セクハラに関する改正法が公布
―規定を明確化、罰則も強化
セクハラの定義の明確化を目的とする改正法が7月31日に国民会議において成立し、8月6日に公布された。去る5月4日の憲法院の判断によって、セクハラ成立の要件に関する規定が曖昧との理由から違憲判断され、セクハラを処罰する規定がないまま法的に空白の期間となっていた。改正法は8月7日に官報掲載され、8月8日以降の行為に対して新しい規定が適用されることになった。
セクハラの定義の変遷
フランスにおけるセクハラの定義は以下のような変遷をたどっている。
1992年7月22日の法律で初めてセクハラ罪を規定し、「ある人物が性的な快楽を得る目的で、自らの職務によって得られる権限を濫用し、命令、脅迫又は強制という手段を用いて、他者に対して執拗に嫌がらせを行う行為」と定義した(刑法典第222-33条)。その際、罰則は「1年以下の拘禁刑及び1万ユーロ以下の罰金を科す」というものであった。1998年6月17日の法律では「重大な圧力」の文言が加えられ、「ある人物が性的な快楽を得る目的で、自らの職務によって得られる権限を濫用し、命令、脅迫、強制又は重大な圧力という手段を用いて、他者に対して執拗に嫌がらせを行う行為」と修正された。さらに、2002年1月17日の社会近代化法(179条)の成立を契機に、刑法典のセクハラに関する規定は再び修正され、権限の濫用とセクハラの手段に関する詳細な文言、つまり「命令、脅迫、強制又は重大な圧力という手段を用いて」という文言が削除された。この改正に伴って罰則は「1年以下の拘禁刑及び1万5000ユーロ以下の罰金を科す」と修正された。
規定が曖昧との違憲判断
憲法院は2012年5月4日、何がセクハラによる刑法違反行為に当たるか明確に定義する必要があるとして、旧規定は違憲との判断を下した。事の発端は、ローヌ県選出の元国会議員ジェラール・デュクレ氏(独立共和党)がセクハラの定義が曖昧すぎるため、いか様にも解釈できて判事が越権できるとして、憲法院に審査請求を提訴したことによるものである。デュクレ氏は、ヴィルフランシュ市役所の助役時代に3人の女性職員に対する行為がセクハラと訴えられた。その結果、2011年3月、罰金5000ユーロの判決が下っていた。
厳格化された改正法の内容
2012年8月6日法律では、「ある人物に対し、性的な暗示を含む言葉又は行為を繰り返し強いる行為であり、それらの言葉又は行為は、その人物を傷つける、又は侮辱するものであることから、その人物の尊厳を侵害する、又はその人物に対して威圧的な、敵対的な若しくは侮辱的な状況をつくるものである」と定義されている。また、「繰り返す行為がなくとも、加害者本人のためであれ、第三者のためであれ、実際に又は明らかに性的な行為を行う目的で、あらゆる形態の重大な圧力を用いる行為」もセクハラとみなされる。
定義の明確化とともに罰則が厳格化され、「1年以下の拘禁刑」が「2年以下」となり、1万5000ユーロ以下の罰金」が「3万ユーロ」となった。また、セクハラ行為が以下の条件で行われた場合、処罰はより重いものとなり3年以下の拘禁刑及び4万5000ユーロ以下の罰金となる。
- 職権の濫用により行われた場合
- 15歳未満の未成年に対して行われた場合
- (年齢、病気、身体障害、肉体的若しくは精神的障害、又は妊娠によって)特に脆弱であることが明らかである、又はそれを加害者が承知している者に対して行われた場合
- 経済的・社会的な立場が不安定なために特に脆弱である、若しくは依存していることが明らかである、又はそれを加害者が承知している者に対して行われた場合
- 加害者又は共犯者として行動する複数人によって行われた場合
ただ、改正法の問題点を指摘する声もある。国民議会での審議の中で中道グループ、民主独立連合(UDI)は「セクハラへの罰則は窃盗より軽い」と量刑引き上げが不十分だと批判している。
参考資料
- セクハラの定義の変遷について(フランス政府ホームページ)
- 1992年7月22日の法律
- 1998年6月17日法律
- 2002年1月17日社会近代化法
- Harcèlement sexuel : les Sceaux dans le vide, Libération, 21 mai 2012
- Le harcèlement sexuel examiné par le Conseil constitutionnel, Le Monde, 18 avril 2012
- La loi sur le harcèlement sexuel n’est plus, Le Figaro, 4 mai 2012
- 新しい法律の内容(1)(フランス政府ホームページ)
- 新しい法律の内容(2)(フランス政府ホームページ)
- Harcèlement: texte adopté à l'Assemblée, Le Figaro, 25 juillet 2012
- 山崎文夫(1994)「フランスのセクハラ法」『比較法制研究』国士館大学比較法制研究所、17号、pp. 47~71
- 大和田敢太(2006)「労働関係における『精神的ハラスメント』の法理:その比較法的検討」『彦根論叢』滋賀大学経済学部、第360号、pp. 69~90
(ホームページ最終閲覧:2012年10月9日)
参考レート
- 1ユーロ(EUR)=101.64円(※みずほ銀行ウェブサイト2012年10月9日現在)
2012年10月 フランスの記事一覧
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