派遣労働者の比率、全従業員の10%以内に
―「規定」を発表、3月に施行
「労働者派遣暫定規定」(以下「規定」)が24日、人的資源社会保障部から発表された。この中で、各企業の派遣労働者を受け入れることができる数を全従業員(直接雇用労働者プラス派遣労働者)の10%以内に抑えるという比率が定められた。現状では、特に国有企業でこの比率を大きく上回っており、実現可能性を危ぶむ声が早くも出ている。「規定」は、ほかに派遣労働の範囲、直接労働者との同一労働同一賃金などを盛り込んでおり、3月1日に施行される。
比率規制、2年間を移行期間に
派遣労働者を多く使用するのは国有企業や外資企業とされる。全国総工会の調査によれば、国有企業における派遣労働者は全従業員の16.2%(2011年)を占めていて、各企業形態の中で最も高い値である。外資系企業が14%で続いている。
今回の「規定」の最大のポイントは、派遣労働者数の比率を明確にしたことである。「派遣先は派遣労働者の使用において全従業員数の10%を超えてはならない(第4条)」と定めた。現在、国有企業をはじめ各企業の派遣労働者の比率は10%をはるかに上回っている。短期間での派遣労働者比率の調整は困難であるため、「「規定」実施日より2年以内に比率を調整しなければならない。調整期間中で10%未満に達していない場合は、派遣先は新たに派遣労働者を雇用することができない(第28条)」と定めた。
「補助的業務」は労組などと協議
労働契約法は派遣労働が可能な業務についての「三性」を定めている。「規定」はこの「三性」に関し改めて定義している。三性はそれぞれ「臨時的業務」が「存続期間が6か月を超えない業務」、「補助的業務」が「主要な業務のためにサービスを提供する、主要でない業務」、「代替的業務」が「労働者が学習・休暇等のため就労不可能な期間に、それを代替する業務」である。このうち「補助的業務」については、従業員代表大会あるいは全従業員の討論によって「どのような職務が補助的業務に該当するのか」の案を提出し、それについて労働組合または従業員代表と協議した上で、派遣先は企業内に公示しなければならない、とした。
派遣元の雇用責任など明確化
派遣元の乱立と不正を抑えるため昨年7月に改正された「労働契約法」では、派遣事業を行うための最低登録資本金の50万元から200万元への引き上げ、および罰則・罰金が規定されている。それ以外に今回の「規定」では派遣元の責任と義務も明確に強化された。「派遣元は派遣労働者と2年以上の有期雇用契約を締結しなければならない(第5条)」。「派遣元は派遣労働者に対して1回に限り試用期間を設けることができる(第6条)」。また第7条では派遣先・派遣元双方が協議して明確にすべき雇用契約の内容を詳細に規定している。第8条は派遣元が派遣労働者に対して履行すべき義務を明確にしている。
派遣労働者への平等権益保障
1.同一労働同一待遇
正社員と派遣労働者の間では、同じ業務であっても賃金にかなりの格差が存在している。そして待遇差別は賃金だけではなく、福利厚生でも存在している。
労働契約法では、「派遣労働者は派遣先の労働者と同一の労働に対して同一の賃金の権利を有する」として同一労働同一賃金の強化に言及している。「規定」の第9条は「派遣先は「労働契約法」第62条の規定に基づいて、派遣労働者に業務に相応しい福利厚生を提供し、差別的な待遇にしてはならない」としている。
つまり、派遣労働者は直接雇用者と同一業務に対する賃金の同一性だけではなく、福利厚生において同一となることができる。
2.地域を跨ぐ労働者派遣での社会保険
「規定」は地域を跨ぐ労働者派遣の社会保険についても規定した。「派遣先は地域を跨ぐ派遣労働者に対しては、派遣先の所在地で社会保険に加入させなければならない。社会保険料は派遣先の所在地の基準に基づき納付し、派遣労働者は派遣先の所在地の基準に基づき社会保険を受給する。派遣元が派遣先の所在地に事業所を有する場合は、その事業所において社会保険の手続きを行う(第18条、第19条)」。
3.派遣労働者の派遣元への送り返しについて
第12条は派遣元が派遣労働者を派遣先に戻すことができる状況を規定した。
- 派遣先が「労働契約法」第40条(注1)第3項または第41条(注2)所定の事由により、派遣労働者を派遣元に戻す場合。
- 派遣先が法律に基づいて破産を宣告される、営業許可証を取り消される、閉鎖を命じられる、廃止される、解散する、または経営期限が満了し事業を継続しない場合。
- 派遣労働者受入の契約が満了した場合。
派遣労働者が派遣元に戻った後、派遣元は派遣労働者に対して業務のない期間、登録所在地の地方政府が定める最低賃金基準を下回らない金額を当該の派遣労働者に対して月ごとに支払わなければならない。
労災認定の責任・義務を規定
「労働契約法」では触れられていない派遣労働者の労災認定について、派遣先と派遣元の責任・義務が第10条において規定された(表)。
派遣労働者 の状況 |
派遣元 | 派遣先 |
---|---|---|
派遣先で事故・傷害に遭った場合 | 法律に基づいて労災認定を申請しなければならない。 労災保険上の責任を有するが補償方法については派遣先と協議できる。 |
労災の調査に協力しなければならない。 補償方法について派遣元と協議できる。 |
職業病の診断、鑑定を申請する場合 | 派遣労働者の職業病診断記録および労災の鑑定に必要な資料を提供しなければならない。 | 職業病の診断において責任を有する。労災の鑑定に必要な労働者の職履と労働災害の経験記録、および事業所における労働災害の要因の検査結果などの資料を提供しなければならない。 |
出所:「労働派遣暫定規定」より作成
派遣労働に属さない範囲も規定
「規定」の第26条は「企業が労働者を海外へ派遣する行為、あるいは家庭・自然人(注3)へ派遣する行為は派遣労働に属しない」としている。また第25条は「外国企業および外国金融機関が派遣労働者を使用する場合や、国際遠距離航海において船員を派遣労働者として使用する場合は、「三性」および派遣労働者の比率制限を受けない」としている。
なお、今回の「規定」は主に企業を対象としており、政府系事業組織は対象外である。ただし人的資源社会保障部の声明によれば、将来的には政府系事業組織に対して適用することも検討されている。
実行には不安の声も
「規定」発表後、規定された内容が円滑に実施されるかどうかについて、不安視する声も出ている。理由は4つで、1つ目が国有企業をはじめ外資企業、民営企業などが2年間で派遣労働者の比率を10%以内に順調に抑えられるか。2つ目は、派遣労働者がリストラされ、失業する事への心配。3つ目が、派遣労働者がリストラを恐れ、派遣先での待遇に問題があっても我慢する可能性があること。そして4つ目が、労働監査機構の監査がどこまで厳格に実施されるのかという不安である。
「規定」により派遣労働者の比率は10%に抑えられるか、派遣労働者の権利を本当に守ることができるか、期待は高いが、重要な課題にもなりえる。
注
- 労働契約法第40条 下記のいずれかに該当する場合は、使用者は30日前に書面で労働者本人に通知するか、あるいは1か月分の賃金を労働者に支払うことにより、労働契約を解除できる。
- 労働者が病気になる、あるいは業務に起因しない理由により負傷し、規定の治療期間を終えても従前の職務に従事することが不可能であり、かつ雇用先が手配する別の業務への従事も不可能な場合。
- 労働者に所定の業務を遂行する能力がなく、訓練や業務の変更を経ても業務遂行能力がない場合。
- 労働契約を締結する際の根拠としていた客観的な状況に重大な変化が生じ、労働契約を履行することが出来なくなり、使用者と労働者が協議をしても、労働契約の内容の変更についが使用者と労働者が合意に達しない場合。
- 労働契約方第41条 下記のいずれかに該当し、20人以上の人員削減または全従業員の10%以上の削減が必要な場合、使用者は30日前に労働組合または従業員代表に状況を説明して意見を聞いた後に、人員削減計画を労働行政部門に報告したうえで、人員削減を行うことができる。
- 企業破産法の規定に基づき企業再編を行う場合。
- 経営に重大な困難が生じている場合。
- 産業の転換、重大な技術革新、経営方式の変更により、労働契約の変更を実施してもなお人員削減の必要がある場合。
- 労働契約の根拠にしていた客観的な経済状況に重大な変化が生じ、労働契約を履行出来ない場合。
- 当該の企業と労働契約を締結している期間が比較的に長期である者。
- 期間の定めのない労働契約を締結している者。
- 世帯に他に就業者がいなく、高齢者または未成年を扶養しなければならない者。
- 法令上「人」、「個人」に該当する。
※本記事で紹介している条文は仮訳です。
参考文献
- 中国政府網、人的資源社会保障部、全国総工会、労働報、中国新聞網、羊城晩報
2014年1月 中国の記事一覧
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