移民出身者が多い困窮都市地区で失業率が上昇
―脆弱都市地区観測所報告

カテゴリー: 外国人労働者

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  • 国別労働トピック:2011年11月

脆弱都市地区観測所(Onzus :Observatoire national des zones urbaines sensible)が11月発表した報告書によると、困窮都市地区(Zus : Zones Urbaines Sensibles)の失業率が20.9%に達し、フランス全体の平均の2倍以上となっていることがわかった。この地区に居住する者(18歳~50歳)のうち、52.6%が移民出身者で、またその半数以上をマグレブ系(北アフリカのモロッコ・アルジェリア・チュニジアの3国=フランスの旧植民地)出身者が占める。

若者と男性の失業が増加

脆弱都市地区観測所(Onzus)は困窮都市地区(Zus)の社会経済状況を調査し指標の推移を監視する公的な機関である。

Onzusの2011年版報告書によると、2010年、Zusの失業率(15歳から59歳)は前年より2.3ポイント上昇し20.9%に達した。労働力人口の5人に1人以上が失業中。これは2003年以来最も高い水準である。また、周辺の都市ユニットにおける失業率(10.3%)との差も2003年以来最大となっている(図1)。失業率の全体的上昇は、主に若年層が主導しており、やはりこの層が経済危機の影響を最も被っていることを示している。若年者を除くと、失業率は概ね平均しているが、資格レベルが低い者(24.4%)、ヨーロッパ以外の国からの移民(26.7%)などがとくに高い。2009年から2010年にかけて失業率が最も上昇したのもこのカテゴリーの人々であった。男女別でみると、男性の方が失業率上昇の度合いが高い(前年比3.0ポイント上昇)。女性ではむしろ非労働力人口が増えており(前年比2.6ポイント上昇)、Zusの25歳から29歳の女性の3人に1人が非労働力となっている。

居住地別失業者の推移(15~59歳、2003~2010年)

居住地別失業者の推移(15~59歳、2003~2010年)

出所:Insee継続労働調査

多くが貧困から抜け出せない

この地区では、失業率の上昇がストレートに貧困につながる。2009年、Zusの住民のうち貧困ライン(月額954ユーロ)以下で暮らす人の比率は32.4%であり、Zus以外の2.7倍となっている。貧困は所得条件のある制度の受益者からも観察することができる。Zusに居住するCaf(家族手当金庫、注1)受給者のうち30%がRSA(積極的連帯所得手当、注2)の受給者であり、74%が住宅援助を受給している。(Zusのある他の都市圏ではそれぞれ19%と61%)。さらに、Zusの低所得Cafの受給者はZus以外の低所得Cafの受給者よりも収入に占めるCaf給付の割合が大きい。さらに、Zusでは被保険者の5人に1人がCMUC(補足普遍的医療保障、注3)の適用を受けている。これはZus以外の2.4倍である。貧困は若年者にも及んでおり、2010年には実に18歳未満の3分の1にCMUCの保障が適用された。

統合と拒絶感のはざま

失業率の高さ、貧困、これらZusの特徴は、この地区に移民出身者(移民者またはその子孫)が多いことが背景となっている。Zusに占める移民(外国生まれで出生時は外国籍)と移民の子孫(少なくとも両親のいずれかが移民)の割合は52.6%と、18歳から50歳の住民の半分以上を占める。また、その半数以上がマグレブ系(北アフリカのモロッコ・アルジェリア・チュニジアの3国=フランスの旧植民地)出身者である(注4)。パリ都市圏のZusでは、18歳から50歳人口の64%にも及ぶ。Zusで生活する移民の子孫の比率は全人口に占める移民の子孫の比率の倍であり、移民の比率は約3倍となる。

移民は他の住民よりも平均年齢が高いが、移民の子孫は30歳未満の比率が非常に高い点が異なる。その結果、移民の子孫では学生の比率が全人口より高く、そのため移民の子孫の非労働力率は比較的高くなっている。非労働力率は移民も移民の子孫も同じだが、その内容が異なる。移民の非労働力率は、特にZusでは労働市場から撤退している場合であるが、移民の子孫の非労働力率はむしろ学生の比率が高い。

移民と移民の子孫の失業率はそれ以外の人口の失業率よりも全体的に高い。さらに、Zusで暮らしている移民と移民の子孫はZus以外の地区で暮らしている移民と移民の子孫よりも失業率が高い。就業している移民と移民の子孫では、平均賃金がそれ以外の人口よりも低い。移民と移民の子孫が就いている仕事のタイプもそれ以外の人口が就いている仕事のタイプと異なり、女性の場合も男性の場合も、ZusでもZus以外の地区でも、ブルーカラー労働者の比率が高く、管理職の比率が低い。

移民の子孫の3分の2と移民の3分の1の配偶者も移民か移民の子孫である。この比率は、Zus以外よりもZusの方が高いが、これは必ずしも同族結婚(注5)の傾向が強いことを証明しているわけではなく、移民以前の婚姻状況と共に、配偶者を自分が属する社会階層から選ぼうとする傾向がより大きいことが影響している。

移民と移民の子孫の約20%は、皮膚の色、国籍または出身を理由に不当な扱いや差別を受けたと考えている。この比率はZusでもZus以外でもほぼ同じ。生活している場所が理由で差別を受けたことがあると考えているZusの住民は3%に過ぎないが、これはZus以外の住民の3倍である。居住地を理由とする被差別感は、出身や肌の色を理由とする被差別感と対になっているようであり、人種差別を受けたと思っている者の中で、居住地による差別を受けたと考えている者が人種差別を受けたと思わない者の17倍に達する。

ZusでもZus以外でも、移民の子孫の約10分の9が「自分はフランス人だと感じる」ことに同意しているが、「人からフランス人だとみられている」ことに同意するのは、Zusでは57%、Zus以外では79%である。この拒絶感は被差別感との相関関係が大きいことを示している。

参考レート

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