移民流入により国内労働者の雇用が減少
―政府諮問機関レポート

カテゴリー:外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2012年3月

移民政策に関する政府の諮問機関であるMigration Advisory Committee(MAC)は1月、移民労働者の国内の労働市場への影響に関する報告書を公表した。ここ5年間で、EU域外からの移民労働者によって国内労働者の雇用16万人分が代替されたと推計している。

不況期により大きな雇用減

報告書は、移民労働者の流入による国内労働市場や公共サービス、社会への影響に関する政府の諮問を受けたものだ。このうち、公共サービスや社会への影響(注1)については、数量化も金銭化も難しいことから、データ整備などの課題を論じるにとどめている。

一方、労働市場については、1975~2010年に関する統計データによる分析の結果、期間全体では顕著な影響はみられないとしつつも、より短期の1995~2010年については、EU域外からの移民労働者の流入による国内労働者(注2)の雇用へのマイナスの影響が観察されたという。この間、100人の移民労働者の流入につき、国内労働者23人分の雇用が移民労働者によって代替されたとみられる。ただし、5年を超えて国内に滞在する移民労働者についてはこの関係は観察されず、またEU域内からの移民労働者についてもそうした影響は見られない。

報告書はこれらの結果から、1995~2010年の間に入国してイギリス国内で就業しているとみられる移民労働者210万人のうち、最後の5年(2005~2010年)分にあたる70万人の23%、すなわち16万人分の国内労働者の雇用が移民労働者によって置き換えられたと推計している(注3)。これには景気動向の影響が大きく、好況期については移民労働者全般について国内労働者の雇用への影響は見られないが、不況期については代替率が3割に上昇するという。このほか、既存の研究結果などもふまえて、国内労働者に対する移民労働者の代替効果は持続するわけではないこと、また賃金については、高賃金層における賃金水準の引き上げと低賃金層での引き下げが起きることなどを推測している(注4)。

なお、MAC報告書が紹介する既存の研究の多くは、移民労働者の流入による雇用や賃金への影響はほとんど観察されないとしており、MAC報告書はこの相違について、金融危機以降の期間を対象に含む分析の蓄積が未だ少ないことを可能性として挙げている。しかし、前後してシンクタンクNIESRが公表したレポートは、不況期を含めた国民保健加入者データ(注5)の分析を通じて、移民労働者は景気の良し悪しにかかわらず、雇用の悪化に影響を与えていないと結論付けている。

移民労働者に対する需要は減少か

政府は2011年4月から、EU域外からの移民労働者の数量制限制度を導入している。企業等からは当初、人材調達が困難になるなど経済にマイナスの影響が出るとして反対の声が出ていたが、景気回復の見通しが暗い中、移民労働者に対する需要は縮小しているようだ。例えばシンクタンクCIPDによる企業調査(注6)は、夏を境に民間企業における需要が縮小に転じたことを示している。MACが移民労働者の数量制限の経済への影響に関して9月にまとめた報告書も、その悪影響を否定している。

ただし政府の掲げる、移民の純流入数(流入数から流出数を差し引いた人数)を2014年までに数万人レベルに引き下げるとの目標は、達成されない見込みが高まっている。統計局が11月に発表した移民関連統計によれば、2011年3月までの12カ月間の純流入数は23万6000人と記録的に増加している。増分の大半はEU域外からの移民で、またほとんどが就学を理由とする入国だ。政府は、就学中・就学後の就労制限や、受け入れ先の教育機関の審査などで、さらに流入数の縮小をはかる意向を示している。

図1:地域別純流入数(千人)

図1:地域別純流入数(千人)(2000-2011年)

注:各年とも3月までの12カ月間の累積。また2011年は速報値。

出典:Provisional International Passenger Survey (IPS) estimates of long-term international migration, Office for National Statistics

図2:目的別純流入数(千人)

図2目的別純流入数(千人)(2000-2011年)

(同上)

参考資料

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