「絶対的低所得層」前年度から90万人増
―物価上昇を下回る所得増が原因
雇用年金省は6月、2011年度の低所得者世帯人口を分析した統計報告書を発表した。低所得層分布と所得格差を3つの指標を使って分析しており、このうち、基準年の小売物価指数で調整した実質ベースの所得水準に基づく「絶対的低所者層」が、前年度から90万人増えた。今年度から本格化した各種の給付削減策の影響により、低所得層は今後さらに拡大すると予想されている。
「相対的低所得層」の比率は横ばい
雇用年金省が毎年公表している「平均未満所得世帯統計」(Household Below Average Income)の報告書は、各年度の名目ベースの所得水準に基づく「相対的低所得層」(平均所得額の60%未満の層)、基準年の小売物価指数で調整した実質ベースの所得水準に基づく「絶対的低所得層」(2010年度を基準とした平均所得額の60%未満の層)および所得分配の偏りに関するジニ係数の3つの主要指標などにより、低所得層と所得格差の推移をみている(注1)。このうち、相対的低所得層は980万人、人口全体に占める比率は16%で、所得水準の全般的な低迷により前年度から横ばいで推移しており、ジニ係数も同様に前年から横ばいとなった。一方、絶対的低所得層は1080万人で前年度から90万人増、比率も17%と1ポイント増加した。うち500万人以上は就労世帯(フルまたはパートタイム就労者が一人以上居る世帯)に属しており、就労者の居ない高齢者世帯(約200万人)や就労年齢世帯(失業・非労働力など、約300万人)を上回っている。また、前年度からの90万人の増加のうち、就労年齢層が60万人、児童が30万人を占め、高齢者についてはほぼ横ばいとなっている。
絶対的低所得層の増加は、長期的な景気拡大に支えられて継続的に物価上昇率を上回ってきた平均所得の伸びが、ここ2年間で急速に縮小したことによるものだ。所得増加率が物価上昇率を下回った結果、実質ベースの週平均所得額は2010年度から減少に転じ、2011年度には前年から3%減の427ポンド(注2)と、2001年度の水準まで低下した。このため、2010年度基準の低所得ラインを下回る層が増加することとなった。報告書は所得低下の要因として、不況以降の賃上げ抑制や、経済再編によって前職より低賃金の仕事に転職した層が増加したこと、また社会保障給付の引き下げを挙げている。
所得階層別の所得構成をみると、最も所得が高い上位20%では平均で8割以上が給与所得であるのに対して、下位20%では給与所得は4割弱、5割以上を社会保障給付が占めている。シンクタンクのIFSは、不況期以降2011-12年までは全体的な所得低下の影響から所得格差が縮小したが、今後は各種の給付削減策(注3)の実施により、低所得層の所得低下が予想されることから、所得格差は再び拡大し、2015年までには不況前の水準に戻るとみている。
相対的・絶対的低所得層の推移(%)
注
- 「相対的低所得」は世帯当たり週所得額(各年度の名目額、税引き後、家族構成により調整)の中央値の60%を、また「絶対的低所得」は基準年(2010年)の世帯当たり週所得額の60%をベースに小売物価指数で調整した各年の額を、それぞれ下回ることを指す。統計は、世帯単位の等価所得(家族構成を数値化し、世帯当たりの所得を調整)に基づいて所得階層に区分された各世帯の構成員数による。前者は、一般に用いられる「相対的貧困」とほぼ同様の定義だが、後者はいわゆる「絶対的貧困」(衣食住や健康に関する最低限の水準の維持が困難な貧困状態)とは異なる。ジニ係数は、所得分配の偏りに関する指標。
なお毎年の報告書では、住宅コスト分を調整した所得水準(after housing cost)の推移も分析しているが、ここでは説明を割愛する。 - 報告書は代表的なグループ(ベンチマーク)として、子供の居ないカップル世帯の数値を用いている。なお、2009年度の週454ポンドからは6%の減。
- この4月には、主要な給付の改定幅を1%に抑制する措置(通常は物価上昇率に準拠)や、住宅給付の減額(通常使用していない寝室分がある場合など)、世帯当たり給付額の上限設定(年間2万6000ポンド)など多くの制度改正が開始されているほか、障害者向け手当の受給者削減に向けた制度の切り替えも始まっている。
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=152.59円(※みずほ銀行ウェブサイト
2013年7月4日現在)
- 1ユーロ(EUR)=129.92円(※みずほ銀行ウェブサイト
2013年7月4日現在)
2013年7月 イギリスの記事一覧
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