持株従業員の解雇規制など緩和
―今秋に制度導入

カテゴリー:労働法・働くルール

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  • 国別労働トピック:2013年7月

自社株が提供された持株従業員に対し、不公正解雇の申立てなど雇用法上の権利を一部放棄させる制度が今秋に導入される。企業の採用の妨げになっている雇用法制の緩和により、経済の活性化や雇用拡大を図るのが狙いだという。年内には、不公正解雇の賠償額の上限を引き下げるなど雇用審判制度でも雇用者側に配慮した制度改革が実施される。

経営側からも消極的な反応

政府は、雇用保護法制の規制緩和を成長政策の一環として位置づけており、ここ数年、各種の施策を検討、導入をはかってきた注1。持株従業員(employee shareholder)に雇用法上の権利の放棄を求める制度もその一つだ。雇用主は従業員に対して2000~5万ポンド相当の自社株式を提供、従業員が離職等に際してこれを売却する場合、売却益に係るキャピタルゲイン税が免除されるもので、従業員は株式の提供を受ける代わりに、不公正解雇の申し立て(差別による場合を除く)や解雇手当の支払いを受ける権利、柔軟な働き方の申請権、訓練休暇の取得権を放棄する。このほか、出産休暇や養子休暇、父親休暇から当初予定よりも早く復帰を望む場合、雇用主に対して通知を義務付けられる時期が通常の8週間前から16週間前に早められる。雇用主は、制度導入時に既に雇用している従業員については、持株制への参加の有無を選択させなければならないが、新たに雇用する従業員に対しては参加を義務付けることができる。

オズボーン財相は同制度の導入による効果として、従業員の忠誠心や長期的なコミットメントの向上とともに、企業による採用の妨げとなっている雇用法上の権利を緩和することで、雇用拡大や経済成長の促進が期待できるとしている。制度の適用について企業規模等の限定はないが、政府は急成長の途上にある小規模企業による利用を見込んでいる。

政府は2013年4月からの制度導入を目指して、財相の提案からほどなく「成長・基盤整備法案」(Growth and Infrastructure Bill)を議会に上程した。法案は、連立与党が過半数を占める庶民院では可決されたものの、貴族院は雇用権の緩和に係る条項の削除を求める修正案を付し、これを拒否する庶民院との間で摩擦が生じた。このため、政府は妥協案として対象者に対する手続き上の保護などを追加した。ひとつは、制度への参加を打診された労働者に対して、法律専門家によるアドバイスの無償での提供を雇用主に義務付けることだ注2。また、雇用主は株式の提供から離職時の買取までに関する条件を書面で提供しなければならない。さらに、求職者手当受給者が持株制参加を条件とする求人を拒否した場合には、制裁措置の対象とはしない注3ことを決めた。これらの妥協案を受けて、貴族院は4月末に法案を可決した。

政府案をめぐっては、法的な権利の切り下げに反対する労働側はもとより、経営側も消極的な反応を示しており、また法律関係者や持株制の専門団体からも批判的な意見が出ていた注4。例えば、政府が同制度の導入により雇用促進を見込んでいる中小企業の多くは株式を公開しておらず、このため買い取り時の株式価値の決定が難しいという問題がある。提供時に予め買い取り価格を決めておくか、定期的に株式価値の評価を受ける必要が生じるが、いずれの手法も雇用主や従業員に負担が生じるとみられる。また、キャピタルゲイン税の免除を利用した脱税を招く可能性も指摘されている。政府に経済財政見通しを提供する予算責任局(OBR)は、キャピタルゲイン税の免除による財政上の損失は将来的に年間10億ポンド、また税金対策による支払い回避から生じる損失も2億5000万ポンドに達する可能性があるとみている注5)

雇用審判制度でも企業向けの制度改正

なお、同じく4月末に成立した「企業・規制改革法」(Enterprise and Regulatory Reform Act)にも、雇用法制の規制緩和に向けて、雇用審判制度の簡素化などが盛り込まれている注6。主な内容は、不公正解雇の賠償請求額の上限を現行の7万4200ポンドから平均給与相当額(約2万6000ポンド)または12カ月分の給与のいずれか低い額にまで引き下げること、紛争の解決に和解合意(settlement agreement)注7に基づく金銭解決を奨励すること、申し立てに先立って助言・斡旋・仲裁局(ACAS)のサービスを利用することなどだ。また、安全衛生配慮義務の違反に関して労働者が民事訴訟を行う際には、雇用主の過失が証明される場合のみ申し立てを認めることとし、また雇用主には違反内容の軽重を問わず、労働者の保護に関する適切な配慮を行った旨の抗弁を行う機会が与えられる。一連の制度改正の多くは、今夏から10月にかけて導入される予定だ。

さらに、雇用審判サービスが7月末から有料化される。料金は申し立て内容に応じて2種類に区分され、未払い賃金や解雇予告手当、整理解雇手当などの請求に関するもの(レベルA)は申し立て1件につき160ポンド、審理(hearing)が行われる場合はさらに230ポンド、また不公正解雇や差別、均等賃金、内部告発などに関する申し立て(レベルB)はそれぞれ250ポンドと950ポンドとなっている。集団での申し立ての場合は人数による増額がある注8。一方、雇用控訴審判所については、控訴の申請が400ポンド、審理が行われる場合はさらに1200ポンドが課される。

参考資料

参考レート

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