障害者「保護付き雇用」の政府保有企業、予算縮減へ
―通常の就労支援へ重心
政府は3月に、障害者をその運営工場に雇用しているRemploy(政府保有企業)の予算削減を発表した。Remployの提供する「保護付き雇用」が障害者を僅かしか雇用していないなどが理由で、削減した予算は障害者の通常の仕事に対する就労支援に充てられる見込みだ。運営工場の約3分の2が今年中に閉鎖され、1700人あまりが失職すると見られている。雇用状況が厳しい中での工場閉鎖に対し、労働組合や労働党は強く批判している。
Remployは、年間1億1100万ポンドの補助金により運営され、全国54カ所の工場で約2300人を雇用して教育機関等への家具の供給や防護服、自動車部品などの製造を行なうほか、障害を持つ求職者への職業紹介や在職者の就業維持などの支援を実施している(2010年の支援実績は20000人)。
政府は昨年、保護付き雇用を含む障害者の雇用支援事業の今後の在り方を障害者支援組織RADAR(注1)の代表を務めるLiz Sayce氏(注2)に諮問。2011年6月にとりまとめられた報告書は、保護付き雇用を廃止して、より個人向けの支援を行うAccess to Work(在職の障害者の支援プログラム)の拡充に予算を充当することなどを提言していた。Remployの提供する保護付き雇用は、障害を持つ失業者300万人のごくわずかを支援しているにすぎず、現状に即していないこと、また障害者は通常の仕事での就業を希望しており、特殊な雇用の提供は必ずしも障害者の利益にもなっていないことなどが理由だ(注3)。このため、より個人のニーズに即した求職や就業維持の支援に向けて、Access to Workプログラムを予算・内容面ともに拡充すべきである、と報告書は述べている(注4)。
政府はこの提言を受けて、2013年秋までに政府の補助を廃止することを目標に、2012年中に不採算工場を閉鎖し、その後、残る工場等についても採算性を検討する方針を決めた(注5)。ただし、障害者雇用支援のための予算3億2000万ポンドは維持するとしており、削減分の予算の一部である1500万ポンドをAccess to Workプログラムに追加して、他の節約などと併せて新たに8000人の求職・就業維持に充てる(注6)。一方、予算削減により職を失うRemployの障害者に対しては、18カ月間にわたり800万ポンド(一人当たり約2500ポンド)の予算を措置、個別の再就職支援を行なうとしている。
Remployは政府の方針を受けて、国内54工場のうち36工場を閉鎖する案を政府に示した。工場の閉鎖により1752人が失職する見込みだが、Remployは今後のコンサルテーションを通じて、出来るだけ解雇を回避する方策を検討するとしている。
Remployの工場閉鎖には、労働組合が強く反対している。直接の対象となる障害者等を組織するGMBなどのほか、ナショナルセンターのTUCも、失業状況がますます悪化する中で、特に仕事を得ることが難しい障害者を「お払い箱」にすることを強く非難している。また野党労働党も、現在実施すべきプランではないと批判している。
注
- 組織改編により、2012年1月からDisability Rights UK。
- 同氏は、障害者の権利保護に関する公的組織(Disability Rights Commission-2007年に人権・均等関連の組織と統合され、現在は平等人権委員会(EHRC))の政策広報部門の責任者などを務めた。なお、同氏は以前よりRemployの保護付き雇用の廃止を主張していた。
- 報告書は、「ほぼ全ての工場が赤字で、雇用されている障害者の約半数には仕事がない」と述べている。
- このほか、限定的な障害者を対象とした一部のプログラムに対する補助等の廃止や、より個別的な支援を必要とする障害者(あるいはその雇用主)向けに、資格取得などを通じた就業支援を行なうWork Choiceプログラムとの統合などを報告書は提言している。なお、Sayce氏の改革案をめぐって政府が実施したパブリック・コンサルテーションに寄せられた意見のほとんどは、障害者個人の支援への転換に賛同していたという。
- 政府によれば、工場部門全体の赤字額は2011年で6830万ポンド。
- 障害者一人当たりの雇用には、年間2万5000ポンドを要するが、Access to Workを通じた支援では2900ポンドにとどまる。
参考資料
参考レート
- 1英ポンド(GBP)=131.53円(※みずほ銀行ウェブサイト
2012年3月29日現在)
2012年3月 イギリスの記事一覧
- 最低賃金、若者向けは据え置きに―雇用に配慮、制度導入後で初めて
- 若者向け就業支援策に対する批判
- 障害者「保護付き雇用」の政府保有企業、予算縮減へ―通常の就労支援へ重心
- 移民流入により国内労働者の雇用が減少―政府諮問機関レポート
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