「将来雇用制度」と「世代契約制度」を発表
―政府、新たな若者雇用対策
政府は8月末から9月初めに、2つの若年者雇用対策を打ち出した。一つは、「将来雇用制度」の創設で、若年者(主に16歳以上25歳未満)のうち、低学歴者などの就職困難者を雇用した非営利部門や医療・福祉などの社会的有用企業に対し、賃金の4分の3を助成するものである。もう一つは、「世代契約制度」と呼ばれ、若年者採用と同時に高齢従業員の雇用を継続した従業員300人以下の企業に対して助成金を支給する制度である。両世代の就業の促進とともに、技能伝承も目的としている。
若年者、5人に1人が失業
労働省によると、フランスの失業率(15歳以上、本土のみ)は、2000年以降、7%台から9%台で推移している。特にリーマンショック以降には、2009年第4四半期には9.5%に達していた。その後、一時改善したものの景気後退やユーロ危機の影響などで再び悪化に転じた。2012年第2四半期には9.7%(暫定値)となり、1999年第3四半期の9.9%以来の高い水準になっている。とりわけ、若年者(15歳以上25歳未満)の失業率は、2012年第2四半期に22.7% (暫定値) と高い水準にあり、5人に1人以上の若者が失業者ということになる。このような状況のため、オランド大統領は、今年春の大統領選の公約で、若年者の雇用状況の改善に取り組むとしていた。
賃金の75%、3年助成―「将来雇用制度」
政府は、8月29日の閣議で「将来雇用制度」の創設を決定した。これは、困難な状況にある若年者を、非営利部門や社会的に有用な産業で雇用し、その賃金の75%を国が助成する制度である(注1)。この制度は、就職が困難な状況にある若年者に就業の機会を与え、職業経験を積み職業能力を向上させ、将来的に安定した職を得ることを目的としている。若年者を採用する場合、原則としてフルタイムで無期雇用契約か、3年間の有期雇用契約、または3年まで更新可能な1年間の有期雇用契約を締結しなくてはならない。国は原則として、「将来雇用制度」で採用された若年者の給与(注2)の75%を、3年間に渡って助成することにしている。
この「将来雇用制度」では、16歳から25歳の若年者のうち、一切の学業修了証や資格を持たない者で、とりわけ、困窮都市地区(ZUS)(注3)や農村・過疎地区など就職の困難な地区(失業率の非常に高い地区)に住む者を、最優先の対象としている。また、職業適性証(CAP)や職業学習免状(BEP)(注4)、バカロレア(高校卒業及び大学入学資格を意味する免状)を所持するものの、就職の困難な地区に居住しているために安定した職業に就くことの出来ない若者もその対象となる。さらに、職業能力が高くなく就職困難な状況にある身体障害者もその対象となる(身体障害者の場合は、30歳以下)。
この「将来雇用制度」により若年者を採用できるのは、原則として非営利部門(地方公共団体や病院、NPOなど)である。しかしながら、社会的に有用性のある産業や継続的な雇用の見込める産業(例えば、エコ関連や情報技術、医療・介護・福祉、レジャー・観光など)の場合は、民間企業でも対象となる。
また、これに準ずる制度として「教員・将来雇用制度」も導入することとなった。これは教職を目指して学業を継続する意思のあるものの、経済的な理由から学業の継続が困難な学生を、中学校や高校で教員補助として3年間採用するものである。この対象となるのは、原則として学士課程2年目の奨学生で、教員採用試験の受験を約束しなければならない。この「教員・将来雇用制度」では、学業が疎かにならないように、就業時間は最高でもハーフタイムに限られる。この「教員・将来雇用制度」の適用者は、報酬と奨学金の合計で月900ユーロ程度の収入を得ることができるようになる見込みである。
政府は「将来雇用制度」による就業者数を、初年度の2013年に10万人(「教員・将来雇用制度」も含む)、2014年以降は15万人(同)と見込んでいる。(「教員・将来雇用制度」では、2013年に6000人、その後増加し、2015年には18000人を見込んでいる)。国の支出額は、当初の3年間で23億ユーロを見込んでおり、2013年分としては5億ユーロを予定している。
この制度創設に関して、野党のうち右派や中道政党からは疑問視する声が上がっている。クリスチャン・ジャコブ議員(国民議会・最大野党UMP(国民運動連合))は、「職業訓練が盛り込まれてないばかりか、企業の競争力強化には繋がらない。(1990年代にジョスパン内閣が行った)『若年者雇用制度』(注5)の再利用」などと非難している。その一方で、フランス国鉄(SNCF)のギヨーム・ぺピー社長が、9月21日、500人を「将来雇用制度」を利用して採用する意向を明らかにするなど、制度の創設を見越した動きも出てきている。
「将来雇用制度」創設法案は、9月10日から国会での審議が始まり、13日には国民議会(下院)で可決され、元老院(上院)での審議は9月24日から始まった。政府は早ければ今年11月1日、遅くとも来年1月1日の施行を政府は目指している。
技能継承の狙いも―「世代契約制度」
「将来雇用制度」に引き続き、9月5日の閣議で「世代契約制度」を創設する方針を、明らかにした (注6)。この「世代契約制度」は、若年者を無期雇用契約で採用すると同時に、企業内の高年齢者を、その指導的役割を果たす社員として継続雇用することを目的とする。若年者と高年齢者の就業を同時に促進させることとともに、高年齢の熟練労働者から若年者への技能の伝承なども目的としている。
政府は従業員数300人未満の企業に対して、一定の助成金を支給することとしている。具体的には、無期雇用契約で採用された若年者の賃金助成として3年間、継続雇用された57歳以上の高年齢者にかかる賃金の助成として定年までの間、それぞれ年間2000ユーロ程度を支給することを想定している。また、従業員数300人以上の企業では賃金助成の対象としないものの、「世代契約制度」に関する労働協約を締結することにより、社会保険料の軽減措置を維持することとしている。現在、最低賃金SMICの1.6倍以下の賃金に掛かる社会保険料(医療、年金、家族手当制度)の使用者負担が、一部又はほぼ全額免除されている措置を継続するというものである。反対に「世代契約制度」に関する労働協約を締結しない場合、すなわち雇用主が、若年者の採用と高年齢者の継続雇用に消極的な場合は、社会保険料の軽減措置が受けられなくなる。政府はオランド政権の任期中(2017年まで)に、50万件の世代契約が締結されると見込んでいる。
「世代契約制度」の詳細は、政府の作成した指針に基づき、労働組合と使用者団体との協議を経て決定するとしている。労使の交渉は、9月21日から始まった。その合意を受けた後、関連法案が作成される予定である。政府は、この「世代契約制度」の来年早々の施行を目指している。
注
- オランド大統領の選挙公約の第34項で、この制度の創設を明記していた。
- ここにおける賃金の75%とは、法案の内容から、一般的には最低賃金SMIC相当額の報酬(グロス)の75%であると解釈できる。フランスでは、原則として(研修生の報酬などの例外を除き)、賃金労働者には、少なくとも最低賃金SMICの支払が義務付けられており、労働省のデータによると、賃金労働者の11.1%(2011年12月)が最低賃金SMICで就業している。職業経験がほとんどなく、職業能力が低い若年失業者(求職者)に対して、最低賃金SMICを超える賃金を支払う使用者は非常に少ないと考えられる。このことから「将来雇用制度」で採用される若年者の賃金のほとんどは、最低賃金SMICの水準であり、助成される額は概ねSMICの75%であると推察できる。
- 困窮都市地区(ZUS:Zones Urbaines Sensibles)は、様々な社会問題を抱え、その解決に優先的に取り組む地区である。この地域の失業率は、それ以外の地区と比べて、非常高い。フランス労働省の報告書(« Emploi et chômage des 15-29 en 2009 », Dares Analyses, 2010-072, Dares, Octobre 2010)によると、フランスにおける2009年の若年者(ここでの若年者は15歳以上30歳未満の若年者)の失業率は16.9%であったが、困窮都市地区の若年者(同)の失業率は29.5%に上った。学歴や出自(移民家庭出身かどうかなど)が同等の者でも、困窮都市地区の失業率は、それ以外の地区より高かった。また、フランス労働省の別の報告書(« Habiter en zus et être immigré : un double risque sur le marché du travail », Premières Informations Premières Synthèses, 2009-48.1, Dares, Novembre 2009)によると、困窮都市地区ZUSに居住していることは、学歴が同じでも、就業への足かせとなり、失業のリスクが上昇する。換言すると、困窮都市地区居住者に対する就職差別が存在することを暗示している。
その他詳細については、海外労働情報フランス2011年11月を参照。 - 職業適性証(CAP:Certificat d'aptitude professionnelle)や職業学習免状(BEP:brevet d'études professionnelles)は、職業高校などで取得できる資格である。
- 「若年者雇用制度(Emplois Jeunes)」は、1997年末に、若年者の雇用を促進させるため、社会党のジョスパン内閣が導入したものである。しかしながら、2002年の政権交代で雇用連帯相に就任したフィヨン氏は、この制度を段階的に廃止した。この制度の対象は、18歳以上26歳未満の無職の若年者や30歳未満の障害者、26歳以上30歳未満で失業保険給付の受給権を持たない無職の者であった。契約締結可能な雇用主は、公共団体(行政、教育機関など)や公共サービス企業(国鉄、郵便局、電力公社、道路公団など)、共済組合、非営利団体NPOなどであった。また、この制度の適用条件は、原則としてフルタイムの就業で、5年または無期の雇用契約、SMIC以上の賃金の支払、生活に密着している新しい(需要が増えている)サービスまたは全く新しい職種(教育、健康・保健、環境、文化、運動・余暇など)などであった。雇用主に対する優遇措置としては、1雇用に対して、年間15924.55ユーロの国による財政支援が、5年間に渡って受けられるというものであった。
- オランド大統領の選挙公約の第33項で、この制度の創設を明記していた。
参考
- Poursuite de la hausse du taux de chômage au deuxième trimestre 2012
, INSEE
- MES 60 ENGAGEMENTS POUR LA FRANCE
(オランド大統領の60の政権公約)
- 8月29日の閣議
- La SNCF recrute 10 000 personnes en 2012 dont 500 emplois d'avenir, L'Expansion
, 24/09/2012
- 9月5日の閣議
(ホームページ最終閲覧:2012年10月1日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=100.22円(※みずほ銀行ウェブサイト
2012年9月28日現在)
2012年10月 フランスの記事一覧
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