11月時点における就労者数は、1年前の同時点と比較して、数にして約7万5千人、割合にして約20%の増加を記録した。同じく、(2)2014年1月1日から新たに労働市場の完全開放が実施されることになった国々(ブルガリア・ルーマニア)は約2万9千人(約24%)の増加、(3)欧州債務危機の影響が大きかったいわゆるGIPS諸国(ギリシャ・イタリア・ポルトガル・スペイン)も約3万8千人(約8%)の増加となった。これらの合計は、ドイツ全土における就労者の増加数の約40.2%を占める数字である(ドイツ全土では、約35万3000人(約1%)の増加)。

しかしそれ以上に、これらの国々出身の失業者が国内で顕著な伸びを示している。ドイツ全土における失業者の増加率は0.5%に過ぎないのに対し、前述の中・東・南欧諸国出身者のそれは、グループ(1)で24%、グループ(2)で52%、グループ(3)で13%(スペインに限定すると34%)にものぼる。

さらに、「失業給付Ⅱ」(=租税を財源とする求職者向け基礎保障給付)の受給者も、これに歩調を合わせるような伸びを見せているのである(グループ(1):19%増、グループ(2):50%増、グループ(3):10%増(スペインに限定すると30%増)、ドイツ全土:0.1%増)。

ドイツに出自を持たない失業者への対応が急務に

このような移民増加にともない、BAや地方公共団体などは各種対応に追われている。

その1つが、失業給付Ⅱの申請用紙に使用する言語の拡大である。これまでは、ドイツ語、英語、トルコ語、ロシア語の4カ国語しか記載がなかったが、申請実務における経験等を参考に、2014年4月より、使用言語が一気に13カ国語(イタリア語、ポーランド語、スペイン語、フランス語、アラビア語、セルビア語、クロアチア語、ギリシャ語、ポルトガル語が追加)へと拡大することになった。

しかし、より重要なのは、いわゆる「社会保障ツーリズム」への対応である。ドイツの失業給付Ⅱは、社会保険料の納付がなくとも、就労可能性や要扶助性等が存する限り、地域の窓口に受給申請をすることが原則可能である。そのため、この失業給付Ⅱを目当てとする移民の流入に、どう対応するかが大きな問題となっているのである。

EU市民に対する失業給付Ⅱの支給拒否は可能か―欧州司法裁判所が判断へ

この点、ドイツの現行法は、ドイツ国内に移住し職探しをしているEU市民は原則として扶助給付を受ける権利を有しない、という「排除条項」を設けている。しかし、この排除条項をめぐって、全国各地でEU域内の外国人から訴えが提起されることになった。

裁判所の判断は、第二審レベルでは、見解が対立している。例えば、ノルトライン=ヴェストファーレン・ラント社会裁判所は、原告はすでに1年間ドイツに滞在しているのであるから、この排除基準はもはや適用されず、したがって、請求権は認められるべきである、という肯定的な判断を行った。これに対し、その後に出されたニーダーザクセン=ブレーメン・ラント社会裁判所は、立法者がEU市民を意図的に排除しているのは社会保障ツーリズムを回避するためのものであり、市町村の財政が厳しい場合、彼らに支払わなければならないのは、帰郷にかかる費用とそれまでに当面必要となる費用だけである、として請求権認容に否定的な判断を行った。

このような下級審における対立の中で、この問題に関する初めての第三審レベルの判断リンク先を新しいウィンドウでひらくが、ブルガリア・ルーマニアへの労働市場の全面開放を目前に控えた2013年12月12日に、連邦社会裁判所(BSG)で出された。この事件は、ボスニア系スウェーデン人一世の女性とその子どもの家族が、当初はベルリンのジョブ・センターから失業給付Ⅱの支給を受けることができていたが、その後、認定が取り消されたため、女性が裁判所に訴えを提起したものであった。

しかしながら、BSGは、すぐに自ら具体的な結論を提示することは回避し、「ドイツ国内におけるEU市民排除条項が有効であるかどうかは、EU法の規定の正しい解釈を前提として行う必要がある」などとして、欧州司法裁判所(EuGH)にこの問題に関する先行判決を行うよう付託する決定を行った。

これを受けて、EuGHは今後、ドイツの社会保障給付においてEU市民とドイツ国民とを異別に取扱うことがEU法(特にEU域内における自由移動原則)に違反しないかどうか、判断を行うことになる。ニーダーザクセン=ブレーメン・ラント社会裁判所によると、この問題は、ドイツ全土で約13万人に影響があるとても重要な問題であるということである。

参考資料

  1. DIE WELT, EUGH muss uber Hartz IV fur Auslander entscheiden 12. 12. 2013リンク先を新しいウィンドウでひらく
  2. FAZ, Hartz IV-Antrag demnachst in 13 Sprachen 05. 02. 2014リンク先を新しいウィンドウでひらく
  3. Tagesspiegel, Mehr Migranten, mehr jobs, mehr Harz IV 05. 02. 2014リンク先を新しいウィンドウでひらく

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