年金支給額、10%引き上げ
―「所得代替率」は下落傾向

カテゴリー: 労働条件・就業環境

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  • 国別労働トピック:2014年1月

国務院常務会議は8日、公的年金の給付額を2014年に10%引き上げると発表した。近年は給付額が毎年のように上昇しているものの、賃金の上昇率には追いつかず、現役労働者の賃金水準の比率に当たる「所得代替率」は下落し続けている。しかし、年金財政の問題もあり、引き上げ率は前年程度に抑制された。

「代替率」はILO最低ライン以下に

2008年以降は毎年10%程度の引き上げを続けている(図表1)。その結果、2014年の給付額の水準は月額2000元を超える見通しだ。実際の引き上げ額は、各地方政府が当該地域の経済情勢などを考慮して決める。

現役の企業従業員の平均月額所得に対する年金支給額の比率―「所得代替率」は低下し続けている。中国社会科学院が2012年に発表した「中国年金報告2012」(以下「報告」)によると、所得代替率は、2002年=72.9%、2005年=57.7%、2011年=50.3%。国際労働機関(ILO)の社会保障最低基準条約で定める最低ラインの55%を下回っている。賃金の上昇率(図表2)に年金支給額の上昇が追いつかない事態が続いている。

地域間格差も目立つ。2011年の所得代替率の上位5地域は山東省70.5%、新彊ウイグル自治区64.8%、海南省64.2%、山西省61.8%、陜西省61.6%で、下位5地域は重慶市43.2%、江蘇省45.9%、四川省46%、湖北省47%、吉林省47.4%である。

図1

  • 出所:人的資源社会保障部
  • 注:2013年は予測値。

 

図表2:都市企業従業員平均賃金と上昇率
平均賃金(月) 平均賃金(年) 上昇率
2000 778 9333 12.2%
2001 903 10834 16.1%
2002 1031 12373 14.2%
2003 1163 13969 12.9%
2004 1326 15920 14.0%
2005 1516 18200 14.3%
2006 1738 20856 14.6%
2007 2060 24721 18.5%
2008 2408 28898 16.9%
2009 2687 32244 11.6%
2010 3029 36539 13.3%
2011 3483 41799 14.4%
2012 3897 46769 11.9%

出所:統計局

物価上昇が年金生活者を圧迫

賃金が上昇しているのは、物価が上昇しているためでもある。統統計局の発表によれば、昨年12月の消費者物価指数は前年同期比で2.5%の上昇であった(通年では2.6%の上昇)。商品別に見ると、食品価格が4.1%、非食品価格が1.7%それぞれ上昇しており、家計に占める食費の割合が高い低所得者層に特に大きく影響している。近年は政府の対策もあり物価の上昇はかなり抑制されている(図表3)ものの、医療費用の高騰や上昇し続ける不動産価格は年金生活者の悩みの種である。相対的に医療費の拠出が多い高齢層にとって、医療費の高騰は家計の圧迫に直結する。不動産価格が高騰している都市部などでは、不動産を購入できない若年者のために、両親が代わりに購入するということも一般的である。そのため、不動産の市況は高齢者にも無関係ではない。

図3

出所:統計局資料より作成

給付額の上昇で、年金財政が深刻化

年金給付額の上昇に伴い、年金財政の問題を懸念する声が強まっている。各地の年金基金財政は深刻な状況であり、「報告」によれば32地域のうち、2010年時点では15地域が赤字であり、その総額は679億元に達している。2011年は赤字の地域が14に減少したが、その総額は766.5億元に増加している。「報告」は、年金の個人口座の積立金が、すでに定年退職した者への支払いのために流用して消失する「空帳問題(注1)」にも言及している。消失した積立金の総額は2011年で約2.2億元、2012年で約2.6億元となっている。空帳問題の解決のために、昨年11月の三中全会では定年退職年齢の引き上げ案も提出された。

一方では、年金財政が悪化しつつあり、他方では、年金給付額が上昇しつつある。いったい、年金財政の問題をどう解決すべきなのか、現在重要な課題になっている。

参考文献

  • 中央政府網、統計局、人的資源社会保障部、中国新聞網、中国労働保障新聞網、新京報、第一財政日報、中国経済網

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